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おいしさが見える?アプリ登場!

スーパーの売り場にならんだトマトやリンゴ。1つ選ぶときに、どれがおいしいだろうかと、手にとったり色や形をよく見たりしていたことはありませんか? でも実際に食べてみると、甘くなかったなんていうこともありますよね。もし、野菜や果物のおいしさが食べる前にわかったら…。まだ一部の野菜や果物ですが、それを可能にしたアプリが開発されました。生産から流通まで農産物の世界ががらりと変わるかもしれない、この技術。一体どんなものでしょうか。(山形局記者 新藤東永)

おいしさが見える?

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6月下旬の土曜日。福島県内にあるスーパーのトマト売り場に大きなのぼりが掲げられました。

「おいしさが見えるアプリ 実験中」
タブレット端末に入っているアプリを使って撮影すると味がわかるという技術を、買い物客に体験してもらおうというのです。

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トマトを撮影するだけで、甘み・塩味・酸味・苦み・うまみの「味の5大要素」を表すグラフが瞬時に現れます。見た目だけで、味がわかるという仕組みです。

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「野菜売り場で悩まなくてもいい」「味がわかると献立のイメージもわきやすい」と買い物客の反応も上々です。

ヒントは“見えない色”

見た目はどれも同じトマト。どうやって味を見極めるのでしょうか。

このアプリを開発したのは、福島県のベンチャー企業「マクタアメニティ」と、食品化学が専門の山形大学の野田博行准教授です。

野田准教授は、肉眼では認識できない野菜の色合いを分析することで、野菜の微妙な味の違いがわかるといいます。

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例えばトマト。一見すると、その色は赤に見えます。しかし実は、トマトの色の中には青や緑が含まれているのです。

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野田准教授はこの点に着目しました。野菜を撮影した画像を特殊なソフトウエアを使って赤・青・緑の3色に分解し、それぞれの色の濃淡を解析しました。その“色データ”と、甘み・塩味・酸味・苦み・うまみを測定した“味データ”を組み合わせることで、この色だとこの味になるという、色と味の関係を突き止めたのです。

これまでに蓄積した研究データは3万件。これを基に、AI=人工知能を活用して解析し、きゅうりやぶどうなどの野菜と果物16種類のおいしさがわかるようになりました。

《アプリがおいしさを判別できる果物・野菜》

きゅうり・ぶどう・いちご・りんご・アスパラガス・はくさい・さくらんぼ・トマト・ミニトマト・小松菜・ほうれんそう・かぶ・ブロッコリー・キャベツ・レタス・にんじん

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野田准教授は「アプリを使えば、今まで熟練した人たちが手に入れてきた“目利き力”をふつうの人でも手に入れることができる。価格設定の根拠としてアプリが使われる可能性があり、生産から流通、そして消費の仕組みに変化をもたらすのではないか」と話しています。

「味の保証書」に

食べなくても味がわかるという、このアプリ。業務用としてこの春から実用化され、生産現場などで導入され始めています。

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山形県寒河江市のさくらんぼ農家、高橋彦太さん(35)。高級品種の佐藤錦をはじめ、品質の高いさくらんぼを出荷しようと、栽培管理には細心の注意を払ってきました。しかし、一定の割合で品質のよくない粒ができてしまうことは避けられません。

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箱詰めの時に、できるかぎり取り除く努力はしているものの、「色が赤くても、酸味もなければ甘みもないようなさくらんぼがたまにある(高橋さん)」など、見た目だけでは判断が難しい場合も少なくありません。

高橋さんの農園では、500グラム1パックで1万円の高級品も出荷しています。味にムラがあれば、これまで培ってきた顧客の信用を失うおそれがありました。
一方、味見はもとより、出荷するさくらんぼを指などで触れることは品質の低下につながるためできず、悩みを抱えていました。

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そんな時、知り合いの紹介をきっかけに、このアプリを知り、さっそく使い始めました。パック詰めしたさくらんぼをタブレット端末で撮影し、画面上で粒を選んでタッチすれば、1粒1粒の味がわかります。果実に触れなくても、味が把握できるため、品質に自信を持てるといいます。

ゆくゆくはアプリの測定結果を“味の保証書”代わりにして、品質のよさを取引先にPRしたいと考えています。

高橋さんは「漠然としていたさくらんぼの味の評価が、糖度が高いからそれを保証できますとか、数字やグラフにして生産者も取り引き先も確認できるというのは大きなメリットです。これまで評価されなかったおいしさを説得力ある形で取引先に伝えることで、価格面でも付加価値をつけて販売ができる」と期待しています。

スーパーの売り場が変わる?

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アプリの使い方次第で、農家は品質や味をもっと前面に打ち出した農産物の出荷も可能になります。ただ、味については、甘さだけでなく酸味や苦みが好きな人など好みは人それぞれ。それだけに、アプリを開発した野田准教授は、消費者の多様なニーズに対応した“オーダーメードの野菜づくり”に取り組む時代になる可能性があると指摘しています。

一方、冒頭のスーパーのトマト売り場で、このアプリの実験を行っていたイオングループの柳谷真也さんは「これまでできなかった味の情報を伝えることで、商品価値も高まる」として、消費者の商品の選び方も変わる可能性があると期待しています。

アプリは、太陽の光や蛍光灯など光の加減によって色の判別が違ってくるということで、開発しているベンチャー企業などでは、一般の人がスマホでも利用できるよう、補正技術などの研究を続けています。

「もしかしたら、野菜だけでなく、ゆくゆくはお肉や魚の味も…」スーパーで取材を終えたあと、店内に向いたスマホのレンズ越しに、がらりと変わる未来の売り場が見えたような気がしました。

新藤 東永
山形局記者
新藤 東永
新聞社を経て
平成18年から
米沢支局などで勤務
現在は県政・大学取材を担当