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日本の教育を変える? “エドテック”

「エドテック」(EdTech)という言葉をご存じでしょうか。Education(教育)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語です。金融のフィンテック、農業のアグリテックなどと同じように、ITなどとの融合でその分野に革新を起こそうという取り組みです。教育の在り方を大きく変えるものとして、いま世界中で注目を集めています。
(エルサレム支局記者 澤畑剛 帯広局記者 加藤誠)

“IT先進国” イスラエルで広がる「エドテック」

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ITで知られる中東、イスラエルではエドテックの活用が広がっています。

イスラエルの小学校を訪れると、子どもたちがゲームを楽しむようにプログラミングを学んでいました。

使われていたのはイスラエル国内の80%の小学校で導入されているプログラミングの学習ソフト「コードモンキー」です。

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アニメのサルを動かし、好物のバナナにたどりつかせるというもので、ゲームの要素を取り入れて開発されました。

子どもたちはバナナまでの歩数や進む方向を、数値にして式のように打ち込んでいき、この式をくみ立てることでプログラミングの基礎を学ぶことができるというソフトです。

教師もネットワークを介して子どもたち一人一人の進み具合を把握し、アドバイスできるということで、これまでに中国語やロシア語など15の言語に翻訳されているということです。

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イスラエルのソフト開発会社 ジョナサン・ショーCEO

「ビジネスのやりかたも旅行のしかたも、すべてがテクノロジーのおかげで劇的に変化した。こうしたテクノロジーは教育を変えるチャンスをもたらしている」

日本でも導入の動き

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この学習ソフトは日本でもすでに30校が導入を始めています。

静岡県西伊豆町にある田子小学校は、6月から試験的に授業に取り入れました。

子どもたちは1人に1台割り当てられたパソコンを使って自分のペースで学習していき、うまくいかないときには、自動的に出されるヒントを参考にプログラミングを学んでいました。

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子どもたちに感想を聞くと「パソコンのほうが、自分のペースでできるからいい」「普通の勉強だと、ただノートとかに写すだけだから、パソコンのほうが身につく」などと話していました。

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平間誠二校長

「子どもたちの学力からすると難しい内容だと思っていたが、どんどん解いていてびっくりした。達成感が得やすいようだ。正式採用できるよう、町側と話し合っていきたい」

教える側は効率化

エドテックは、教師の働き方を変えることも期待されています。

茨城県の石岡商業高校では、去年から日本の情報サービス大手が開発したエドテック教材「スタディサプリ」を導入し、英語、数学、国語の宿題に活用しています。

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教材はスマホで利用できますから、生徒は帰宅途中のバスの中など、いつでもどこでも自分の空いた時間で宿題ができます。

一方で、教師には生徒がいつ、どんな学習をしたのか、進み具合はどうか、などがデータとして送られます。

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例えば宿題として出された小テストでは、すべての問題を正解するまで何回かかったのか、繰り返し間違えたのはどの問題なのか、などがわかり、生徒の苦手なポイントを把握することができるようになっているのです。

補習のための講義動画、レベルに合わせた小テストを配信することもでき、学習の質が高まることが期待されています。

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また、この教材の導入で、放課後に行っていたテスト作りや採点の手間がなくなり、生徒と触れあう時間が増えたということです。

さらに学校外での生徒の勉強のしかたも把握できるようになったことで、生活指導にも活用しているといいます。

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山本達也教諭

「宿題をいつやってるかがわかるので、その前後の学校外の生活の話題を聞きやすくなり、生活指導にも役立てることができるかなと思う」

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教材を開発したリクルートマーケティングパートナーズ 山口文洋社長

「エドテックの特徴は、ICTを使って、英語、数学、理科、社会という基礎知識教育の生産性、効率性を上げていくことだ。エドテックの活用で、時間を創出できれば、ディベートのような学校という場所の強みが生かせる授業、指導にも多くの時間を充てられる」

アメリカと中国がけん引するエドテック

エドテックは世界各国で普及が進んでいます。

2020年の市場規模は2015年の2倍、日本円で11兆円を超えるという推計もあるほどです。

中でも、普及がめざましいのがアメリカと中国です。両国はIT人材の育成や教育格差の解消を目的に導入を進めています。

アメリカは2012年からオバマ前政権がエドテック普及を後押しし、公立の小中学校の88%にWiFiを整備。小学校でプログラミングの授業も行っています。

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教育用コミュニケーションロボット導入の幼稚園(中国 上海)

中国も2015年に李克強首相がエドテックの推進を打ち出し、日本円で年4兆円規模の予算を投じて教育現場のWiFi整備を進めています。

中国が特に力を入れているのがAI=人工知能に関する学習で、ことし9月から全国の高校でAIの基礎を学ぶカリキュラムが導入される予定です。

日本で普及は進むのか?

日本でもエドテックは家庭学習や授業の補助教材という形で広がりつつあります。

さらに、文部科学省は今後、指定の教科書を使う義務がある国語、数学、英語などの授業にも本格的に導入するため、実証研究を進めていくことにしています。

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講義の動画

一方で、導入には課題もあります。

まず、パソコンやタブレットにはじまって、データをやり取りするためのWiFi整備が必要になります。

また、パソコンなどで1人で学ぶことが多くなるわけですから、ソフトの質はもちろん、心身の発達への影響を検証することも重要です。

さらに、いつ、どんな勉強をしたのか、理解にどの程度の時間がかかったのかなどのデータは、学習を進める上では有効ですが、個人情報ですから、取扱や共有の在り方は慎重に検討する必要があります。

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今回、取材を通じて、エドテックには教育の在り方を変えるインパクトがあると実感しました。

活用にむけては、指摘したような課題に向き合うとともに、ITやAIで社会が変わる中で、どのような教育を目指すべきかという、そもそもの議論も深めることが必要だと思いました。

澤畑 剛
エルサレム支局記者
澤畑 剛
宮崎局をへて国際部と経済部
中東の支局駐在は3か所め
加藤 誠
帯広局記者
加藤 誠
平成21年入局
経済部で情報通信等を担当
今月から帯広局