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ケンケン漁の危機 いま海で何が

「ケンケン漁」という言葉を聞いたことはありますか?和歌山県南部で古くから行われている、擬似餌を使ってカツオを釣る漁のことです。日本人が大好きなカツオ。長年にわたって地域の暮らしを支えてきましたが、ことしは、過去に例がないほどの深刻な不漁に見舞われています。海で何が起きているのでしょうか。(和歌山放送局 南紀新宮支局記者 平山明秀)

カツオの「ケンケン漁」

和歌山県南部の串本町などでは、黒潮に乗って紀伊半島沿岸にやってくるカツオを擬似餌を使って釣る「ケンケン漁」が盛んです。

明治時代にハワイに移住した串本町の漁師が、後に地元に持ち帰ったとされています。船の両側に固定した2本のさおで擬似餌を走らせながらカツオを釣り上げるのが特徴で、この独特の仕掛けをハワイの言葉で「ケンケン」と呼ぶことから名前が付いたと言われています。

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釣れたカツオは一匹一匹、丁寧に生け締めにされ、高い鮮度を保ったまま出荷されます。ケンケン漁と同じカツオ漁は、高知県など他の地域でも行われていて、一部では和歌山県から伝わったという話が残っています。

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過去最悪の水揚げ

この「ケンケン漁」。毎年、3月から6月ごろまでがシーズンで、20年ほど前の最盛期には、およそ2000トンの水揚げがありました。

しかし、ことしの水揚げ量は5月末まででわずかに56トン。過去最も少ない、深刻な不漁となっています。

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50年以上、「ケンケン漁」一筋の大ベテラン、杉本武雄さんは「私自身の経験でも、ここまでの不漁は初めて」と話します。実際、私が取材で杉本さんの船に乗った6月上旬には、7時間ほどの漁で、水揚げできる大きさのカツオは5匹しか釣れませんでした。

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杉本武雄さん

不漁の原因は?

どうしてここまで、カツオが釣れなくなったのか。その最大の原因が黒潮の大蛇行です。

ふだん紀伊半島の沖合20キロから30キロのあたりを流れている黒潮ですが、去年8月から始まった大蛇行で、100キロメートル以上南に離れてしまったのです。このため、カツオの漁場も遠く離れてしまいました。

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遠い漁場まで行くことは可能ですが、近年、熱帯の海域でインドネシアやフィリピンなどの国がカツオを取り始め、カツオの数自体が減っていることもあり、遠くまで行って漁をしても燃料代が回収できないのです。杉本さんは「例年、シーズンには毎日のように船を出すが、ことしは10回くらいしか漁に出ていない」と話しています。

大蛇行 今後の見通しは?

漁師を悩ませる黒潮の大蛇行。大蛇行が起きる原因そのものは、よく分かっていませんが、これまでにも何度か起きていて、中には5年近く続いたこともあります。

海流の研究を行っている海洋研究開発機構の美山透主任研究員は「予測シミュレーションをみると、今回の大蛇行は、今のところ終わりそうな気配が見えない。14年前の2004年に起きた前回の大蛇行は1年くらいで終わったが、ことしはそれよりも長く続くかもしれない」と話しています。

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海洋研究開発機構の美山さん

新たな副業に挑戦

いつ終わるか分からない黒潮の大蛇行。ケンケン漁一筋で生きてきた杉本さんですが、なんとかこの危機を乗りこえようと漁師仲間と新たな挑戦を始めました。それが「バナメイエビ」というエビの養殖です。

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味がよく人気があるバナメイエビ。多くが海外産で、杉本さんたちは国産ものには高い需要があると見込んでいます。養殖を始めるための水槽など設備にかかった費用は、およそ1200万円。このうち4割は、漁師の経営の多角化を支援し、不漁のリスクを減らそうという和歌山県の補助金でまかないました。

水槽の温度管理や餌やりなど、経験したことのない作業ばかりですが、杉本さんは「ベテランの自分が率先して副業を成功させて、モデルケースを示したい」と話しています。バナメイエビの養殖は順調で、杉本さんたちは来月(8月)には出荷を始める予定にしています。

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ケンケン漁を次世代に

ケンケン漁で取れる新鮮なカツオは和歌山県南部の名産となっています。私自身もよく刺身でいただきますが、脂が乗っているのに、さっぱりしていて本当においしいです。

一方、和歌山県南部では、過疎化や高齢化が急速に進んでいて、ケンケン漁など漁業の後継者の確保は、もともと大きな課題になっていました。

カツオが不漁でも、安定した収入を確保できるモデルケースを作ろうという杉本さんたちの挑戦は、成功すれば、漁師を目指す若者にとっても心強い前例になると思います。和歌山のカツオが大好きな私も、杉本さんの挑戦が実を結んで、ケンケン漁がいつまでも続くことを願っています。

平山 明秀
和歌山局 南紀新宮支局記者
平山 明秀
平成27年入局