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“新しい金融のカタチ” 逆風の銀行 生き残り戦略

長引く低金利で、本業の稼ぎが目減りし、経営環境が厳しさを増す銀行業界。生き残りをかけた銀行は、収益力を高めるため構造改革を相次いで打ち出しています。カギを握るのは、AI=人工知能などのデジタル技術の活用です。最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)でデジタル戦略の中核を担う会社のキーパーソンに迫りました。(経済部記者 峯田知幸)

卓球台が出迎える空間

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6月18日。東京・中央区にあるその会社のオフィスを訪ねました。
ドアを開けると目に飛び込んで来たのが、卓球台やバーカウンター。そして、Tシャツやジーンズ姿の社員たち。およそ銀行が作った会社とは思えない空間です。

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ここで陣頭指揮を執るのが、上原高志さん(45歳)。
MUFGがデジタル戦略を推し進める専門部隊として立ち上げた新会社のCEOです。今の銀行業界の置かれている状況を尋ねると、端的にこう答えました。

「“新たな金融のカタチ”を創り出さなければ、生き残りの道はない。そう思っています」

危機感の背景は…

大手銀行に入って20年余り。上原さんは、経営戦略を担う企画部門などで将来の銀行像を模索してきました。

2016年、新しい金融サービスを生み出すために設けられた専門部署のトップに就きますが、保守的な社風が残る中で、新たなビジネスモデルを生むことがいかに難しいかを痛感したと言います。

「前例が無い顧客体験(=サービス)を生みだそうと様々な提案をしましたが、結局、巨大な組織内では、将来の収益性などを気にして話が進まず、挑戦すらできないまま机上の空論で断念せざるを得ない案件が多かったんです。このままでは何も生まれないという危機感もあって、外部に組織を切り出せないかトップに提案しました」

始動した新会社

こうして2017年10月に設立された新会社。
目先の収支にこだわるのではなく、将来に向けたシーズ(種)を数多く打ち出すことが上原さんに課されたと言います。

デジタル技術を革新的な金融サービスにつなげたいと、社名は「JDD=ジャパン・デジタル・デザイン」としました。

何よりも優秀なエンジニアの獲得が不可欠だと考えた上原さんは、大手IT企業や電機メーカーなどで働いていた名の知れたエンジニアをヘッドハンティング。社員には「兼業」を認めていて、実際にエンジニアの多くがベンチャー企業などにも籍を置きながら働いています。

社員の外部でのネットワークが、斬新なアイデアやビジネスにつながることを期待しているのです。

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新会社がまず取り組んでいるのが、中小企業向けの融資をAIが判断する新たなシステムです。開発の現場では、中小企業の口座の入出金記録や景気に関する経済指標の情報などをAIに学習させていました。AIが自動的に融資の金利や金額の上限を判断できれば、審査にかかる事務作業を大幅に効率化できるだけでなく、はやければ数時間で融資が実行できるようになるといいます。

来年度からの導入を目指していて、実現すれば大手金融グループで初めてだということです。

新たな働き方に 新たな金融サービスを

いま、特定の企業に属さず、個人で仕事を請け負う「フリーランス」の人が増えています。そこでJDDは、フリーランスの人たちに仕事を仲介するサイトの運営会社と提携。サイトに登録する190万人のフリーランス向けに、新たな金融サービスを提供することを目指しています。

具体化はこれからですが、インターネット上に設けるウォレット(専用口座)にフリーランスとしての収入を入金してもらい、資金の管理や送金、支払いなどを手軽に行えるようにしたい考えです。

「今の銀行は、企業に属した人は信用力があり融資審査も通りやすい。ただ、フリーランスに対しては、信用力が見えにくく、融資を渋るケースも少なくないんです。この口座を通じて収入や購買などによる入出金の記録情報が得られれば、これまで銀行では融資できなかった人にお金を貸せるチャンスも広がります。既存の銀行モデルの課題を肌で感じてきた行員とエンジニアが同じ職場で日頃から意見を交わせるからこそ、アプローチできるサービスだと思っています」

地方にこそ 商機も

上原さんは、地方が抱える課題の解決策の中にも“新たな金融のカタチ”のヒントが隠されていると考えています。

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地方銀行とのワークショップ

JDDは34の地方銀行とも提携。各行から出向者を招き入れ、毎週、地域の課題やその解決につながるサービスについて意見を交わすワークショップを開いています。

詳しい議論の中身は非公開でしたが、現金を使わない、キャッシュレス化を安く手軽に導入できるシステムの開発などについて検討を進めているということです。

「地方は都心よりも早く労働力不足が深刻化し、人手に頼るサービスは、立ちゆかなくなる可能性が高いと考えています。そうしたサービスをデジタル技術を使って代替したり、今よりも利便性を高めたりすることができれば、顧客も喜ぶし、大きな商機にもつながるはず。失敗を恐れず、実証などをどんどん打ち出し挑戦していきたいと考えています」

今、金融業界には、次々とIT企業が参入し、新たな決済サービスなどを打ち出しています。この分野を奪われれば、銀行は顧客の購買データなどの貴重な情報を握られるだけでなく、口座などのインフラを多額の費用をかけて維持していくだけの存在になりかねません。大きな変革期にあって、いかに既存の銀行モデルを脱却するのか。銀行本体とは違った身軽さを大きな武器にできるかどうかがカギを握るのかもしれません。

峯田 知幸
経済部記者
峯田 知幸
平成21年入局
富山局、名古屋局をへて現所属
金融業界を担当