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失敗するなら早く! アマゾン成長の秘密

ネット通販の世界企業「アマゾン・ドット・コム」。事業は日々、拡大を続け、アメリカのITビッグ5(アップル、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾン)の中で、いま最も勢いがあると言われています。どうして拡大、成長できるのか?アマゾンの元幹部がその秘密を明かしました。「失敗するなら早く」「パワポ禁止」。あなたの仕事に役立つ意外なキーワードを紹介します。(アメリカ総局記者 渡部圭司)

元幹部が明かすキーワード

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ブリテン・ラッド氏(左)

インタビューに応じたのはブリテン・ラッド氏。2015年から2年間、アマゾンの生鮮食品部門のリーダーを務めました。

アマゾンは去年、アメリカの大手スーパー、ホールフーズ・マーケットをおよそ1兆5000億円で買収して小売り業に参入。

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ホールフーズ・マーケット

「ついにネットからリアルに」と大きなニュースになりましたが、その仕掛け人がラッド氏。今はテキサス州で経営コンサルタント業をしています。

ラッド氏は、アマゾン内部の様子を、いくつかのキーワードで説明してくれました。

失敗するなら早く

最初のキーワードが「フェイル・ファースト = 失敗するなら早く」。社内でよく使われることばだといいます。

アマゾンはネット通販にとどまらず、音楽や動画配信、AIスピーカー、企業や個人のデータ管理、自前の物流網の構築など、斬新なサービスを次々と生み出しています。しかし実は、失敗も山のように繰り返しています。

2014年に発売したスマートフォン「ファイアフォン」。当時はアップルやサムスン電子を脅かす存在になるかも、と注目されたものの不発に終わり1年で撤退。

ホテルの予約サイトも始めましたが、わずか半年で打ち切り。スマートフォンを使ったクレジットカードの決済サービスも失敗しました・・・。

ラッド氏が強調するのは、撤退を決めるまでのスピードです。そこに失敗をいとわず、まずは挑戦する。だめだったらあきらめる企業文化があるといいます。

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(アマゾン創業者のジェフ・ベゾスCEO)

「100倍の利益が戻ってくる可能性が10%あれば、必ず賭けるべきだ」

こうした考えが、アマゾンの根底にあるのだと指摘します。

パワポ禁止

次のキーワードが「パワーポイントは使うな」です。大手コンサルティング会社からアマゾンに移ったラッド氏が最も驚いたことの1つです。

パワーポイントは、グラフや写真を多用しキーワードを強調するため、見やすく、わかりやすいのが特徴です。プレゼンテーションで当たり前のように使われているこのパワーポイントをアマゾンでは一切使わないといいます。

代わりに使うのが「プレスリリース」と「6ページメモ」なのだそうです。もちろん、対外的に公表する正式なリリースではありませんが、公表するつもりになって、一読して概要を把握できる情報を書き込みます。

必ず求められるのが▼商品やサービスの説明、▼販売やサービスの開始時期、▼顧客にどういうメリットがあるのか、▼なぜアマゾンが行うのか、といった点。

また別に作成する6ページメモには、詳細な資金調達の方法など事業化に向けた具体的な内容が求められます。

どうしてパワポでなくプレスリリースなんでしょう?

「物事を簡潔に説明するパワーポイントは、都合のいいことだけを強調するので人をだますことができる。一方、プレスリリースは自分の考えをきちんと整理し、何を成し遂げたいか理解していなければ書くことができない。プレスリリースを書いたり読んだりすることは優れたアイデアを実現するために非常に有効だ」(ブリテン・ラッド氏)

リリースとメモがアマゾン社員の思考力を鍛え強さにつながっているようです。

沈黙の会議室

ちなみに、このリリースとメモを使ったプレゼン会議も、かなり独特だということ。

リリースとメモが幹部全員に配られ、最初の30分間はひとこともしゃべらず黙々とひたすら資料を読み込むのだそうです。

そのあとの質問タイムで、なぜアマゾンが今これをやる必要があるのか徹底的に話し合い、皆が納得すれば採用が決まるといいます。

「会議の冒頭、まるで自習室のような静かな環境の中でメモを読む。中には天使の歌声のように明解な内容もあればその対極のものもある。同僚にチェックしてもらい何度も書き直し、1週間かそれ以上の時間をかけて書いたメモに優れたものが多い」(ジェフ・ベゾスCEO 株主宛ての書簡で)

トップ・オブ・マインド・シンキング戦略

もう1つラッド氏が語ったキーワードが「トップ・オブ・マインド・シンキング = 真っ先にアマゾンを思い浮かばせる」。アマゾン幹部が特に大事にしている戦略なのだそうです。

例えば街に出て、行き交う人に次はどのスマートフォンを買いたいか尋ねると、アップルのiPhoneという答えが恐らく多いでしょう。スマホ=アップルと結びつける消費者が多いからです。

同じようにネット通販といえば、アマゾンという答えが多いと思います。消費者がまずはじめに思い浮かぶこと、それがトップ・オブ・マインド・シンキングです。

ネット通販だけでなく、映画やドラマなどの娯楽、生鮮食品の買い物など、さまざまな場面で、まずアマゾンの名前が浮かぶことが目標なのだといいます。

鍵を握るAIアレクサ

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(アレクサ搭載のAIスピーカー)

その目標の実現に重要な役割を果たしているのがアマゾンの人工知能「アレクサ」だとラッド氏は言います。

アメリカでは、すでに2割の家庭に音声で操作するAIスピーカーが普及しています。

アマゾンのAIスピーカーは7割以上のシェアを握っています。アレクサを搭載したAIスピーカーは話しかけると音楽をかけ、おすすめの映画を教えてくれます。計算など、ちょっとした質問にも答えてくれますし、ネット通販での買い物も頼めば注文してくれます。

人工知能アレクサは、いまスピーカーだけでなくテレビや冷蔵庫、自動車などさまざまな製品に搭載されはじめ、生活にじわりと入り込んでいます。例えば最新の冷蔵庫では、アレクサが、足りない食材をセンサーで把握して、アマゾンに注文するサービスが始まっています。

アレクサの搭載がさまざまな製品に広がっていけば、消費者が何をするのもまず「アレクサ(アマゾン)」にと考える環境が整いつつあるとラッド氏は話しています。

ライバルに勝て、は禁句

またアマゾン幹部は社内で「ライバル企業に勝て」とか「市場シェアを奪え」と絶対に言わないそうです。ラッド氏は、そこにアマゾン創業者のベゾスCEOの理念があるといいます。

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「ビジネスは終わりがない無限のゲームであることをベゾスCEOはよく理解している。競合他社に勝つことが目的なのではない。消費者サービスの追求こそが創業の理念だ。そこにこだわり続ける限り、アマゾンは成長を続けるだろう」

インタビューを終え、ベゾスCEOが創業まもない1997年版の株主に宛てた書簡に目を通しました。

確かに、その当時から、リスクを覚悟して積極的に投資していくこと、短期的な利益より長期的な目線で考えること、消費者にこだわり続けることなどが記されています。

ベゾスCEOはメディアの前に出ることは滅多にないため、われわれ記者にとってはミステリアスな存在です。

しかしそのベゾスCEOの強烈な個性に引っ張られ、ユニークな企業文化が育っていることは間違いなさそうです。ラッド氏が明かしたアマゾンの仕事術。学べることは多そうです。

渡部 圭司
アメリカ総局記者
渡部 圭司
2002年入局
広島局、報道局経済部を経て
2014年からニューヨークで経済分野を担当