ニュース画像

ビジネス
特集
天然ゴムに全滅の危機?!

クルマのタイヤ、スニーカーのソール、手袋に卓球のラケットも…。これがなければ現代の生活が成り立たないと思えるほど、身の回りのあらゆるところで使われている「ゴム」。実は、そのゴムが危機に直面しています。ゴムといえば、ゴムの木からとれる樹液を元に作られる天然資源。だからこそ、避けられないあるリスクを背負っているのです。このため、天然ゴムに代わる素材の開発が静かに、しかし急ピッチで進められています。(経済部記者 影圭太)

天然ゴムを超える素材

「世の中に今まで存在しなかった素材、画期的な素材だ」ーーゴム製品の代表格、タイヤで世界トップのシェアを誇る「ブリヂストン」が先月(5月)開いた新素材の発表会で、開発者の会田昭二郎さんはこう切り出しました。

ニュース画像
ブリヂストンの発表会

ブリヂストンが開発したのは、合成ゴムの成分と樹脂の成分とを分子レベルで結合させた、世界初のハイブリッド素材です。耐久性などで優れるとされてきた天然ゴムと比べても、亀裂に耐える力が5倍以上、摩耗に耐える力が2.5倍以上と、圧倒的な強さがあるとしています。

ニュース画像
ブリヂストンが開発した新素材

すでにこの新素材を使ったタイヤの試作も始めていて、2020年代の商品化を目指す計画を明らかにしました。会見で会田さんは「天然ゴムは重要な素材だが、持続可能性の観点から手を打つ必要がある」と述べました。単にゴムよりも強い素材を作ることだけが狙いではない、というのです。

天然ゴム いつまでとれる?

ニュース画像
インドネシアの農園

天然ゴムは、世界で毎年およそ1200万トンが生産され、原油から作られる合成ゴムが普及した今でも、超大型トラックや航空機のタイヤはほぼ100%天然ゴムで作られます。

この天然ゴムは、パラゴムノキという樹木の表面を傷つけて採取する樹液が原料です。そのパラゴムノキの栽培面積は、トップのインドネシアが360万ヘクタール、2位のタイが310万ヘクタールで、この2つの国だけで全世界の約半分を占めます。栽培面積の90%が、東南アジアに集中していると言われています。

ニュース画像

1か所で集中的にゴムを作ることで、コストや生産効率の面でメリットがあるため、東南アジアで大規模農園による栽培が発達しました。しかし、栽培が集中していることこそが、天然ゴムの持続可能性を脅かしているというのです。

例えば、大規模な災害や政治情勢の悪化により供給が止まってしまうリスクもありますが、いま懸念されているのが、樹木特有の病害のリスクです。

原産地では「ほぼ全滅」

ニュース画像
パラゴムノキ

かつて南アメリカでは、実際に病害によって天然ゴムの生産が壊滅的な被害を受けた歴史があります。今は東南アジアに集中しているパラゴムノキですが、実は原産地は南米で、19世紀までブラジルが世界最大の産出地でした。

それを一変させたのが、「南米葉枯病」という病害です。カビの一種が原因となるこの病気にかかると、木は枯れてしまいます。しかも、農園では木が密集していて、気づいた時には木から木へと病気が広がってしまうと言います。

1900年代、南米ではこの病害が繰り返し流行し、南米のパラゴムノキはほぼ全滅という状態に追い込まれました。「フォード」の創業者ヘンリー・フォードも、タイヤの原料を自社でまかなおうとブラジルにパラゴムノキの農園を開きました。結局1945年に撤退しましたが、これも葉枯病の流行で農園が壊滅したことが理由の一つと言われています。

東南アジアも安心できない

しかも、病害はけっして過去の話ではないと専門家は警鐘を鳴らします。

植物の病害について研究している東京農業大学の夏秋啓子教授は「南米葉枯病は根絶されていないので、いまも1900年代の南米のように流行してしまう危険性がある。人やモノが飛行機で簡単に自由に行き来できるようになっているからこそ、病原が媒介されて東南アジアに入ってくるリスクは常に存在している」と指摘します。

実際、東南アジアでは葉枯病と同じように菌が原因となる「根白腐病」という病害が発生し、感染した木が枯れてしまう被害が出ています。南米の天然ゴムを壊滅状態に追いやった葉枯病の流行は、幸いにも確認されていないということですが、世界の9割が集中している産地だけに、いったん流行してしまうとその影響は甚大です。

ニュース画像
根白腐病の菌糸

現地に自社農園を持つブリヂストンでは、病害に強いパラゴムノキの品種の研究を進めているほか、根白腐病についても衛星写真を分析したり木の樹液を解析したりすることで病害を早期に発見し、流行を防ぐ技術の確立を急いでいます。

タンポポからゴム?

リスクを避けるために、いっそのことパラゴムノキ以外の植物から天然ゴムの原料を取り出そうという研究も進められています。

代表的なものは、グアユールという木です。乾燥地帯で育つため、熱帯で育つパラゴムノキとは違った場所で栽培することができ、ゴム成分を多く含む品種への改良や、成分の抽出技術の開発が進められています。

ニュース画像
グアユール

また「住友ゴム」は、環境を選ばずに育つロシアタンポポから天然ゴムを抽出し、タイヤを作ることを目指して研究を進めています。さらに、原油から作る合成ゴムの品質を高める研究など、さまざまな対策が進められています。

リスクが現実となる前に、ゴムの木だけに過度に依存せず、さまざまな原料からゴムが作られる時代の到来が待たれます。

影 圭太
経済部記者
影 圭太
山形局 仙台局をへて経済部
自動車や金融業界を担当
現在 日用品や素材メーカーを取材