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潜入! 中国 “自動運転シティー”

世界中で開発競争が繰り広げられている自動運転。アメリカでは、アリゾナ州などが、公道での完全な自動運転車の走行実験を認め、日本は2020年までに無人走行の移動サービスや高速道路での自動運転の実現を目指しています。一方、中国では、自動運転を最初から都市開発に取り入れてしまおうというプロジェクトが動き始めています。これまで明らかにされてこなかった「自動運転シティー」に入り、現状や今後の狙いを取材しました。
(経済部記者 山田裕規 経済・社会情報番組部 池上祐生ディレクター)

山手線の内側より広い

中国では、自動運転車など次世代の車をICV=インテリジェント・コネクテッド・ビークルと呼んでいます。AI=人工知能が運転を担う車やインターネットとつながるコネクテッドカーなどを総称した呼び名です。

中国政府は、ICVを走らせる試験区として、北京、上海、重慶、浙江省の杭州、吉林省の長春、湖北省の武漢という6つの主要都市を指定しています。

自動運転の技術やサービスをまるごと都市に取り入れる中国の自動運転シティー構想とは、どんなものなのか。計画はどこまで進んでいるのか。実際に見るため、足を運んだのが上海でした。

上海では市の中心部から北西に30キロほど離れた安亭地区で、2015年6月から計画がスタートしました。最初は広さ5キロ平方メートルのテストコースを設け、2019年に100平方キロメートルの範囲での公道実験に移行。2020年中には安亭地区と近郊の虹橋空港を結んで自動運転車を走らせる計画です。

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“車だけでは解決できない”

自動運転の技術には、大きく2つのタイプがあります。

車にセンサーやカメラを取り付けて歩行者や障害物を感知しながら運転する「自律型」と、道路や標識、信号など街じゅうのインフラから路面状況などの情報を車に向けて発信し、車と街が一体となって安全を守る「インフラ協調型」です。

グーグルやウーバーなどが実験を重ねてきた自律型に対し、インフラ協調型の道を行く上海の自動運転シティー。この計画に携わっている同済大学の熊※ロ教授は「現在の自動運転車の技術力では、複雑な交通状況に対応することができない。車だけではすべての問題を解決できないので、自動運転技術と交通システムを一緒に考えるべきだ」と指摘しています。
(※ロは「王」へんに「路」)

熊教授によると、都市開発の需要がある中国では、街をまるごと自動運転とセットにして開発したほうが効率がよいといいます。さらに、信号機の青や赤といった視覚的な情報だけでなく、信号が変わるタイミングや道路の混み具合といった情報も車が受け取ることで、効率的な速度調節が可能になるとのこと。

その結果、中国の社会問題となっている渋滞の緩和や省エネにつながる効果も期待できるというのです。減速気味とはいえ、年6%台の経済成長が続く中国では、今後も続く都市開発にあわせて「インフラ協調型」に舵を切ることで、自動運転の技術開発をリードしようという意図も見えた気がしました。

着々と進む自動運転の街作り

安亭地区では、自動運転のよさを広く知ってもらおうというユニークな取り組みも行われています。公園の中に自動運転車を試乗できる長さ2.5キロの体験コースを整備。散歩やサイクリングをする人たちのすぐ脇を自動運転車が時速30キロほどで走っていきます。私が訪れた日も、試乗する人が何人も見られました。半年間で4000人近くが試乗したということです。

そして、公園の近くには、1万人規模の新たなニュータウンの建設が進んでいます。開発を進める不動産会社は、自動運転のバスの走行や、自動駐車のサービスの導入を検討しているということです。市民の生活に自動運転を取り入れようという動きが着々と進んでいると実感しました。

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“企業間のコミュニケーションの場”

自動運転シティーは、車とITの連携を促す企業誘致も特徴といえます。安亭地区はもともと自動車関連企業の集積地ですが、自動運転シティーの計画が動き出す3年前、2012年に「イノベーション・パーク」と名付けられた拠点が設けられました。

入居する企業や団体は、大手自動車メーカーだけでなく、自動運転に欠かせないカメラによる画像認識技術をもつイスラエルのモービルアイ、中国の有名IT企業 アリババなど国内外の30以上に上ります。イノベーション・パークへの投資額は15億元(およそ250億円)で、拡張工事も予定されています。

進出企業には税金免除などの優遇措置もあり、施設の広報担当者は「企業間のコミュニケーションの場を提供して、自動運転の技術を実際の商業ベースにのせたい」と話していました。

敷地内では自動運転車が走る様子も見られ、中国のベンチャー企業や海外の自動車関連企業の社員は、世界各国から企業が集まる場所での研究や連携のメリットを強調していました。

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国家、市民、企業を巻き込んだ壮大なプロジェクトである自動運転シティーですが、計画は遅れ気味です。ことし3月にようやく5.6キロの公道での走行実験が始まったばかり。ただ、自動運転シティーの開発を担う国有企業 上海国際汽車城のエイ※文偉会長は「本当によい都市建設のモデルが見つけられれば、ここだけではもったいない。もっと世界にも広げるべきです。中国政府が主役となって産業発展のために大きい枠組みを提供できると信じている」と話していました。
(※エイは「草」かんむりに「栄」の下の字)

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今は時間がかかっても、技術を確立した将来には「インフラ協調型」の仕組みを、まるごと輸出できるはずだという自信を感じました。

“中国のグーグル”も参戦

“中国のグーグル”とも呼ばれる検索サイト大手のバイドゥ(百度)が開発を進める自動運転シティーもあります。

バイドゥは、自動運転用のAI=人工知能の開発に着手。世界中の自動車メーカーなどとも積極的に連携を進めています。北京にある本社の敷地内では、開発中の自動運転車が走っていました。バイドゥが開発に取り組む都市は、北京の中心部から南に100キロほど離れた河北省の雄安新区。規模は東京都の面積に匹敵する2000平方キロメートル、投資額は日本円にして総額100兆円を超えるとも言われる壮大な計画です。

自動運転開発の責任者であるヘレン・パンさんは「交通事故の死亡者を減らすため、無人の自動運転技術は大変重要だ」と繰り返し強調していました。自動運転車と交通システムの双方を開発し、交通事故のない街を一から作ろうという戦略です。

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日本企業はどう関わるか?

ダイナミックな中国の動きに、日本企業も熱い視線を送っています。大手半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスもその1つ。ルネサスは、日立製作所と三菱電機、NECの半導体部門が統合した日本を代表する半導体メーカーで、自動車のアクセルやブレーキなどを制御する半導体は世界トップシェアを誇ります。

しかし、自動運転では「制御」だけでなく、周囲の状況を「認知」し、安全な運転へつなげる「判断」にも半導体が不可欠です。バイドゥはAIの開発で先行していますが、車体や部品を製造できるわけではなく、去年、ルネサスと提携して自動運転車の開発を進めています。

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ルネサスとしては、バイドゥの自動運転車だけでなく、自動運転の街作りにも関与して、インフラ向けの半導体も手がけようと、関係の構築に余念がありません。各国が開発にしのぎを削る自動運転の世界で、中国が進めるインフラ協調型がどこまで広がりを見せるのかは未知数ですが、自動車や半導体をはじめ、多くの業界の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めています。

日本の産業を支える自動車メーカーをはじめ、日本企業が中国の動きにどう対応していくのか、今後も注目していきたいと思います。

山田 裕規
経済部記者
山田 裕規
平成18年入局
旭川局と広島局を経て経済部へ
池上 祐生
経済・社会情報番組
ディレクター
池上 祐生
2010年入局
松山放送局を経て、経済・社会情報番組部で勤務