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MaaSって? 車を持たない時代が来る

皆さんは「MaaS(マース)」という言葉をご存じでしょうか。Mobility as a Serviceの略で、車を所有せず、使いたいときだけお金を払って利用するサービスのことです。バスやタクシー、それに、最近、普及してきたカーシェアリングをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。実はこの言葉、自動車業界に大きな変化をもたらすのではないかと、今、注目を集めています。従来の車の概念を変えるMaaSの世界とは、いったいどんなものなのでしょうか。
(経済部記者 吉武洋輔/早川俊太郎)

マイカーを手放すシニア世代

「マイカー」や「愛車」という独特の日本語が示すように、私たちの暮らしに欠かせない自動車。若者の車離れが進んでいると言われますが、50代60代の世代は、若い頃からマイカーを持つことに憧れを抱く人が多く、「車好き世代」とも言われています。

ところが、こうしたシニア世代でも、今、マイカーを手放し、カーシェアリングを利用し始める人が増えているそうです。

千葉県に住む入江久男さん(64)は、24歳のときから60歳までマイカーを7台買い替えた、まさに車好き世代。平日の通勤や休日の家族との外出など、ほぼ毎日、車に乗っていたと言います。しかし、4年前に定年を迎えてからは、車に乗る機会がほとんどなくなりました。

子どもたちも独立して夫婦ふたり暮らし。毎月支払う保険代や車検代がもったいないと思い始めたところ、カーシェアリングの存在を知り、加入しました。入江さんがカーシェアを利用するのは週に1回。スーパーへの買い物や、子どもの家に遊びに行くときに使っています。

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費用は15分206円で、ガソリン代も含まれています。取材に訪れた日も、入江さんは予約した車に乗り込み、スーパーへ買い物に出かけました。この日の運転時間は53分。料金は保険を含めて1133円でした。このほかに、定額の維持費として毎月1000円を支払っています。

入江さんは「車を買い替えながらずっとやってきたけど、今、考えると無駄遣いだったかなとも思う。もうカーシェアで十分です」と、車を所有しない生活に不便を感じていませんでした。

カーシェアリングのタイムズを運営する「パーク24」によると、ことし1月時点の加入会員のうち、60歳以上は5万9140人。1年前より30%も増加し、全体の加入会員の増加率を上回っています。

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95%は使われない空間

車は持っているけど、平日はほとんど使っていなくて、もったいない-。

そんなふうに考えたことがある人も少なくないと思います。毎日1時間、車に乗ってもその稼働率は、1÷24で4.2%になります。逆に言えば、毎日1時間乗る人でも、1日の95.8%は使われずに車庫に眠っている、というわけです。それをうまく活用できないか、という発想がMaaSの根底にあります。

東京都内に住む会社員の薛(せつ)天成さんは車好きの29歳。1000万円もするテスラの電気自動車を所有しています。しかし、休日に乗るだけで、平日は駐車場に止まったまま。そこで去年から「個人間カーシェアリング」というサービスを使い始めました。

これはIT大手「ディー・エヌ・エー」が開発したサービスで、ネット上で車を持つ人と車を使いたい人を結びつけるものです。専用のアプリには、個人の車の写真や使える日時が掲載され、登録者は13万人に上ります。

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薛さんは自分の車のシェア料金を1日1万5000円に設定。その結果、月10万円もの収入を得ています。これを車のローンや駐車場代に充てています。薛さんは「駐車場で眠っているより動いていたほうが車にとってもよい」と話します。

薛さんがアプリを通じて依頼がきた人に車をシェアすると言うので待ち合わせ場所について行ってみると、40代の男性が待っていました。「テスラをどうしても運転してみたかった」というこの男性。会うやいなや薛さんから鍵を受取り、うれしそうに車に乗っていきました。ふたりはこの日が初対面。薛さんに「初めて会った人に車を預けることに抵抗感はないのですか」と尋ねると、「これまで90人ぐらいとシェアしましたが、特に大きなトラブルも起きていません」と話していました。

ディー・エヌ・エーはトラブルを避けるために、決済はクレジットカード払いでその場の現金のやり取りを禁止したり、車を傷つけたときのために運転する側には必ず保険への加入を義務づけたりしています。

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自動車メーカーの未来

MaaSという言葉が、なぜ自動車業界でもてはやされているのか。それは、来たるべき完全自動運転の時代とリンクしているからです。

ドライバーのいないロボットカーが街をぐるぐるまわる時代になれば、スマホのアプリに目的地を打ち込むだけで無人の車両が迎えにくる。疲れを知らないロボットカーは次から次へと人を乗せる。ドライバーの人件費がかからないため、タクシーよりも料金は安くなるー。こんな自動車が完成すると、わざわざ車を所有する必要がなくなってくるかもしれません。

そうなると、困るのは自動車メーカーです。自動車メーカーは個人に1台1台車を売ることで収益を得ています。世界各地に工場を建て、数多くの従業員を雇用しています。車をシェアする動きが進んで、個人が車を買わなくなれば、生産台数が減っていくかもしれない。MaaSの普及は、自動車メーカーの従来のビジネスモデルを破壊してしまう可能性があるのです。

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これに対して、自動車メーカーは、MaaSに対抗するのではなく、むしろその流れに乗ろうとする動きを見せています。トヨタ自動車はことし1月、相乗りや商品の配送までができる箱型のコンセプトカーを発表。従来のようなマイカーとして販売する車とは一線を画した車です。日産自動車も、2月に無人のロボットタクシーの構想を発表。サービス分野に乗り出す意欲を示しました。

100年に1度の変革期にあるという自動車業界。性能のよい車づくりでリードしてきた日本のメーカーですが、これからは車を使った新しいサービスを生み出せるのかも問われる時代がやってくるかもしれません。

吉武 洋輔
経済部記者
吉武 洋輔
平成16年入局
名古屋局をへて経済部
エネルギーや金融業界など取材
現在、自動車業界を担当
早川 俊太郎
経済部記者
早川 俊太郎
平成22年入局
横浜局、岐阜局、名古屋局をへて
現在 自動車業界を担当