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銀行は不要? 電子マネーが変えるアフリカ

給料の振り込み先は銀行口座ではなく携帯電話に。そうした状況がアフリカで広がり始めています。今、途上国の中には、銀行によるサービスが根づく前に“一足飛び”に、電子マネーが普及する国が出てきています。その代表例がアフリカの中でも経済成長著しいケニアです。「銀行に頼らない金融サービス」とはどんなものか、意外な電子マネーの先進国 ケニアを取材しました。
(国際部記者 戸川 武)

取材のきっかけは邦銀幹部が語った危機感

「日本の銀行は変わらなければならない。なぜなら世界では、ケニアのように、銀行を介さない金融サービスが急速に普及しているからだ」

去年秋、海外駐在の経験が長い日本のメガバンクの幹部が、少人数の勉強会の場でこう語りました。この幹部は、従来型の金融サービスが、IT技術の進展に追いついていない現状に強い危機感を訴えながら、将来の金融システムを考えるうえでの参考例として、先進国ではなく、アフリカのケニアをあげたのです。

なぜケニアで新しい金融サービスが普及しているのか、この幹部の発言をきっかけに、私はアフリカ大陸での取材を始めました。

現金お断り! 給料は電子マネーで

ことし2月、私はケニアの首都ナイロビを訪れました。取材を始めてまもなく、市の中心部に車を駐車したときのことです。突然、駐車場の管理人から「駐車料金は電子マネーで払ってください」と言われました。

聞いてみると、現金払いはお断り。早速、ケニアのキャッシュレス社会の洗礼を浴びせられました。街を取材してみると、たしかに現金やクレジットカードを使っている人の姿も見られます。ただ、街のあちこちに「電子マネーOK」の文字が。

スーパーや市場での買い物、レストランでの支払いに加えて、電気代などの公共料金や家賃の支払いにも、電子マネーが利用できるようになっていました。ナイロビ市民にインタビューしてみると、「給料を電子マネーでもらうことも多いよ」という声が返ってきました。

電子マネーが生活に欠かせない社会がそこにありました。

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取引額はGDPの半分超 人口の6割が利用

ケニアには、合わせて5種類の電子マネーがあります。このうち、最も利用者が多いのが「Mペサ」と呼ばれるものです。地元の通信会社が運営していて、「M」は携帯電話などの「モバイル」を、「ペサ」は現地のスワヒリ語で「お金」を意味しています。

利用方法はいたってシンプルです。携帯電話が財布代わりで、自分の番号にお金をチャージできる仕組みです。チャージしたあとはメールを送るような感覚でお金のやり取りができます。チャージの方法は、各地にある商店などの代理店で、現金を支払うのが一般的です。

今やMペサの利用者は、ケニアの人口の6割にあたる2700万人。取引額は、GDPの半分以上の規模に相当するといいます。

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電子マネーの普及は銀行サービスがなかったから

なぜここまで電子マネーが普及したのかー。背景には、途上国ならではの事情がありました。ケニアでは、銀行口座を持っている人は、人口の2割ほどにとどまっていると見られます。

このため、都市部で働く出稼ぎ労働者にとって、ふるさとで暮らす家族にどう送金するかが長年の課題でした。そこで10年ほど前に開発されたのが、携帯電話を使った送金システムです。

もともとは、メールで相手に送金し、店舗などで現金として受け取れるシステムでしたが、今では現金化せずに、電子マネーとしてやり取りする形が定着しました。送金に加えて、スーパーでの買い物や、友人とのお金の貸し借りなど、日常のあらゆるシーンで使われるようになっています。

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次々と生まれる新サービス

この電子マネーを利用した新たなサービスが次々と生まれています。

その1つが、2011年に始まった電化されていない地域に、電気を販売するシステムです。運営する会社は、各家庭に小型のソーラーパネルと電球がつながった装置を設置します。利用料金は1日およそ50円、これを電子マネーで支払います。支払いが滞ると、すぐさま遠隔操作によって、装置が止まる仕組みになっています。

毎日少しずつなら料金を支払えるという貧困層の間で普及し、利用はケニアだけでなく、東アフリカの50万世帯に広がっています。会社にとっても、各家庭を回って、料金を集める必要がなく、電子マネーの普及によって実現できたサービスです。

電子マネーで日用品や電化製品を買うことができるオンラインショップも、去年からサービスを始めています。3000を超える小売店と提携し、商品をサイトに掲載し、販売しています。

CEOの男性は「ケニア人にとって携帯電話を持つことは、ポケットの中に銀行があるようなものだ」と話していました。

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政府も電子マネーの広がりに注目しています。電子マネーによる「個人向け国債」を発行し、国民からインフラ建設に必要な資金を集めようとしているのです。利率は年10%で、およそ3000円から購入できます。

国債を購入した20歳の大学生は「手軽で簡単でベストな投資だ」と話すなど、電子マネーの利用は、国の財政運営にも貢献しようとしています。

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フェイスブックやアリババも注目

ケニアの電子マネーは世界から注目されています。中国の通信大手ファーウェイは、2015年にMペサを運営するサファリコムと提携し、通信速度の安定や、セキュリティー向上のための技術協力に乗り出しました。

アダム・レーン アフリカ担当広報部長は「ケニアでは電子マネーなどのフィンテックの可能性は、まだまだ大きい」と話していました。

おととしには、フェイスブックのザッカバーグCEO、さらに去年7月には、中国のアリババグループを率いるジャック・マー会長もケニアを訪問。ケニアを新たな世界的イノベーションを生み出す可能性がある重要拠点と位置づけています。

日本も遅まきながら、ケニアに関心を寄せ始めています。2月には、JETRO=日本貿易振興機構がケニアの電子マネー企業の視察ツアーを企画し、20人近い日本のビジネスマンが参加しました。

参加者の1人は「こうした金融サービスが、今後、アフリカ全土に広がる可能性がある」として、期待を強めていました。

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銀行口座持たない世界の20億人に

「金融サービスの恩恵を受けていない人たちに、もっとサービスを広げていくつもりだ」

Mペサを運営するサファリコムの幹部 ジョセフ・オグトゥ氏はこう述べ、さらなる事業拡大に自信をのぞかせました。

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すでにMペサは、タンザニアなどアフリカを中心に、およそ10か国で利用が広がっています。

世界には銀行口座を持てない人が、今も20億人いると言われています。そうした人たちの間で広がる銀行に頼らないキャッシュレスの波。ケニアで広がり始めたこの波が、世界でどこまで拡大していくか、激変する金融サービスの将来を占ううえで、1つの試金石になると感じました。

戸川武
国際部記者
戸川 武
平成17年入局
新潟局 上海支局 中国総局をへて
現在 中国・国際経済担当