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“減反廃止”でコメは値下がりする?

田植えの季節を迎えましたが、コメの政策はことしから大きく転換し、半世紀近く続いた「減反政策」が廃止されました。「減反」はコメ余りを防ぐため、国が生産を抑制する仕組みでした。このため、廃止されれば生産が増え、高値が続くコメが値下がりするのではないか、という期待も出ていますが、実際はどうなのでしょうか。
(経済部記者 楠谷 遼)

廃止された減反政策

昭和46年度から本格導入された減反政策は、当時、政府がコメを全量買い上げる制度の下、生産が過剰になって深刻化したコメ余りを防ぐための仕組みでした。生産を増やしたい農家などからは「意欲をそぐ」といった批判もありましたが、約半世紀にわたって続きました。

それがことしから廃止されたのは、貿易自由化に備えて、輸入米にも対抗できるようコメ作りの競争力を高めようという狙いからです。これまでコメを作りたくても作れなかった農家も、ことしからは自由に生産ができるようになったわけです。

大半が現状維持に

では、ことしからコメの生産が増えるのでしょうか。

農林水産省がまとめた全都道府県の作付け見通しによりますと、「前年並み」としているのが36都道府県で、全体の7割を超えています。もちろん、多くの地域では田植えはこれからで、今後の天候で変動する可能性もありますが、作付面積からみれば、生産が大きく増加する状況とは言えません。

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“増やせない”北海道の農家

今や主要産地となっている北海道も「前年並み」としている都道府県の1つです。

大規模農家が多いのになぜ増加しないのか、北海道でもコメ作りが盛んな空知地方、妹背牛町の大規模農家、佐藤忠美さんを訪ねました。佐藤さんは、約33ヘクタール、東京ドーム7個分の農地でコメを作っています。大規模農家が多いこの地域でも、平均の2倍以上の面積です。

佐藤さんに、減反廃止で生産を増やさないのかと聞くと「増産は難しい。現状維持だ」と言われました。佐藤さんは家族3人でコメ作りをしていますが、田植えなど繁忙期には、地域の人たちに手伝ってもらっています。しかし、町の人口はこの10年で2割以上も減少。最近は地元では人手の確保が困難になっているということです。

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そこで、佐藤さんは5月下旬に予定している田植えに向けて、40キロ近く離れた旭川市の会社に委託することにしました。しかし、この会社は、ほかの農家からも依頼が集中しているということで、はっきりとした答えは得られませんでした。

佐藤さんは「北海道のコメをおいしいといってくださる消費者の声にこたえて、生産を増やしたいという気持ちはあるが、今の規模でさえ人手が足りていない状態で、現実的に難しい」と話しました。

土地も資金も問題はないのに、佐藤さんが生産を増やさないのは、深刻化する「人手不足」が理由だったのです。

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去年の調査で、農家の平均年齢は66.6歳(農林水産省「農業構造動態調査」の基幹的農業従事者)と、高齢化も進んでいますし、農業地域の多くでは過疎化も深刻ですから、人手不足の問題は全国的にも、生産が増えない要因の1つになっていると見られます。

また、多くの農家には、減反が廃止されたからといって生産を一気に増やして、コメの価格が下がることは避けたいという思いが根強いことも、要因として指摘されています。

高値続くコメ価格への影響は

一方、私たちの多くにとって気になるのは、高値が続くコメ価格が値下がりするのか、だと思います。

とりわけ値上がりが問題になっているのは、弁当やレストランなどで使われる「業務用米」です。東京・亀戸の弁当店では、コメの仕入れ価格が、去年より3割も上昇したということで、店長は「ここまで価格が上がると経営的に厳しい」と話していました。

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外食などの業界では、減反廃止で生産量が増えればコメの価格も安くなるのではという期待もありましたが、期待どおりではなさそうだとして、危機感が高まっています。

こうした状況に、国内最大手のコメ卸「神明」は、産地などを回って少しでも安い業務用米を確保しようとしています。このうち、農家150軒のコメを扱う千葉県の会社への訪問を取材しましたが、この秋に収穫されるコメを少しでもまわしてほしいという依頼に対しては、「一気に増やすのはなかなか難しい」という答えで、状況は厳しそうでした。

業務用米が増えそうにないのには、構造的な問題もあります。コメは「業務用米」のほかに家庭で炊く「家庭用米」や家畜の餌になる「飼料用米」に大きく分けられますが、農家は、いわゆるブランド米などで比較的高値が期待される「家庭用米」や、国から手厚い補助金が出る「飼料用米」を増やしています。こうした構造は、減反が廃止されても、変わっていないのが実情です。

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コメ政策全体の再検証を

こうした中で懸念されるのが消費者のコメ離れです。

特に業務用米をめぐっては、価格が安い輸入米の使用を増やす動きまででてきています。本来、競争力を高めることが減反廃止の目的だったはずですが、高値が解消されないために、国産米離れが進むようなことはコメ農家にとっても、消費者にとっても望ましいことではないはずです。

今後は、産地で深刻化する人手不足への対応や、飼料用米に対する補助制度の在り方など、コメ政策全体の検証が改めて求められていると思います。

楠谷 遼
経済部記者
楠谷 遼
平成20年入局
鳥取局をへて経済部
農林水産省担当