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日本の種 海外で売れるんです それもそのはず

「韓国のイチゴがとてもおいしかった!」
ピョンチャンオリンピックでカーリング女子チームの選手が食べたイチゴが、もともとは日本で開発された品種が持ち出されたものだったことで、品種の海外流出の問題がクローズアップされました。
実は、日本の野菜・果物の品種開発力は、世界でもトップクラスにあるのだそうです。このため、日本の品種を積極的に海外に持ち出して売り込もうという動きが本格化しているといいます。いったいどういうことなんでしょうか?
(経済部記者 佐藤庸介)

狙いは日本の柔らかキャベツ

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その品種とは、実はキャベツです。キャベツの種を売り出そうという動きです。

キャベツはどれもキャベツじゃないかと思いますが、数百以上の品種があるのだそうです。「春キャベツ」、「冬キャベツ」、「紫キャベツ」……。実はすべて違う品種です。それを開発しているのが種子メーカー。色や形、柔らかさなど、いろんな特徴を持つ種を作って農家に売っています。

日本のメーカーが開発した野菜の種は、世界的にも高い評価を受けているそうです。特徴の1つは「味」。柔らかく、生で食べるのに向いています。

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もう1つの特徴は品質。「芽が出る割合の高さ」です。日本の農家の要求が厳しく、ほとんどの種はまけば芽が出ます。海外メーカーのものは、まいても芽が出ない種が結構混じっているということです。「病害に強い」という特徴もあります。

老舗が支える種子開発

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キャベツの品種開発を得意にしている種子メーカーの1つが、東京・北区の「日本農林社」です。従業員は30人ですが、創業は江戸時代末期の1852年という老舗です。

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茨城県の開発拠点では、農業用ハウス1棟の中に、400株のキャベツが所狭しと植えられていました。常時、1000種類を超えるキャベツを開発しているということです。

こうして栽培されたたくさんのキャベツから、味、色、大きさ、病気に対する強さなど、顧客から求められた条件を満たす品種を選び出して、販売につなげます。

近藤友宏社長は「厳しい日本の顧客の要求に応えてきただけに、日本だけでなく世界でも十分勝負できる」と力を込めます。しかし30人の会社で海外販売は難しいのが現実でした。

商社が中国・インドに持ち出し

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それに目をつけたのが大手商社です。大手商社の三井物産が日本農林社と、キュウリの品種開発が得意な「久留米原種育成会」と組んで、新会社を設立しました。

その名は「ジャパン・ベジタブルシード」。すでに中国やインドなどに、2社が開発したキャベツとキュウリの種を持ち込み、試験的に栽培を始めています。現地で十分な収穫が得られるめどが立てば、ことし秋にも商業販売に乗り出すことにしています。

野菜の種ならば勝てる!

こうした「種子」ビジネス。民間の調査会社によると、世界の市場規模はおよそ4兆円に上ります。ビジネスの80%以上は、「バイオメジャー」と呼ばれる欧米の巨大企業が押さえてしまっています。

特に大豆や、小麦、トウモロコシなどの種では、日本の企業は到底かないません。ただ、野菜は種類が多いため、規模の小さな日本企業が入り込む余地は十分にあります。

日本の人口は減少していますが、世界の人口は着実に増加。しかも経済成長で豊かな人が増えれば、品質のよい野菜を食べたいというニーズは確実に増えていきます。

品種流出の心配は?

でも、日本で開発した種を、中国やインドに売ってしまって大丈夫なんでしょうか?

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ピョンチャンオリンピックでクローズアップされた韓国のイチゴは、日本から持ち出された苗が、無断で増やされてしまいました。持ち出されたのは10年以上前で、無断で栽培できないように品種を保護する仕組みが韓国で十分に整っていなかったことも重なりました。

種も、いったん持ち出してしまえば、同じように広がってしまうのではないか……。

メーカーに聞いたところ、「この種は大丈夫」といいます。というのも、販売するのは「F1ハイブリッド種子」と呼ばれるタイプの種だからなのだそうです。

この種は品質が一代限り。キャベツやキュウリからできる種をまくと、次の世代は品質がバラバラになり、もうからないんだそうです。品質がそろったキャベツやキュウリを作ろうとすれば種を買うしかないように工夫しているのです。

どこまで広がる? 日本の種子

三井物産の話では、キャベツやキュウリのほか、海外ではメロンやスイカ、タマネギなどのニーズが大きいそうです。ほかの種子メーカーにも参加を呼びかけて、販売する種を増やす計画です。

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三井物産アグリサイエンス事業部の渡辺徹部長は、「商社のネットワークを活用して、日本の高い技術で開発した多様な品種の種子を販売していける。将来的には100億円規模の売り上げを目指したい」と意気込んでいます。

種の開発は、園芸王国のオランダやイスラエルも得意で、ライバル会社もたくさんあります。また、海外の種を持ち込むと、もともとその国にあった固有の品種が駆逐され、伝統的な食文化が脅かされるという強い懸念の声もあります。

こうした課題をうまく乗り越えて日本発の種の販売が広がるか、注目が集まっています。

佐藤庸介
経済部記者
佐藤 庸介
平成13年入局
釧路局をへて経済部
現在、流通・商社を担当