ニュース画像

ビジネス
特集
30代サラリーマンの模索

このところ広く語られる“人生100年時代”。いい響きではありますが、それは、サラリーマンにとって定年後の時間が延々と続くことを意味します。長い人生を見据え、それぞれ、何を考えているのだろう? 同世代の30代サラリーマンを取材してみると、今のまま働き続けることに危機感を抱き、動き出している姿が見えてきました。
(経済部記者 小田島拓也・甲木智和)

“人生100年時代”を見据え転職

まず取材したのが筒井健太郎さん(33)です。筒井さんは9年前、就職人気ランキング上位の大手損害保険会社に就職しました。人もうらやむ大会社で給与も高水準でしたが、筒井さんは次第に「このままでいいのだろうか?」と考えるようになったといいます。

ニュース画像

入社以降、会社を取り巻く環境が大きく変わっていったからです。会社の主力商品は自動車保険ですが、高齢化の加速や若者の車離れなどで市場は伸び悩んでいます。さらに世界的に開発が加速する自動運転車が普及して交通事故が減れば、今後さらに厳しくなっていくのではないかー。危機感を抱いた筒井さんは、会社の将来や自分のキャリアについて考えるようになります。

ただ、当時、会社には、時代の変化に合わせて社員のスキルを高めていく人材育成プランが十分に用意されていないと感じ、「定年まで勤めあげれば、老後の生活は安泰」という価値観が揺らいでいったといいます。

そこで、筒井さんは、どこでも通用するスキルを身につけようと独学でキャリアコンサルタントや産業カウンセラーなどの資格を取得し、おととし、会社を退職。今は人材開発のコンサルティング会社に勤めています。

決断を後押ししたのが、“人生100年時代”の働き方を提示し、ベストセラーとなった「LIFE SHIFT」でした。長い人生をいきいきと過ごしていくには、1つの会社に依存して生きていくのではなく、社会の変化に対応できるよう、みずからも進化していかなければいけないー。筒井さんは転職後もビジネススクールに通っています。

ニュース画像

社会人インターンシップで幅広げる

今の会社に勤めながらキャリアアップに取り組む30代サラリーマンもいます。

大手IT企業のシステムエンジニア、高橋謙太朗さん(30)です。人手不足の中、高橋さんのような“IT人材”はとりわけ引く手あまたで、業界を超えた争奪戦が起きているほどです。しかし、IT分野では日々、技術革新が進み、今後、AIが広く活用されていくことを考えると、今のままで通用するのか、危機感を覚えるようになったといいます。

ニュース画像

そこで、高橋さんが選んだのが、会社に勤めながら別の会社に短期間、体験入社できる「社会人インターンシップ」でした。取材した日、高橋さんは勤務終了後にAIの先端技術を持つIT企業を訪れました。そして、AIを活用して旅行・ブライダル分野で新たなサービスを開発していく企画会議に参加しました。

高橋さんは、ふだん、顧客企業がシステムを導入する際のサポ-ト業務を担当していますが、AIは詳しくなく、ましてやサービス開発の議論など初めてのことで、戸惑っている様子でした。

しかし、体験入社を終えた高橋さんに話を聞くと「活発な議論ができて、とてもいい経験になった。会社では、自分の専門領域以外のスキルには、なかなか手を出しにくい。異なる企業に体験入社することで知見を広げることができる」と振り返り、今後もさまざまな企業のインターンシップに参加したいと話していました。

社会人インターンシップを手がけるリクルートキャリアの椛田紘一郎さんは「転職はハードルが高いという人が多いだけに、体験入社はこうしたリスクを避けつつ、能力を試すことができ、自分の可能性を広げることもできる貴重な機会になる」と話します。

ニュース画像

ベンチャーへの“レンタル移籍”も

短期間の体験入社=インターンシップにとどまらず、ほかの会社に1年程度移る「レンタル移籍」で自分の力を高めようという30代サラリーマンもいます。

大手通信会社に勤める梶原浩紀さん(31)は、ことし4月から1年間、会社を離れ、これまで全く縁のなかったベンチャー企業で働くことを決めました。

この企業は、宇宙科学ビジネスのベンチャーで、梶原さんは商品の企画やマーケティングを担当します。梶原さんがレンタル移籍を決断したのは、新規サービスを提案する社内コンテストで、新たなアイデアを考え出せず、1次審査で落選したことがきっかけでした。

会社では、上司からの指示に沿って忠実に業務を進めていくことが求められがちで、斬新な商品やサービスを生み出す創造力に欠けていることを痛感したといいます。

ニュース画像

今の会社は、新卒の社員が1人もおらず、コンサルタント会社などで経験を積んだ多彩な人材がそろっています。営業では、これまでのように大企業の看板に頼ることもできず、ベンチャー企業の名刺で、どれだけ勝負できるかが問われています。

梶原さんは「会社を取り巻く環境が大きく変わる中、スピード感を持った意思決定ができなければ、顧客から相手にされず、取り残されてしまうと思う。ベンチャー企業でもまれることで、ビジネスのスピード感や、新たなものを生み出す力を身につけたい」と話しています。

30代サラリーマンの本音を聞いて

今回、私たちが取材した30代サラリーマンは、とにもかくにも動き出していましたが、実際は、「仕事が忙しい」「時間もお金もない」「家族が心配する」「会社が許してくれない」などさまざまな理由で、このままではいけないと思いながらも、踏み切れない人の方が多いと思います。

ただ、高齢化が加速し、年金をはじめ、社会保障制度の揺らぎが現実味を帯び始めるなか、「定年まで一生懸命働けば、豊かな老後を送れる」というライフプランは、もはや当たり前のものではなく、その危機感は若い世代ほど強いように思えます。

人口減少で今後、ますます働き手が足りなくなっていく日本。社会の変化にあわせて一人ひとりのスキル(生産性)をいかに高めていくかが、“人生100年時代”をポジティブなものにしていけるかどうかのカギを握ると考えます。

小田島 拓也
経済部記者
小田島 拓也
甲府局 首都圏放送センターをへて経済部
現在 金融担当
甲木 智和
経済部記者
甲木 智和
大津局をへて経済部
現在 金融担当