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“不合格”続出
第三者委員会って名ばかり?

神戸製鋼所、日産自動車、SUBARU、東レ、三菱マテリアル…。
日本を代表する企業での不正が後を絶ちません。そのたびに企業が立ち上げるのが第三者委員会や調査委員会。多くの場合、原因の究明と再発防止に向け、みずからではなく「第三者の目で」検証するためです。

「″第三者″による委員会で徹底的に原因究明を図り…」
「″第三者″による調査の結果…」

企業取材の経験があまりない私は、記者会見で繰り返される同じようなフレーズに、漠然と違和感を抱いていました。“第三者”だから信頼性が高いと考えがちですが、「それって本当?」と思ったのが取材のきっかけでした。
(ネットワーク報道部記者 佐藤滋)

″格付け委員会″

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4月9日、東京都内の弁護士事務所で開かれた記者会見。発表を行ったのは″格付け委員会″の人たちです。

神戸製鋼所が、製品の検査データの改ざんを繰り返していた問題をまとめた報告書(3月公表)について、調査が十分に行われ、真相に迫れているかなどを評価する「格付け」を行い、この日、明らかにしたのです。

9人の委員の「格付け」は、4段階で最低の「D」が3人。残る6人は不合格に当たる「F」と厳しいものでした。

その主な理由は、神戸製鋼の「説明責任」でした。

弁護士3人による外部の調査委員会を立ち上げて調査したにも関わらず、その調査委員会がまとめた報告書を公表しなかったのです。代わりに公表したのは、不正の当事者=会社側が取りまとめたものでした。

調査委員会の報告書を非公表にした理由について会社側は、アメリカの司法当局の調査を受けていることや、カナダで損害賠償請求の訴訟中であることなどを挙げていました。

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格付け委員会の委員長を務める久保利英明弁護士は記者会見で、会社の姿勢を厳しく批判しました。

「外部の委員会の調査報告書をそのまま公表することでアカウンタビリティー(説明責任)を発揮する絶好の機会だったのに、なぜ神戸製鋼所は放棄したのか。株主、得意先、従業員、地域、健全な証券市場、どの観点から見ても誠に残念」

なぜ報告書を格付け?

この「格付け委員会」のメンバーは、弁護士、ジャーナリスト、そして研究者の合わせて9人。すべてボランティアです。 4年前から企業や団体の第三者委員会などの報告書を、その名のとおり「格付け」し、ホームページで公表しています。

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「第三者委員会」は、10数年前から、不祥事を起こした企業が原因の究明と再発防止に向けて設けるようになりました。

しかし、その第三者がまとめる報告書の中には、企業のいわば「言いなり」で「お手盛り」とも言えるものが後を絶たなかったと言います。

久保利弁護士らは「実態を伴わない“名ばかり第三者委員会”は、逆に企業価値を毀損する」として、客観的な立場からの“格付け”が必要だと考えたのです。

「F」評価が次々と

格付けは、メンバー1人1人が「A」~「D」の4段階で評価します。不合格となれば「F」です。

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評価は、日弁連=日本弁護士連合会が8年前に示した第三者委員会のガイドラインがベースになっています。

▽調査は経営者のためではなく、すべてのステイクホルダー(株主、従業員、顧客などの利害関係者)のために行うこと
▽企業から独立したメンバーが中立性を持って調査をすること 等々

さらに、委員は評価に際して主に次のような要素を考慮するとしています。

▽事実認定の正確性、原因分析の深度、不祥事の本質への接近性、組織的要因への言及
▽再発防止提言の実効性、説得力、企業や組織等の社会的責任、役員の経営責任への適切な言及など

その結果、これまで16回の格付けでは、厳しい評価が続いています。
すべての評価を数えると、「A」はわずか1個。最低の「D」と不合格の「F」を合わせると全体の半数を超えています。

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委員別で見ると、久保利弁護士の「F」の多さが目立ちます。その数は、半数を超える9回でした。

「ダメなものはダメと委員長ぐらいは言わないと、警告を与えることにはならない。委員長はみんなから恨まれるためにやっている。だから、いちばん“正直”にやりましょうと」(久保利弁護士)

“正直”ということばに力を込めていました。

歴代社長3人が辞任

久保利弁護士が第三者委員会の役割の大きさを改めて確信したのは、現在、経営再建中の東芝の報告書(2015年7月公表)です。

東芝の第三者委員会は、3年前、インフラ関連の会計処理を巡る問題が発覚したことを受けて設けられ、メンバーは弁護士と公認会計士の合わせて4人でした。

2か月後にまとめられた報告書は、「経営トップらを含めた組織的な関与があった」などと経営体質そのものを厳しく批判。これを受けて、歴代の社長3人は辞任しました。

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“地雷原”があったのに

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一見、意味のある報告に見えますが、格付け委員会の評価は、「C」が4人、「D」が1人、「F」が3人。久保利弁護士は「F」でした。

なぜなのか。特に問題視したのは、調査の対象を絞ったことでした。

報告書の提出から、わずか4か月後。東芝はアメリカの原子力子会社「ウェスチングハウス」(後に経営破綻)で巨額の損失を計上していたことを明らかにしました。

しかし第三者委員会は、このウェスチングハウスを調査の対象にしていなかったのです。

というのも、報告書では調査の前提として…
▽調査や調査結果は、東芝のためだけに行われた
▽東芝と合意した委嘱事項以外の事項については、本報告書に記載しているものを除き、いかなる調査も確認も行っていないーーーと記しています。

これに対して格付け委員会は「(調査対象が)依頼企業の『言いなり』に限定されれば(中略)不祥事の実態が把握できない」として、第三者委員会の姿勢を厳しく批判しました。

久保利弁護士は、このとき、ウェスチングハウスについても徹底的に調査していれば、対応も変わっていた可能性があると指摘します。

「このあと、とんでもない損が発生する“地雷原”がここにあるから踏まないで、と指摘する。そして、それをどう処理していくのか考え、軟着陸する方法もあったのではないかと思う。(調査対象を絞らなければ)とてつもない債務超過になることはなかったのはないか」

指摘を受けた反応は…

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第三者委員会の会見(左から2番目が上田委員長)

厳しく“格付け”された東芝の第三者委員会。
メンバーはどう受け止めているのか。

委員長の上田廣一弁護士に先月、取材を試みました。電話で趣旨を説明しましたが、もらえたのは短いコメントだけでした。

「報告書に書いてあることがすべてなので、お答えするつもりはありません」

たどりついた結論

では、「名ばかり第三者委員会」をなくすためにはどうすればいいのでしょうか?

久保利弁護士の答えは、私たち報道に携わる者にとって耳の痛いものでもありました。

「僕らの格付けだけでは無くならないかもしれない。メディアが本当の批判をし続けたり、評価を行う格付け会社などが、しっかり見続けていくことが必要。メディアも忙しいから、何かが終わると次はこれだとなるけど、そうではなくて、東芝問題はずっと追い続ける価値があると思うし、今度の神戸製鋼もこの後どうなるのか…」

何度厳しい格付けを繰り返しても、変わらない企業の姿勢。
久保利弁護士は、取材の間、終始、危機感と怒りをあらわにしていました。

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「ピンチの時こそ″正直に″『こう改めます』と言えば、『やるじゃないか』と株価も上がってくるかもしれない。なのになぜ、そういう機会を見逃すのか。逃げて隠れる会社は結局また不正を起こす。“正直”じゃない会社、まじめじゃない会社の失敗は、必然だと思います」

企業の不正、そしてその再生に向けたカギとなる第三者委員会。難しいテーマで「簡単に答えは見つからない」と思い、私は取材を始めました。

ただ、最後にたどりついたのはシンプルな結論、“正直さ”でした。

佐藤 滋
ネットワーク報道部記者
佐藤 滋
平成15年入局
スポーツニュース部を経て現所属
オリンピック取材などを担当