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アメリカで広がる都市間格差 将来の日本も?

トランプ大統領に連日のようにツイッターで批判されるネット通販大手アマゾン・ドット・コム。急激な成長ゆえに他の小売業の経営を圧迫しているのが気に入らないのか、本当の理由はよくわかりません。ただ、アマゾンの急成長は本社があるアメリカ西部の都市、シアトルの経済を大きく変えています。一方、アマゾンのような巨大IT企業と縁がない都市の経済は成長するにしても限界があります。アメリカで広がる都市間格差、日本の近未来の姿もこうなるのでしょうか。
(おはよう日本 おはBizキャスター 豊永博隆)

アマゾン効果に沸くシアトル経済

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シアトル中心部にある巨大なガラス球体。まるでSF映画に出てきそうな建物ですが、実はアマゾン・ドット・コムの施設です。ドーム状の建物内には南国の植物など4万本が植えられています。緑で囲まれて仕事をすることで、社員の独創的なアイデアを引きだそうという狙いです。

シアトル中心部に点在するアマゾンのオフィスにはおよそ4万人が勤務。この6年間で10倍近くに増えました。その影響で市の税収も増加。今や市内のオフィスの20%をアマゾンが占め、地元への経済効果はこれまでに4兆円を超えるとされています。シアトルは今やアマゾンの“企業城下町”となっているのです。

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私は2011年まで経済記者としてニューヨークに駐在していました。このとき何度も取材でシアトルには来ていますが、今回8年ぶりに訪問すると、街の姿が大きく変貌していることに驚かされました。新しいレストランや店がオープンしているのは当たり前として、新しいビルがかなり増えて、街全体の雰囲気が明るくなっていました。建設中のビルも街のあちこちで見かけます。

朝からクレーンがせわしなく動いており、全米で最もクレーンが稼働する街として知られています。

経済の好循環

シアトルは近郊を含めると、多くのIT関連企業がオフィスを構えます。マイクロソフトが有名ですが、このほかにもオンライン旅行サイト・エクスペディア、スーパーコンピューターのクレイ、日本のゲームメーカー、任天堂のアメリカの拠点もあります。

業績好調なIT関連企業があれば、職を求めて優秀なIT人材が吸い寄せられるようにシアトル周辺に集まってきます。ネットワークができあがり、このコミュニティのなかで転職した人が他の会社でもいい仕事をして企業の成長に貢献。一連の動きが経済の好循環を生み出しているわけです。

自動車の町は?

一方、経済の好循環がなかなか軌道に乗らない都市もあります。私はシカゴから車で2時間の距離にある、ウィスコンシン州ジェーンズビルを訪ねました。

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2018年2月撮影

この町を訪ねたのには理由があります。この都市の経済を支えてきたGM=ゼネラル・モーターズの自動車工場が2008年12月に閉鎖されたときに取材で来たことがあり、その後10年で都市がどう変わったかを知りたかったのです。

この工場は第一次世界大戦の直後、1919年に操業を始めた、GMで最も歴史ある工場でした。しかし、リーマンショック後のGMの経営危機により、2008年12月、閉鎖されたのです。

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2008年当時

閉鎖された日、工場の出入り口で従業員にインタビューしたときの外気温はなんと氷点下20度! あまりの寒さでカメラのバッテリー残量があっという間になくなり、慌ててレストランに駆け込んで充電したことを覚えています。この工場閉鎖の半年後、GMは経営破綻します。今から振り返ると、先行きを予言するかのような工場閉鎖でした。

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10年前にも訪れた、工場のフェンス沿いのバーが今も営業していました。当時、店内に入ると腕っぷしの強そうな巨体のGMマンがグラス片手ににらみつけてきて、震え上がりました。バーのオーナーが「トラブルになるから日本人は早く店を出た方がいい」と、そっと忠告してくれ、難を逃れました。工場閉鎖は日本メーカーのせいではないのですが、見慣れない東洋人の取材クルーに不安の矛先を向けたのでしょう。

今回、店のドアを開けると陽気な建設作業員が声をかけてきて、「あちこちで仕事があるぞ」と語っていたのが対照的で、印象に残りました。同じ店でこの違い。10年の歳月の流れを感じました。

工場閉鎖10年 どん底からの回復

ジェーンズビル市役所を訪れ、市の幹部シティマネージャーのマーク・フレイタグ氏に話を聞きました。

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「景気後退のなか、町の人たちは今の暮らしをどうやりくりするか心配し、倹約生活を送りました。2014年でも、企業にぜひジェーンズビルに来てくださいと誘致の電話をしても相手にされませんでした」

しかし、2015年以降、景気回復の流れがようやくこの都市にも及び、新たに企業がこの町に工場や配送センターなどを開設するようになったのです。1月の失業率は全米平均を大きく下回る2・7%。ほとんど完全雇用です。

フレイタグ氏は、GMが90年にわたってこの地で工場を運営してきたことで、良質な働き手が育成され、それが新しい企業の目にとまったのだと胸を張っていました。

経済指標の裏にあるものは

しかし、経済指標は必ずしも真の経済を語るわけではありません。失業率2.7%の裏にあるものは何か? 日本でいう職業安定所に行って話を聞くと、町の仕事の平均的な時給は15ドル程度。GMの従業員がかつてもらっていた時給30ドル程度のおよそ半分です。雇用は確保されても賃金はかつてと比べると大幅に下がってしまっていたのです。

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最近、町にやって来た食品のプラスチック容器を製造するメーカー。ここはもともとはリアという、GMに自動車のシートなどを納入する大手の部品メーカーの工場でした。GMの工場撤退で比較的賃金が高い部品メーカーも町を去っていました。

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GMの元関係者に話を聞くことができました。タミー・ウィテカーさん、元夫が当時、GMの工場に勤めていた、GMファミリーです。工場があったときの家族の生活はとても豊かだったといいます。車はSUV、スノーモービルも所有していました。ウィテカーさんはバイクのハーレー・ダビッドソンにも乗っていました。しかし、工場閉鎖によって生活は一変し、子どもたちの生活を支えるために3つのアルバイトを掛け持ちしたといいます。

インタビューの途中、ウィテカーさんは昔を思い出して突然涙を流しました。
「給料は減って毎日の生活費は上がっているので、ずっとこの環境と戦っているのです」

企業誘致は進み、町の経済そのものは回復していますが、ウィティカーさんの生活は元には戻っていないのです。

進む都市の経済格差

アメリカでは今、こうした都市間の格差が広がっています。アマゾンがあるシアトル、アップルやグーグルなどのIT企業が集まるサンフランシスコ周辺、巨額の税制優遇と人件費の安さで企業誘致に積極的な南部の都市。特に巨大なIT企業がオフィスを構える都市はスキルのある人材を呼び寄せ、高い給与が周辺にも経済波及効果をもたらし、繁栄のサイクルを築き上げていきます。

一方、長年アメリカ経済を支えてきた製造業は加速力に限界が見えてきました。賃金の安い新興国と常に競争しなければならないからです。伝統的な製造業が撤退した町はなおさらです。

業種による成長スピードの差は人々の見えない経済格差となっているのが今のアメリカの現状なのです。日本はまだここまでの業種による経済格差は起きていませんが、テクノロジーの急速な進化が企業の成長スピードに差をもたらし、私たちの暮らしを大きく変えてしまう未来は、もしかしたらすぐそこまで来ているのかもしれません。

豊永 博隆
おはBizキャスター
豊永 博隆
平成7年入局
函館局 サハリン駐在をへて経済部
ニューヨーク駐在4年 リーマンショックを取材
金融・通商・エネルギー取材を長く担当
現在は経済部デスクを兼任