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新入社員 辞めてしまわない秘けつは?

「“人財”を大事にする会社です!」
企業の採用ページに書かれていても“きれい事”のように聞こえてしまう、このフレーズ。ところが今、人手不足の深刻化で、企業にとって偽らざる本音になってきています。
せっかく採用した“人財”に、辞めずに長く働いてもらうことで、人手不足を乗り越えたい。そのための秘けつとはー。
(経済部記者 中野陽介)

人手不足の“悪循環”

「採ってもすぐ辞めて、また採って、またすぐ辞めてでは、悪循環になってしまう!」

運送会社「ロジクエスト」の採用担当、木戸善次郎さんはそう話します。

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木戸さんが嘆く“悪循環”は以下の3つが繰り返される状態です。

(1)仕事が増えて、運送現場で繁忙感が強まる
(2)運送部署は採用部署に対し、十分な人手の確保を要請する
(3)採用人数を増やすが、1年以内に30%が辞めてしまう

すると、

(1)また、現場で繁忙感が強まり、(2)人手が不足するので、
(3)採用するが、また辞めてしまう

この悪循環を止めるには、しゃにむに人手を確保しようとするのではなく“社風”に合った人を採用すべきではないのか…。

木戸さんはそう考えました。

人手不足がひっ迫している運送業界では、辞めてもすぐに仕事が見つかるので、「会社に合わない」ことが、即、離職につながってしまうからです。

“社風に合うか”AIマッチング

そこで会社が取り入れたのが、ITベンチャーが開発した新たな採用システムです。

このシステムでは、採用候補者に「仕事とプライベート、どちらを重視するか」など、個人の性格や価値観を探る72の質問に答えてもらいます。

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ここまでは、多くの企業が導入している「適性検査」とあまり変わりがありません。

このシステムの特徴は、いま働いている社員全員にも同じ質問に答えてもらうことです。これをもとに、AI=人工知能が、この会社の社員の傾向、いわゆる“社風”を分析し、採用候補者の検査結果から、会社との“相性=マッチ度”を判定します。

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会社は、人手不足で苦しい中でも、システムで「マッチ度」が50%以下となった場合、採用しないようにしました。
すると、それまで30%に上っていた新入社員の1年以内の離職率が、半分程度に低下する効果があらわれたといいます。

社員の入れ代わりが激しいと、スキルが足りない人が現場に多くいることになり、業務に支障が生じます。このため社員の離職率の低下=定着率の上昇はそうした悩みの改善にもつながることが期待できます。

木戸さんは「現場は常に人手不足なので、つい“数”を採りたくなってしまいます。でも、ぐっとこらえて、会社に合う人だけに採用を絞ったことで、長い目で見て人手不足に悩まずに済むようになるかもしれない」と話していました。

“離職リスク”を見極める

採用後のフォローの充実で離職を防ごうというサービスも出てきています。

これは、転職サイト運営会社の「エン・ジャパン」が始めたもので、新入社員のスマホに「入社前とイメージのギャップがないか?」「仕事の進め方には慣れてきたか?」など3つの質問を毎月1回、送ります。

社員は「笑っている顔」や「げっそりした顔」などのスタンプを選んで回答します。

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質問内容は毎月変わり、回答の推移を分析することで、離職のリスクを3段階で判定します。そして、リスクが高いとした社員には、業務量を減らすなど、必要な対応をとるよう人事担当者に通報します。

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人手不足が招く離職も

開発担当の越田良さんは「今、多くの企業で採用担当部門が人手確保に追われている。その結果、新入社員へのフォローが手薄になり、離職につながるケースが後を絶たない」と指摘します。

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このため、新たなサービスは、辞めてしまうリスクを手軽に“見える化”することで、効率的にフォローできるようにし、離職を未然に防ごうという狙いがあります。

実際、このサービスを試験的に導入した50社では新入社員の離職率が半分以下に低下したということで、導入企業は今では1000社を超えました。

人手不足をきっかけに

4月2日発表の日銀短観=企業短期経済観測調査で、企業の人手不足感はバブルの余韻の残る平成3年に次ぐ、およそ26年ぶりの水準となりました。
今後、生産労働人口の減少が加速していく中、人手の確保は、企業の持続可能性にかかわる重大な問題です。

ただ、やみくもに人手を確保するのでは、企業・社員双方にとって必ずしもよいことにはなりません。

「“人財”の定着こそ、最大の人手不足対策」

人手不足をきっかけに、社員を大事にする企業が増え、それが真の意味での働き方改革につながる“好循環”がうまれることを期待したいと思います。

中野 陽介
経済部記者
中野 陽介
金融担当
金沢局、宮崎局をへて経済部