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アメリカ西海岸の景気は“うはうは” でも過熱に不安

旅行や出張でアメリカを訪れて、ホテルやレストランなどで物価の高さに驚いたという方が多いようです。日本が突出して物価が高かった時代は今は昔。アメリカでは雇用がひっ迫していることで、物価がさらに上昇する懸念も出ています。
IT企業が集まり、3月7日に発表されたFRB=連邦準備制度理事会の地区連銀経済報告(ベージュブック)で、「緩やかな景気拡大が続いている」と総括された西海岸で景気をみてみます。(ロサンゼルス支局記者 飯田香織)

“記録的決算にぞくぞく”

アメリカのIT大手のアップルのティム・クックCEO。ふだんは冷静な語り口ですが、2月の決算会見で「記録的な決算にぞくぞくしている」と珍しく興奮気味に語りました。

去年10月から12月までの3か月間の売り上げは、882億9300万ドル(約9兆6000億円)で過去最高。最終利益は200億6500万ドル(約2兆2000億円)で、これまた過去最高。

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アップル ティム・クックCEO(2017年9月新製品発表会見)

アマゾン・ドット・コムも売り上げ604億5300万ドル(約6兆6000億円)、グーグルの親会社のアルファベットも売り上げ323億2300万ドル(約3兆5000億円)と軒並み過去最高を記録しました。
各社とも世界的に商品の売り上げが増えたほか、広告事業やクラウド事業が好調だったためです。(※為替は決算発表時の換算レート)

投資拡大の動き

好調な決算を誇るIT各社は今、トランプ大統領の「国内回帰」を求める厳しい視線もあって、アメリカ国内で設備投資や雇用をせっせと拡大中です。

アップルはことし1月、今後5年で300億ドル以上を設備投資し、合わせて2万人超を新規に雇用すること、さらに新しい社屋を建設することを発表しました。
アマゾンも、今のシアトルの本社とは別に「第2本社」を50億ドルかけて建設し、最大5万人の新たな雇用を生み出す見込みだといいます。

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すでに新しい本社ビルを建設したIT企業もあります。顧客情報を管理するソフトウエア大手のセールスフォース・ドットコムは、ミシシッピ川以西でもっとも高いビルとなる本社をことし1月にサンフランシスコにオープン。高さは326メートルで、ダウンタウンの景色を一変させました。

不安(1) 住宅価格・家賃の上昇

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西海岸一帯の主要都市は、どこを見ても再開発のためのクレーンが稼働するなど好景気です。しかし、さらなる景気拡大には不安もあります。住宅価格・家賃の上昇、トランプ政権の移民政策による人手不足です。

全米の住宅価格を追跡するS&Pケース・シラー住宅価格指数(直近の去年12月時点)によりますと、アメリカ西部の上昇が際立ちます。

アマゾンが本社を構えるワシントン州シアトルは1年前と比べて12.7%、IT企業の見本市などが開かれるネバダ州ラスベガスは11.1%、シリコンバレーにほど近いカリフォルニア州サンフランシスコは9.2%、IT企業を積極的に呼び寄せているロサンゼルスは7.5%の上昇などと、軒並み高い水準です。

これまでのところ、「バブル」という指摘はあまり聞きませんが、IT企業の社員がサンフランシスコなどの家賃をつり上げていて、「住めない街」になりつつあるという批判が強まっています。

消費者物価指数から賃貸住宅の家賃を抜き出すと、去年12月の時点でシアトルは対前年同月比で7.5%、ロサンゼルスは5%、サンフランシスコは4.8%の上昇となっていて、全米平均の3.2%を大きく上回ります。

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サンフランシスコとシリコンバレーの住民の49%、ロサンゼルスの住民の50%が「家賃があまりに高いため、カリフォルニアから引っ越したいと思っている」ということです(広告会社Edelman調べ)。
実際、去年12月までの3か月間で全米でもっとも人口流出が多かった都市はサンフランシスコです(不動産会社Redfin調べ)。

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西海岸は物価全体も上がっています。
ロサンゼルスの私の職場近くには毎日10台前後のフードトラックがやってきて、IT企業に勤める若者らでにぎわいます。価格表をよく見ると、塗り替えたり、上にシールをはったりしているところが少なくありません。

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写真のランチセットは、ついこの前まで11ドルでしたが、現在は12ドル。お店に理由を聞いたところ「食材費も人件費も上昇しているから」ということです。需要があれば価格が上がる。これが経済の基本だと思い知らされます。

日本からの出張者や旅行者にも関係するホテル料金も上がっています。平均が全米でもっとも高いのはカリフォルニア勢で、サンフランシスコとロサンゼルスがワンツーフィニッシュ。ボストン、シアトル、マイアミと続きます。

幅広い分野の物価上昇は、個人消費などの足かせになりかねません。

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不安(2)移民政策

もう1つの不安がトランプ政権の移民政策をきっかけとした人手不足です。
2004年、当時のブッシュ共和党政権の厳しい移民政策を背景に、映画”A Day Without a Mexican”が公開されました。

不思議な濃霧に覆われたカリフォルニア州からある日突然、メキシコ人労働者が全員消えて、経済がまひしてしまうという内容。それが現実になるのではないかという懸念が広がっています。

子どもの時に親と一緒にアメリカに不法入国した若者の在留資格を撤廃すると宣言したトランプ大統領。こうした若者は、「アメリカンドリーム」を体現してきたとして「ドリーマー」と呼ばれ、全米に68万人以上います(80%がメキシコ出身)。

このうち20万人が滞在しているのがカリフォルニア州で、その多くがロサンゼルス周辺で生活しています。3月5日に滞在資格が切れる予定でしたが、司法の判断待ちとなったことで強制的な国外退去の対象となるのか、ドリーマーは不安のままです。

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移民の若者らによる抗議集会(ロサンゼルス2018年1月23日)

アメリカのNGO(New American Economy)によりますと、ドリーマーのうち約20%が外食産業、10%が建設業で働いていて、移民政策の見直しの結果、この2つの産業でとりわけ人手不足に陥ることが心配されています。

全米の建設業者で作る団体によりますと、加盟企業392社のうち、75%が現段階で必要な人手が集まらないと答えていて、人手不足がいっそう深刻になると見られます。

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トランプ大統領の移民政策はIT企業にも影を落としています。
ドリーマーの滞在資格の撤廃について、アップルのティム・クックCEOはアップルの社員にも25人のドリーマーがいると指摘したうえで、「われわれと同等の扱いを受けるべきだ」。インド出身のグーグルのスンダー・ピチャイCEOも「ドリーマーはわれわれの隣人であり、友人であり、同僚だ」と、それぞれツイッターに投稿して危機感を露わにしました。

トランプ政権は2月、高度な技術を持つエンジニアらに付与するH1-Bと呼ばれる就労ビザについても審査をいっそう強化すると発表。段階的な強化によってすでに影響が出ています。

トランプ大統領が就任した2017年、H1-Bビザが認められた外国人は19万7129人にとどまり、前年から43%も減少。
とりわけ毎年、全体の80%を占めるインド出身者が減っており、IT企業の成長の足かせになることが懸念されています。

加州は世界第6の”経済大国”

人口4000万で全米最大のカリフォルニア州の経済規模は2兆6000億ドル余り。1つの国だと想定すると世界第6の”経済大国”です。

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カリフォルニア州の経済は、IT、エンタメ、金融、製造業、農業など幅広い産業に支えられていますが、アメリカのごく一部にすぎません。
それでも、10年前のサブプライムローン危機の震源地となったのは、カリフォルニア州の住宅です。住宅価格や家賃の上昇、厳しい移民政策でひっ迫する雇用情勢など、危機の芽がないか目を光らせてよく取材したいと思います。

飯田 香織
ロサンゼルス支局記者
飯田 香織
1992年入局
京都局、経済部、
ワシントン支局などをへて
2017年夏からロサンゼルス