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八丁みそはどこのみそ? ブランド論争の行方

「みそカツ」「みそ煮込みうどん」最近、全国に知られるようになった名古屋めし。その多くに赤黒く、濃厚な香りと味わいが特徴のみそが使われています。東海地方の食卓には昔から欠かせない存在ですが、その代表的なブランド「八丁みそ」を巡って今、地元の愛知県である騒動が起きています。
(名古屋放送局記者 堀木伸一)

国の登録制度を巡って…

発端は「GIマーク」という国の登録制度でした。
GIとは、「GEOGRAPHICAL INDICATION(地理的表示)」。
日本各地の伝統的な食品や農産物を地域のブランドとして、その名前を国が登録、保護する仕組みです。国に登録された産品は、ことし2月20日時点で全国に59品あります。

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わかりやすい例としては「夕張メロン」や「松阪牛」「神戸ビーフ」「近江牛」…などがあります。
各地の食品メーカーなどが申請し、GIマークを取得すれば、ほかの地域では、その名前を名乗ることができなくなります。偽造品の流通防止や海外展開の後押しにもつながると期待されているのです。

老舗2社が登録から外れる

「八丁みそ」も去年12月に登録されました。しかし、この決定、地元の愛知県で八丁みその保護につながると歓迎されているのかと思いきや、そうではなかったのです。

実は、「八丁みそ」のGIマークは、江戸時代創業の愛知県岡崎市の「老舗メーカー」2社と愛知県内のほかのみそメーカーなどで作る「組合」がそれぞれ別に申請していたのです。

その際、どういうみそを「八丁みそ」というのか、それぞれの主張が大きく食い違っていました。結局、国は組合側の主張を認めたため、老舗2社はGIマークの使用ができない状態となったのです。

岡崎のみそか 愛知のみそか?

両者の違いは何だったのか?

もっとも大きな違いは「産地」です。老舗2社は本社がある「岡崎市八帖町」こそが産地だと主張しています。

八丁みそは、徳川家康が生まれた岡崎城から西に八丁(800メートル余)離れた、現在の八帖町で作られていたことに由来する。それ以外のみそは含まれない、ということです。

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一方、組合側は広く「愛知県」が産地だと主張します。
昭和初期には県内各地で「八丁みそ」を名乗るみそが作られていたことをあげて、愛知県全体を産地と考えるべきだと考えています。

木おけ作りか タンク製造か

みその製法についても主張が違います。

老舗2社は江戸時代から続く製法を重視して、みそを熟成させる設備は「木のおけに限る」と主張。これに対し、組合側は木のおけだけでなく、金属製の「タンク」も認めています。

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組合が伝統的なイメージとは異なるタンク製造を認める背景には、みそ業界の先行きへの危機感があります。今では、木のおけを作れる職人はほとんどいないうえ、コストもかかり、独特な仕込みのノウハウも求められます。

いま主流となっているタンクも認めることでメーカーの参入をしやすくし「八丁みそ」の生産を増やしたほうがいい、という判断があります。

戸惑う老舗

今回の国の決定を双方は、どう受け止めているのでしょうか。

老舗2社は、納得できないとしています。

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(カクキュー八丁味噌 早川久右衛門社長)
「ほかのみそメーカーはそれぞれが伝統ある名前を持っている。わざわざ『八丁みそ』と名乗る必要はないのではないか。八丁というのは八丁の地にある私たち2社のことです」

(まるや八丁味噌 浅井信太郎社長)
「私たち2社と異なるみそを同じだと判断された。この判断はおかしいと思う」

組合はブランド活用に期待

一方、組合側は、登録を大きく評価しています。

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(愛知県味噌溜醤油工業協同組合 富田茂夫専務理事)
「みそ業界は出荷量も減っていて厳しい環境にある。八丁みそのブランドを使ってさらに出荷を増やし認知度を高めていく必要がある。愛知県全体で取り組んでいきたい」

組合の加盟メーカーはどう受け止めているのでしょうか。

豊田市の「野田味噌商店」の野田好成さんは、みそメーカーを経営するかたわら、東京で八丁みそ料理を中心にした居酒屋も経営。八丁みそになじみがない首都圏の人たちにPRしようと取り組んでいます。

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「伝統というと変わらないイメージがありますが、変わらないものを芯にしつつも、必要だと思うことは新しく取り入れてみる。変わらなければならないところは変えるべきだ」

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ブランド使えず海外展開に痛手も

ブランド登録から外れた老舗2社は今後どうなるのか。

国内ではこれまでどおり「八丁みそ」のブランドは名乗れますが、GIマークは使えません。影響が出そうなのがヨーロッパへの輸出です。EUは、日本に先行する形で、GIマークの保護に力を入れてきました。

このためGIマークがないとヨーロッパでは「八丁みそ」と名乗れない可能性が高まっています。日本食ブームが広がるなか、老舗2社のヨーロッパ展開には痛手になりかねません。

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国も気がかり?

老舗の2社が登録から外れた状態について、齋藤農林水産大臣は1月の記者会見で「老舗2社は追加申請して登録すればブランドの使用が可能になる。2社が排除されたわけではない」と述べています。

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とはいうものの、老舗側が追加申請しようとすれば、組合側のみその定義を受け入れる必要があります。

老舗2社は、これまでの経緯から「産地は愛知県」「タンクで製造」といった主張を認めるのは難しいとみられます。
3月半ばまでに国に対して不服の申し立てを行う方針で、「八丁みそ」ブランドをめぐる騒動。決着にはまだ時間がかかりそうです。
地元出身の記者として引き続き今後の展開を追っていきたいと思います。

堀木 伸一
名古屋放送局記者
堀木 伸一
愛知県出身
民放勤務をへて平成21年入局
主に東海地方の企業取材を担当