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NY発同時株安 あの時何が? この先何が?

2月はじめに起きたニューヨーク発の世界同時株安。ダウ平均株価は2月5日、1日の下げ幅としては過去最大の1175ドル下落。これを受けて東京株式市場でも、翌6日に1071円値下がりしました。世界の市場が動揺したこの時に何が起きていたのか、そしてこの先、何が起きるのでしょうか。
(アメリカ総局記者 渡部圭司)

わずか10分の間に…

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目を疑いました。2月5日、前日より500ドル余り低い水準で推移していたダウ平均株価が取り引き終盤に、突如下げ足を速めて一気に1600ドル近くまで値下がりしたのです。その間、わずか10分。ダウは、リーマンショックの時を上回る過去最大の下げ幅を記録しました。

アメリカの経済専門テレビ局CNBCのキャスターは、真っ青な表情で「何が起きたのかわからないが、アメリカ経済は盤石だ。企業業績は好調そのものだ」と自分に言い聞かせるように連呼していたのが印象的でした。

投資家の不安表す指標 急上昇

その時、株価暴落に呼応するかのように大きく変動していた指標があります。投資家の市場に対する不安心理を表すとされる「VIX(ビックス)指数」、別名「恐怖指数」です。この指数は株価が安定している時は低く、株価の値動きが激しくなって投資家の不安が高まると上昇します。

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VIX指数は、1月までは10を下回ることもある歴史的な低水準にありました。それが株価が急落した5日、一気に38まで上昇。翌6日は一時50まで跳ね上がりました。

VIX指数は、それ自体が投資の対象にもなっています。株価が安定的に上昇し指数が低い時ほど、高いリターンを得られる金融商品です。去年から続く株高を受けて個人投資家を中心に人気を集めていました。

そこに突然やってきた株価急落とVIX指数の急上昇。VIX指数に連動した商品は一瞬にしてその価値のほとんどを失いました。これに投資してきた人たちは損失を穴埋めするため、保有する株式を急いで売ることを迫られました。

さらに株安に拍車をかけたのが、コンピューターによる「超高速取り引き」です。株価が急落した時に一刻も早くリスクを切り離そうと、人間が判断するより先にコンピューターが1000分の1秒以下という速さで売り注文を出します。一度コンピューターが売り注文を出すと、それに反応して別のコンピューターも売り注文を出す、まさに売りが売りを呼ぶ状況になっていたのです。

きっかけは長期金利の上昇

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そもそも引き金は何だったのか。2日に発表されたアメリカの雇用統計に話はさかのぼります。この統計で、1月の平均時給が前の年の同じ月と比べて2.9%増加し、2009年以来の高い伸びとなったのです。賃金が伸びれば、消費が活発になって物価も上昇する。その結果、金利も上昇するという連想が働きました。

このためアメリカの長期金利は2.8%とおよそ4年ぶりの水準まで上昇したのです。一般的に金利と株価は反比例する関係にあり、金利が上昇すれば株価は下がりやすくなります。

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その一方で住宅ローンや自動車ローンの金利が上がりますから、個人消費にマイナスです。これまでのアメリカの株高は、リーマンショック以降続いた低金利によってもたされてきました。景気がいいのに金利が低いという史上まれにみる好条件が株価の最高値更新を連発させていたのです。

しかし、こうした居心地のよい状況はいつまでも続くはずありません。賃金の上昇をきっかけに景気の過熱感が意識され、金利が上昇したことで、「宴」の終わりが近づいているという懸念が投資家の間に急速に広がったのです。

よい金利上昇か? 悪い金利上昇か?

金利の上昇自体は経済にとって必ずしも悪いことではありません。景気がよくなれば賃金が上がって物価も上がるため、金利が上昇するのは当然です。景気の過熱を防ぐため、長い目で見ればむしろ健全なことだと言えます。

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問題なのは悪い金利上昇です。アメリカのトランプ大統領は景気を浮揚させるため、大幅な減税を打ち出しました。しかしこれによって、アメリカの財政赤字は今後10年間で1兆4500億ドル、日本円で150兆円以上拡大すると見込まれています。

さらにトランプ政権は、国防費の増額やインフラ整備の強化など積極的な財政政策を進めようとしています。放漫な財政によって国の信用が損なわれれば、国債の価格が下落して長期金利が上昇しかねない。これが悪い金利上昇です。

今回の金利上昇は「よい金利上昇」か、それとも「悪い金利上昇」か。専門家の間でも見方が分かれますが、今のところアメリカの景気の先行きは明るく、「よい金利上昇」だと捉える人が大半です。しかし今後の景気を占ううえで、どちらの原因で金利上昇が起きているのか、われわれも注視していく必要がありそうです。

利上げのペースは? FRB議長発言に注目

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大きく市場が動いたこのタイミングにアメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会の議長が交代しました。くしくもダウが過去最大の下げ幅を記録した2月5日は、パウエル新議長が就任したまさにその日でした。

1987年のブラックマンデーも、当時のグリーンスパン議長が就任した直後で、議長交代の前後は金融政策の不透明感からマーケットが荒れやすくなると言われています。

前のイエレン議長は、4年の任期中に景気拡大や株高をもたらしつつ、利上げにも着手したとして市場で高く評価されていますが、パウエル議長の下馬評はどうでしょうか。

なんと新議長のあだ名は「ミスター普通」。もともと弁護士出身で、エコノミスト出身でない議長の誕生はおよそ40年ぶりです。2012年にFRBの理事に就任しましたが、発言には新味がなく、イエレン前議長のスポークスマン的な役割に徹してきました。それだけに市場関係者は、パウエル議長が金融政策についてどういう方針を示すか、早く知りたいとうずうずしているのです。

そうした中、今月27日、パウエル議長はアメリカ議会下院で証言を行います。この中で注目されるのが、今後の利上げのペースについてどう言及するかです。FRBが去年12月時点で公表した、ことし想定している利上げの回数は3回ですが、市場では景気拡大や足元の賃金上昇などを踏まえ、利上げを4回に増やすという見方も出ています。

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景気の過熱を抑えるために利上げを行うのは中央銀行の重要な仕事ですが、ペースを急ぎすぎると市場にショックを与えることになり、景気にはマイナスです。株価の急落は、いったん収まったかに見えますが、パウエル議長が金融政策をめぐって市場とうまく対話をすることができるのか、市場関係者はその手腕に注目しています。

渡部圭司
アメリカ総局記者
渡部圭司
2002年入局
広島局、報道局経済部を経て
2014年からニューヨークで
経済分野を担当