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春節に異変? ポスト爆買いの現場を歩いてみた

時は春節。ことしも旧正月の連休にあわせて中国から多くの観光客が日本を訪れています。家電や日用品をこれでもかと抱えた人たちの姿は否が応でも注目されましたが、ことしはかなり様子が違います。
いったい何が起きているのか? 日本各地の春節の現場から見えてくるものとは。
(経済部 影圭太 長野幸代/札幌局 田隈佑紀/青森局 山内洋平/大阪局 山下忠一郎)

「じっくり品定めしたい」

「いまはもう爆買いのほうが珍しい」
…日本の化粧品メーカーの担当者はそう話します。
東京・銀座にある資生堂の販売店には、中国人客の数こそ多いものの、確かに袋いっぱいに商品を詰め込むような姿がありません。販売員に相談したりカウンセリングを受けたりして、自分に合った美容液を1本買う人が増えているそうです。

かつては、大量に買い入れた化粧品を中国に持ち帰った後、転売していたケースも多かったと言われていますが、いまは自分が使う分だけを買っているというわけです。店で「自分の肌にあう化粧品を選びに来た」と話してくれた中国人女性がじっくり品定めする様子は、日本の女性と変わりませんでした。

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「特別扱いしないで」

一方、大手デパート。インバウンド消費が売り上げを引っ張っているだけに、春節にあわせて大々的なイベントを仕掛けるかと思いきや、そうした動きはほとんど見られません。

意外に思って理由を聞いてみると、「中国人のお客さんは特別扱いされるのを嫌がる。日本人のお客さんと同じように丁寧な接客を受け、日本人と同じように買い物をしたいと考えている。そのため観光客を意識した特別な対応はとらない」と答えが返ってきました。

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しかし、買い物を楽しんでもらうには情報提供が必要。特に口コミを重視する中国人客に向けて、大阪の近鉄百貨店では、SNSで中国人の間で人気のいわゆる「インフルエンサー」を呼び、売り場の様子やイチ押し商品をリアルタイムで発信するイベントを実施しました。

ただ大手デパートでは、目立ったイベントはこれくらいで、各社は期待を寄せつつも、努めて平常モードで中国人客を迎えたことが浮き彫りになります。

どこへ行った?中国人客

地味になったようにも見える中国人旅行客の消費。1人当たりの消費額を見ると、確かにおととし1-3月から去年の1-3月までは前年同期比2ケタの減少が続いていました。

しかし、その後は小幅なプラスに転じ、去年10ー12月はプラス7%にまで増加幅が拡大。足元では中国の人たちの消費意欲は旺盛です。では、どこで何にお金を使っているのでしょうか?
キーワードは「体験」そして「地方」です。

「福袋」で きれいに

秋葉原の大型免税店「ラオックス」。多くの団体客が訪れる光景はいつもと同じですが、この春節に売れるのはなんと言っても「福袋」です。

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福袋といえば、日本の正月の風物詩。しかも、お値段以上の品物が入っている。その存在が中国の人たちにも知られるようになり、日本の正月文化を体験することができる買い物だとして人気なのです。

その種類も、去年の1.5倍のおよそ30種類に増やしていて、特にコラーゲンなどのサプリメントや化粧品の詰め合わせなどが売れ筋だといいます。

福袋以外では、肌をケアする美顔器や男性用の電気ひげそりなどが人気で、1人当たりの平均購入金額も去年を上回っているということです。

スキー客が急増で

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北海道の「ニセコ」。世界でも上質なパウダースノーで、オーストラリアなどのスキーヤーが多かったリゾートですが、いま中国人客が急増しています。かつてはゲレンデに来てもソリなどの雪遊びしかしない中国人が多かったのですが、本格的にスキーを楽しむ人が増えているのです。

それもそのはず、ピョンチャンの次の冬季オリンピックは北京。「ウインタースポーツ人口3億人」を目標に、国をあげて盛り上げようとしているのです。

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一方、日本国内ではスキー人口は減少傾向が続き、20年前のピーク時に比べて3分の1程度になっていました。そうした中で一気に中国人客が増えたことで、ニセコアンヌプリ国際スキー場では、久しぶりの大型投資に踏み切りました。

初心者向けコースを拡張し、スピードがゆっくりめのリフトも増設しました。コース拡張やリフト増設は、実に18年ぶり。スキーを始めたばかりの人が多い中国からのお客さんたちに、より楽しんでもらうための設備投資です。

さらに、中国語が話せるインストラクターも足りません。そこで、観光庁の出先機関がみずからインストラクターを増やそうと、道内の中国人留学生たちに呼びかけてスキー道具やリフトを無料で提供し、養成に乗り出しています。

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冬季休業のホテルが

青森県にある星野リゾート奥入瀬渓流ホテル。以前は11月中旬から4月中旬は雪深く利用者も減るため、営業を休止していましたが、中国人を中心とした外国人宿泊客の増加を受けて、今シーズンから冬場の営業に踏み切りました。

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人気の秘密は「雪見風呂」です。しんしんと降る雪を眺めながら、ゆったりとつかる露天風呂。日本の冬の温泉地ではありふれた光景かもしれませんが、中国や台湾の人たちにとっては、まさに非日常。リンゴやホタテなど、地元青森産の食材をいかした料理も売りになっています。

ある台湾からの宿泊客が「露天風呂に雪が降っていて幻想的だった。とてもよい体験ができた」と話すように、その土地でしか味わうことができない体験を求めてやって来ているのです。
このホテルの宮越俊輔総支配人も「東京や京都では体験できない新しい日本らしさを見つけに来ている外国人が増えている」と話します。

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「ポスト爆買い」潮流はどう変化?

爆買いが象徴する「モノ消費」から、文化や食それにレジャーの体験を通じた「コト消費」へ。そして、「大都市」から「地方」へ。ことしの春節の現場を見ると、その潮流が大きく変化したことがよくわかります。

かといって、相変わらず人気の化粧品のように、モノ消費も消えたわけではく、消費の形が変わったという実感もあります。
化粧品各社は、日本の店頭での接客を中国人客に「リピーター」になってもらう第一歩と位置づけ、帰国してからネット通販を通じて商品を購入してもらう「越境EC」への対応にシフトしています。

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そうした輸出増加に対応して、国内の工場新設も相次いでいます。中国の需要を取り込み、販売や生産の拡大につながった好例です。

コト消費の先行きも、同じかもしれません。わずか数年でモノからコトへ変化し、モノ消費の在り方が変わったことを考えれば、コト消費の在り方が比較的短い期間で変化していくことも考えられます。

いまや中国人旅行客は年間735万人、消費額はおよそ1兆6950億円。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてさらに増加し、日本経済の中で果たす役割も大きくなっていくはずです。

旅行・レジャーなどの「コト消費」の現場でも、中国の人たちのニーズの変化を見つめ、対応も変化させ続けていくことが求められそうです。