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eスポーツ 五輪を目指す

対戦型のコンピューターゲームを競技として行うeスポーツ。海外では、巨額の賞金をかけた大会が開かれ、多くの若者たちが選手の妙技に熱狂していますが、日本での認知度は低いのが現状です。いわば停滞する日本の状況を尻目に、eスポーツはスポーツの祭典であるアジア大会の正式競技に採用されることが決まり、オリンピックでの採用を目指す動きも始まっています。こうした状況を踏まえて、ゲーム機やソフトの開発で世界をけん引してきた日本でも、競技としての確立を目指す取り組みが本格化してきました。「ニッポン、初代の金メダル~!」ーーーこんな日がやってくるのでしょうか?
(経済部記者 加藤誠)

スターの卵 誕生!

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2月10日から2日間、千葉市の幕張メッセで、プロ選手の資格をかけた日本で初めての大会が開かれました。大会を開いたのは、2月1日に設立されたばかりの新団体「日本eスポーツ連合」。競技としてのeスポーツを日本に確立させようと、既存の3つの団体が集結して作られました。この団体がプロ選手としての活動を認める基準を設け、ライセンスを発行することになり、今回、プロ選手を選ぶ大会の開催と相成ったわけです。

2日間の大会で、一定の技量を認められた15人がプロの認定を受けました。過去の実績を踏まえて認定された38人を含め、これまでに14歳から38歳まで53人のプロが誕生。eスポーツの定着を目指す道を踏み出しました。

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大会で優勝し、プロライセンスを得ることになった大学生の男性は「eスポーツの認知度が上がって、ゲームに対するイメージが変わればうれしい。好きなゲームをもっと練習して腕を上げたい」と話していました。

巨額の賞金が可能に

このプロライセンスの制度、実は世界的にも珍しいといいます。なぜ、わざわざプロを認定する制度が必要なのでしょうか。その理由の1つは、法的な問題を解決して大きな賞金の大会を開けるようにすることです。

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海外では億単位の賞金がかかった大会もありますが、日本ではゲームメーカーなどの立場からすれば、開催は事実上不可能でした。景品表示法では、大会の賞金がゲームソフトを購入させるなど「顧客を誘引する手段として」の「景品類」と捉えられるおそれがあるため、賞金の限度は10万円までとなるのです。しかし、プロの選手が競技として戦う大会であれば、仕事の報酬としてみなされ、高額の賞金を出せるというわけです。

こうした環境が整えば、選手は生計を立てやすくなって練習に専念しやすくなる効果も期待されます。またゲームメーカーにとっては、ソフト販売だけに頼るのではなく、大会の運営やネット配信に伴う放映権料、関連グッズの販売と、ビジネスチャンスが一気に拡大します。

日本のゲームを五輪の舞台に

動き始めた日本独自のプロ制度。実はもう1つ大きな狙いがあるといいます。それは、アジア大会や、将来的にはオリンピックまでも見据えて、世界が注目する舞台で、日本のゲームソフトが使われる流れを作り、ゲーム業界の活性化につなげることです。

家庭用のゲーム機が早くから普及した日本では、対戦型ゲームは身近な友人や家族と遊ぶ文化が定着しています。一方で、海外のように、オンラインで不特定の第三者と対戦しながら腕を磨くという楽しみ方は、それほど一般的とはいえません。

こうした楽しみ方の違いによって、売れ筋のゲームソフトは異なります。このため、海外のeスポーツの現場で好まれている日本のゲームソフトは一部にとどまっています。日本でも、eスポーツの市場が盛り上がれば、国内メーカーも、eスポーツを想定したソフトに開発費を振り向けやすくなります。そして、国境をまたいだ大きな収益を稼ぎ出す機会も生まれるというわけです。

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日本eスポーツ連合の浜村弘一副会長は、「日本のゲームの開発力はすばらしいが、eスポーツとは違うジャンルの開発が主流だ。プロライセンスを発行する団体ができ、市場活性化への道筋ができた中、ゲームメーカーの中には競技性やスキル性を求められる新たなタイトルを作ろうという動きが出ている。世界のeスポーツ界を、日本のゲームが席けんすることもあるかもしれない」と話しています。

社員選手 チャンス拡大

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プロ制度のスタートは、選手の“育成”にも大きな推進力になると期待されています。今回の大会で個人部門の優勝者を出し、チームとしても3位に入った「デトネーション」を運営する会社の梅崎伸幸社長は、3年前に日本で初めて一部の選手を「フルタイム・月給制」の社員として雇い始めた日本のeスポーツの先駆的な存在です。選手たちは、東京・江戸川区にある練習拠点で共同生活をしながら、日々練習に励んでいます。

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プロ制度のスタートについて梅崎社長は「メンバーにとって大会の賞金はボーナスになり、モチベーションは上がっている。何より社員のご両親が安心する」と歓迎しています。

これまで日本の選手がゲームだけで生計を立てようとすれば、海外への“出稼ぎ”を余儀なくされていました。しかし、渡航や滞在にかかる費用を考えると、ごく一部の有力選手以外は活動を続けることは厳しいのが現状でした。国内で大会が盛んに開かれるようになれば、選手が活躍できる機会が増え、ファンのすそ野も広がると考えています。

引退後の選手の道を

ただ、eスポーツが日本に根づいていくには、プロ化だけでは十分ではないと梅崎社長は考えています。例えば、コントローラーを操る反応速度が特に問われるシューティングゲームでみると、10代後半の選手が多く、選手生命は決して長くないといいます。梅崎社長自身もかつては選手でしたが、29歳で現役を退きました。

梅崎社長は「どんなスポーツでも選手を教えるコーチがいる。アメリカや中国、韓国では、eスポーツにおいても、引退した選手がコーチになるというシステムができているが、日本にはまだ教えられる人がいない」と指摘し、引退した選手がeスポーツにかかわり続けられる環境の整備が重要だと指摘しています。

花開くか 日本型eスポーツ

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プロ選手を決めるため、2日間にわたって開かれた大会の最後。日本と韓国の“代表チーム”による交流戦が開かれました。試合はアウェーである韓国の勝利で終わりましたが、会場は大変な盛り上がりを見せました。

来日していた韓国のeスポーツ団体に聞いたところ、若者の間では野球やサッカーに次ぐ人気スポーツで、会場に詰めかけるファンの8割は女性。eスポーツだけを行う専用スタジアムもあるということでした。さらに、eスポーツの団体が各プロチームが選手に最低賃金を支払っているかをチェックするシステムもあるということです。

日本では、ゲームをスポーツ競技と捉えること自体に違和感を持つ人が、まだ少なくないと思います。ただ、世界の潮流を見ていると、オリンピックの正式競技に採用されるかどうかは未知数であっても、eスポーツという市場がますます巨大化していく予感を抱かせるには十分です。

ゲーム産業を中心とする経済の活性化、新たな娯楽の発展、さらには国際的な舞台で躍動する日本選手たち。eスポーツがこの日本でどのように育っていくのか、見守っていきたいと思います。

経済部記者 加藤誠
経済部記者
加藤誠
平成21年入局
帯広局を経て経済部
現在は情報通信を担当