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寒くて“震えた”東京電力

各地で記録的な寒さや大雪となり、被害も出ているこの冬。東京電力ではピンチが続きました。暖房需要が増加して電力不足のおそれがあったのです。緊迫の数日間をお伝えします。
(経済部記者 大川祐一郎)

迫る警報ライン

1月23日夕方、東京電力では難しい検討が続いていました。前日からの記録的な大雪の影響で、翌24日のピーク時の供給余力が、最低限必要とされる3%を大きく割り込み、わずか1%にまで低下するという予測が出たからです。

これは政府が「ひっ迫警報」を発令する基準に相当します。余力が1%しかないと、仮に発電所が1か所停止するだけで、需要が供給を上回る可能性があります。そうなると最悪、発電所などでトラブルが起きて、予期せぬ大規模停電が発生しかねず、これを避けるためには、市民生活への影響が極めて大きい計画停電を迫られるのです。

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相次ぐ“想定外”

一般的に東京電力のピーク需要は猛暑の夏になります。東日本大震災以降、電力の不足をきたさないよう、政府と電力各社は夏と冬の需給を事前に予測。冬については10年に1度の厳しい寒さを想定して、この冬、東京電力は最大需要4910万kW、供給力5530万kWと、12.6%の余力が確保できると見込んでいました。

しかし、この冬の寒さは想定を大きく超えて、暖房需要が急増。首都圏などで雪が降り始めた1月22日にピーク需要が5101万kWまで増加するなど、この週だけで、最大需要が5100万kWを超えた日が3日間もありました。

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一方、供給力にも想定外がー。大規模な火力発電所でトラブルが相次いだのです。稼働開始から40年以上が経過する“老朽発電所”などで4件のトラブルが重なり、供給力は最大で約300万kWも減少しました。

誤算はさらに続きます。今や東京電力管内の供給力の約1割を占める太陽光発電です。首都圏では、1月23日以降は晴れて、通常なら供給力として見込めるはずでした。しかし、パネルに積もった雪はすぐには溶けず、あてこんでいた数百万kWがほとんど得られなかったのです。

電力を確保せよ!

供給力を上積みできないか-

この日、東京電力の臨時会議は夜9時近くまで続きました。実はすでに前日から「ネガワット取引」という初めての手段に踏み切っていました。電力消費が大きい企業などと事前に契約。需給が厳しい場合には、節電してもらう代わりに、東京電力側がいわば“節電料”を支払う仕組みです。これで50万kW程度を確保していたのですが、それでも供給力が不足しているのです。

ついに担当者はこう報告します。

「他社から融通を受けるしかありません」

ほかの電力会社から供給を受ける“電力融通”を要請したのです。そして、直ちに23日夜10時から融通を受け始めました。需給が厳しい際の切り札の揚水発電を使うためです。

くみ上げた水で発電する揚水発電は、23日の日中にすでにほとんど使い切っていました。そのため、需要が少ない夜の間に、融通を受けた電力で新たに水をくみ上げ、翌日に備えようというのです。

結局、東京電力は、この日から4日連続で、北海道電力や九州電力を含めて合計7社から1日最大200万kWの電力融通を受けました。さらに、冷え込みが続いた翌週も、2月1日に過去最大規模の263万kWの融通を受けるなどして、ようやく危機的状況を乗り切ったのです。

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見えてきた課題

今回の事態について、経済産業省は今後、検証することにしています。論点の1つは事前の想定です。冬だけでなく、夏の猛暑など、気候変動の影響が指摘されている天候の想定をより厳しくすべきではないかという点です。

また、太陽光や風力発電についても、普及を進める一方で、天候に左右されやすいという弱点をどうカバーするかも重要な課題になりそうです。

小売自由化で供給力に不安がないかも課題になりそうです。新たに参入した、いわゆる新電力会社の多くは自前の発電所を持たず、電力会社などが売りに出す電力市場で調達しています。

しかし、今回は市場価格も高騰。1月23日に東京電力管内の電力を取り引きする市場では、翌日分の1kWh当たりの価格が、通常の3倍に上昇。その後も、売りに出る電力が減ったことで価格が高止まりし、新電力会社の中には、市場では調達できないというところも出てきたと言うことです。

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さらに、中長期的には、電力需給が一段と厳しくなる可能性も浮上しています。全国的な需給調整を担う「電力広域的運営推進機関」が去年3月にまとめた各社の供給計画によると、例えば、東京電力管内の夏の供給余力は、今の8%から、2021年には1.7%まで低下するというのです。2年前に始まった電力小売りの全面自由化で、顧客が減った既存の電力会社が、コスト削減のため余分な発電所の整理を進めるからです。

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こうした中で重要になるのが、今回も有効だった電力融通ですが、改めて課題が浮き彫りになっています。特に、東日本と西日本を結ぶ、東京電力と中部電力の間の送電線の容量が120万kWに限られていることです。

実は、この問題は震災直後から指摘されてきました。経済産業省は、この送電線の容量を2020年度に210万kWに増強するなどとしていますが、計画がこのままでよいのかという指摘も出てきそうです。

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安定供給が大前提

震災と原発事故をきっかけに、小売りの全面自由化など電力を巡ってはさまざまな制度の見直しが進みました。しかし、震災からまもなく7年を迎えるこの冬の寒さは、安定供給が確保されているかを、改めて問う形になっています。

電力を安く供給することも重要ですが、そのために各社が安定供給に必要なコストまで削ってはいないのかや、供給責任の在り方などを、今一度、点検すべき時期に来ているのかもしれません。

寒さや大雪が続く今月からは、国のエネルギー政策の方針「エネルギー基本計画」の見直し作業が本格化しますが、この中でも、安定供給という観点が改めて重要になると思います。

大川 祐一郎
経済部記者
大川 祐一郎
平成23年入局
青森放送局をへて経済部
エネルギー担当