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AIは居酒屋店長を救うか?

人手不足の今の日本で、とりわけ多忙な仕事の代表格とも言えるのが、居酒屋など飲食店の店長さんかもしれません。アルバイトの確保やシフトの作成、仕入れ・調理・接客・会計など、仕事の範囲は多岐にわたり、店に泊まり込むこともあるほどー。再来年に近づいた東京オリンピック・パラリンピックに向けて、国内外の観光客が増えることも予想される中、国も企業もこうした店長の仕事をより効率的に進められるよう、本腰を入れ始めました。切り札は「AI=人工知能」です。
(経済部記者 佐藤庸介)

不足するバイト 多忙な店長

「きょうは団体の予約が2組入っているので準備を!」

栃木県宇都宮市にある居酒屋では、毎日開店前の夕方に恒例の朝礼が始まります。指示を出すのは店長の磯大輝さん。21歳になったばかりの若手店長です。磯さんは入社して1年余りで、店舗の運営を任されました。

店のスタッフは磯さん以外すべて高校生や大学生などのアルバイトで、磯さんは店長として、スタッフの採用やシフト作り、食材の管理、さらには日々の接客や調理の手伝いまで、すべてをこなさなくてはいけません。

特に頭を悩ませるのが、アルバイトの確保とシフト作りだと言います。もともと応募者が少ないうえに、苦労して採用しても学生は卒業すると辞めていくので、常に募集し続けなければなりません。また、日によって必要な人数は5人程度から10人程度と変わりますが、アルバイト側の希望といつも一致する訳でもありません。

ほかの店舗から応援をもらうなどして、なんとかシフトを組んでも、当日のお客さんの入りに対して、アルバイトが少ないと注文を受けたり、料理や飲み物を出すのに時間がかかってサービスが低下してしまったりする一方、逆にアルバイトの数が多すぎても収益が圧迫されることにつながってしまいます。

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こうした悩みを持つのは、この店だけではありません。飲食業界の人手不足は全国的で、去年12月の時点で有効求人倍率は「調理」で3.59倍、「接客・給仕」で4.31倍。これは、仕事を求める人ひとりに対して、3つから4つ以上の店が求人を出しているという構図です。

AIで飲食店経営を支援

人手不足とはいえ、ただでさえ忙しい居酒屋の店長の悩みが「バイトのシフト作り」という状況は、決してあるべき姿ではありません。飲食店であれば、新しいメニュー作りなどお客さんの満足度向上に取り組むことが、店長の仕事のはずです。

こうした事態を打開するために、飲食店経営を支援しようと、グルメ情報サイトを手がけるリクルートホールディングスが、飲食店の店長を支援する新たなサービスを始めることになりました。

ことし4月にも開始するサービスは、店員が専用のアプリを組み入れた端末に、客からの注文を入力することで、自動的に毎日の売り上げや客の数などの情報がすぐにわかる仕組みです。面倒な事務作業を大幅に減らすことができるため、店長の業務負担を軽くすることができるとしています。

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シフト作りの負担軽減

このサービスでは、さらなるバージョンアップも視野に入っていて、店長による「バイトのシフト作り」の軽減も目指しています。

冒頭に紹介した居酒屋では、過去の実績や天候、それに、グルメ情報サイトを通じて集めた周辺の飲食店の予約状況などもAIで分析し、1日ごとの来店客の数を予測する機能の検証が進められています。

毎日、店長に届けられるAIの分析結果には、その日から1週間、それぞれの日にどれだけ来店客があるかの予測が示されます。その予測を基に、客数が少ない日には思い切ってアルバイトの数を減らすなどシフト作りに役立つだけでなく、客が多いと見込まれる日の前日には前もって手間のかかるメニューの仕込みをしておくなど、より効率的に仕事を進めることもできるといいます。

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客に応じて「おすすめ」を提案

さらに、売り上げアップにつながる機能も実用化を目指しています。

この居酒屋の看板メニューの「もつ鍋」と一緒に注文されやすいメニューをAIが分析。その結果、「馬刺しの握り寿司」が最も注文される可能性が高くなることがわかりました。こうした情報は、注文を受けた際に、店員が持つ端末に表示されるため、その場で客に「おすすめ」としてアピールすることもできます。多くの客が注文するメニューの組み合わせだけに、ひと言きっかけがあれば、売り上げアップにつながりやすいというわけです。

サービスの責任者を務めるリクルートライフスタイルの山口順通さんは「飲食店の店長は、会計の確認などのために店に泊まり込む日が続くこともあるほか、予約の電話を受けるために24時間携帯電話を手放せないほど厳しい。新たなテクノロジーが、そうした店長の力になれるのではないか」と話します。

AIやデータを活用した飲食店の支援サービスは、グルメ情報サイトの「ぐるなび」も手がけているほか、コンビニ大手の「ローソン」ではAIを活用した商品の発注を導入するなど広がりはじめています。

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目指せ100万社の効率化

国も飲食店の経営効率化の支援に乗り出しています。平成28年度に100億円の予算を確保して、飲食店などのサービス業を営む中小企業が業務の効率化に向けてIT=情報技術を活用する場合、最大100万円を補助する事業を開始。平成29年度は、予算額を5倍に増額しました。

こうした支援策などを通じて、政府は2020年までに合わせて100万社の中小企業の効率化を実現したい考えです。経済産業省の担当者は「飲食店などの経営者は、簡単なITの活用だけでもずいぶん仕事が楽になる。企業の数が多いサービス産業の生産性が高まれば、日本経済全体の成長にもつながる」と力を込めていました。

AI活用で変わる? 飲食店

もちろん、AIなどを活用すればすぐに経営が改善するとはかぎりません。さきほどの居酒屋では、もつ鍋の注文を受けた店員がAIが割り出した「馬刺しの握り」をすすめると、「ビールを飲み始めたばかりで、まだ寿司は食べないよ」と返される一幕も。データを売り上げアップにつなげるには、やはり実際にお客さんの様子を見つつタイミングを図るという人間の判断力も欠かせません。

AIによる客数の予測についても、競争の中で店の魅力を磨いていかなければ、いずれ実態と乖離(かいり)してしまうおそれもあるかもしれません。

それでも、飲食店でのAI活用の現場を見ると、人の仕事を奪うのではなく、人を手助けしてくれる可能性を感じます。リクルートでも「AI活用の目的は、店長が本来やるべき新たなメニューの開発や販売促進など、クリエイティブな仕事に注力できるようにすることだ」としています。

AIの活用は始まったばかりですが、近い将来には、飲食店の仕事のイメージが大きく変わっているかもしれません。

佐藤 庸介
経済部記者
佐藤 庸介
平成13年入局
釧路局をへて経済部
現在、流通・商社を担当