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“ジェットシェア” 超音速機開発も 空の旅最前線

かばんからパソコンを取り出し、靴を脱いで、はだしで金属探知機の前の長い列に並ぶ。アメリカの空港に行くたびに保安検査場で繰り返す行程です。安全を確保するために必要なことだとわかっていながら、出発時間の相当前に行かないとフライトに間に合わないため、利用者の多くはうんざりさせられます。とにかく飛行機の移動に時間がかかるのが今のアメリカの実情です。
そんなアメリカで、利用者の不満を解消し、少しでも速く、そして快適に飛行機に乗ってもらおうと、日本にはない、あの手この手の取り組みが始まっています。(ロサンゼルス支局記者 飯田香織)

プライベートジェットをシェアする

アメリカには今、1万2000機を超えるプライベートジェットがあるそうですが、駐機場に待機していることも多く、稼働時間は必ずしも長くありません。そこに着目したのがベンチャー企業の「ジェットスマーター」です。

会社自体は飛行機を所有していませんが、スマートフォンのアプリを使って、プライベートジェットの所有者と利用者を結び、新たなビジネスにつなげています。”カーシェア”ならぬ”ジェットシェア”です。

顧客は主に富裕層の人たち、年会費は1万5000ドル(約160万円)で、利用する距離が長ければ追加料金が発生します。企業の幹部などがよく利用するということで、たまたま相乗りとなった機内で、商談が始まることもあるそうです。この会社は、富裕層のコミュニティーになることを目指しています。

富裕層でなくてもプライベートジェット

富裕層でなくても、プライベートジェットを利用できるサービスもあります。カリフォルニア州のベンチャー企業「ブラックバード」は、プライベートジェットを所有する複数の会社と提携しています。

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私が乗ったのは、ハリウッド近くのバーバンクから、サンフランシスコの隣のオークランドまでのおよそ520キロ。どちらも地方の小さな空港です。
ふだんでしたらこの区間は、ロサンゼルス国際空港からサンフランシスコ国際空港までの便(約540キロ)を利用するところですが、わずか50分余りの飛行のために1時間以上前に空港に到着する必要があります。

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それがバーバンクの空港では、出発の15分前までに到着すれば大丈夫です。運賃は、利用する日時や予約した時期によって変動しますが、大手航空会社のエコノミークラス並みです。保安検査はありますが、乗客が少なくごく短時間で済むため負担にはなりません。

欠点は、空港がやや不便なところにあり、その周辺が最終目的地でなければ利用する意味があまりないこと。便数も決して多くはありません。それでもスマートフォンのアプリで簡単に予約でき、カリフォルニア州を中心に8路線を運航していて、一定の人数が集まれば希望の目的地までチャーター機を飛ばすこともできることなどから注目されています。

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超音速旅客機の開発目指す

もっとはやく目的地に到着できないか。それなら飛行機のスピードを上げてしまえと、超音速旅客機の開発に取り組むベンチャー企業もあります。4年前に設立された「ブームテクノロジー」です。IT企業や金融機関など多くの企業が集まり、いま活気づいているコロラド州デンバーにあります。

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社員55人を率いるのは、パイロット出身で、アマゾン・ドット・コムにも勤めていたブレーク・ショールCEO(37歳)。「最速の旅客機でのフライトをもっとも割安な価格で提供するのが最終目標だ」と語るショールさんには個人的な思いもあります。

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ショールさんには2人の子どもがいますが、おじいちゃんとおばあちゃんは香港に住んでいるため、年に1回程度しか会えないそうです。飛行時間が短くなれば、もっと頻繁に会えるようになると願っています。

会社は空港の格納庫の中にあります。1階では、飛行実験を行うために実物の3分の1の大きさの実験機を開発していて、近くには3Dプリンターや多くの試作部品が並んでいました。戦闘機のような長細い形をした機体でことし中に実験を行うことにしています。

社員の多くは、ショールさんより若い人ばかり。大手航空機メーカーのボーイングやエアバス、そしてロケットの開発や打ち上げを行うスペースXなど航空宇宙産業から転職した人たちが半分を占めます。残りはIT企業からの転職組だそうで、格納庫の2階にあるオフィスでコンピューターを使って機体の図面を確認したり、風力の変化による影響を計測したりしていました。

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東京ーサンフランシスコが5時間半で

超音速旅客機と言えばコンコルドが有名ですが、大きな騒音や高い燃料代といった問題に加えて、113人が死亡した墜落事故が起きたことで、2003年に運航を終えました。ショールさんは、コンコルドとは違う新たな超音速旅客機を開発しようとしています。

まず、アルミではなく、炭素繊維を使って機体を軽量化することで、燃費を大幅に改善することに成功しました。炭素繊維は耐熱性があるほか、自在に形を変えられる点も便利な素材です。

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ふつうの旅客機と同じエンジンを使うことで、新たな認可を必要とせず開発期間も短縮できたといいます。さらに、試作部品を3Dプリンターで作るほか、実験をコンピューター上で行うようにすることなどで、開発コストの削減にもつなげています。

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目標とする巡航速度はマッハ2.2=時速2335キロ。実用化すれば、現在11時間かかる東京とサンフランシスコの飛行時間が半分の5時間半に短縮されます。

運賃もコンコルドより大幅に安く設定できると説明します。
ニューヨークとロンドンを結んだコンコルドの運賃は今のビジネスクラスの4倍もしたそうです。これに対して、ショールさんの会社は、今の大手航空会社のビジネスクラス並みの運賃に抑え、座席数も55席とそれほど多くないため、効率的な運航ができるようになると言います。

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日本航空も出資

このビジネスモデルにいち早く関心を示したのが日本航空です。去年12月、この会社に約10億円を出資し、20機を優先的に発注する権利を得たと発表しました。

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日本航空の斉藤典和財務・経理本部長は、1月31日の記者会見で「旅行の価値の中で移動時間に興味があった」と述べ、移動時間の短縮が競争力の強化につながると、出資の理由を説明しました。

ショールさんは「飛行時間の短縮はほかの方法では実現できない。航空業界を抜本的に変えるゲーム・チェンジャーになる」と話しています。

たしかに東京とサンフランシスコの間の飛行時間は直行便が就航してからずっと11時間程度です。ビジネスクラスの料金を払って、高いサービスを受けることはできても、目的地に到着する時間はエコノミークラスと変わりません。

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この会社は、超音速旅客機の2023年の実用化を目指しています。ただ飛行機の安全性を確保し、必要な許認可を得た上で、ビジネスとして成立させるのは簡単ではありません。

例えば、開発している飛行機の航続距離は現在、およそ1万7000キロ。この半分を超える距離を飛行する場合、給油のためいったん着陸する必要があります。このためサンフランシスコからおよそ8300キロの東京へは直行便が就航できますが、およそ9500キロ離れた北京まで飛行するには途中で給油しなければなりません。

こうしたハードルを乗り越えて、快適な空の旅を実現できるか、ベンチャー企業の大胆な発想による挑戦が”空の革命”を起こすことを期待したいと思います。

飯田香織
ロサンゼルス支局記者
飯田香織
1992年入局
京都局、経済部、
ワシントン支局などをへて
2017年夏からロサンゼルス