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シラスウナギの危機 養殖産地からの報告

日本人が大好きなウナギ。夏の土用の丑の日には「うな重」や「うな丼」が欠かせないという人も多いですよね。しかし、いまが最盛期のウナギの稚魚、シラスウナギ漁は、かつてない不漁。どうなってしまうのでしょう?養殖ウナギの生産日本一の鹿児島県には衝撃が広がっています。(鹿児島放送局記者 小林雄)

知ってます?シラスウナギ

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シラスウナギ

国産ウナギのほとんどは養殖ものです。どうやって育てているか知っていますか?

ウナギの生態はよくわかっていませんが、太平洋のマリアナ諸島付近でふ化したあと海流にのって、はるばる日本の川へとやってきます。

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日本の沿岸にたどり着くころには、透き通った体の体長5、6センチ余りの状態に育ちます。それが「シラスウナギ」です。それをつかまえて、養殖の池で40センチくらいになるまで半年から1年ほどかけ育てて出荷しているんです。

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”漁最盛期”なのに…

その養殖ウナギの生産が盛んなのが鹿児島県です。生産量は日本一。シラスウナギの漁も盛んです。

漁のシーズンは12月から春先ごろまでで、各地で漁期が決められています。鹿児島県では12月10日に漁が解禁され、1月、2月が最盛期です。

1月17日の夜。鹿児島県大崎町の河口近くの浜辺には、多くの漁業者が集まっていました。

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この日は月が出ない「新月」。シラスウナギは闇夜の大潮に乗って河口にやってくるといわれています。シラスウナギが最もとれやすくなるこの日に期待して集まった漁業者たち。冷たい海に膝まで入り、波が打ち寄せるたびに競い合うように網を入れていました。

シラスウナギ漁を37年間続けているベテランの下野明文さん(70)は、この日の満潮時間帯に合わせて、海に入りました。例年ならこの時期は、一晩で200匹前後とれることもあるといいます。ところが、3時間近く網を入れ続けてとれたのは、たったの“6匹”でした。

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下野明文さん

海からあがった下野さんは「今シーズンは勝負になりません。周りの人もとれていないので、シラスウナギが来ていないのでしょう」とあきらめ顔で話していました。

この日は、早々に漁を切り上げてしまう人が続出。そもそも最初から海に入らずに様子を見るだけの人さえいました。

鹿児島県では漁の解禁から1月23日までの45日間のシラスウナギの漁獲量は30.6キロ。前のシーズンのわずか15%しかとれませんでした。宮崎県や静岡県、愛知県なども漁が盛んですが、やはり、どこも極度の不漁になっています。

台湾、中国でも極度の不漁

中国や台湾など東アジア各地も状況は同じのようです。台湾では去年11月にシラスウナギ漁が解禁されましたが、今シーズンの漁獲量は、台湾全土でおよそ290キロと、前のシーズンの10分の1にも達していないということです。

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養殖池は空っぽ…

この不漁、ウナギの養殖業者を直撃しています。

鹿児島県の養殖業者は漁に合わせてシラスウナギを仕入れます。鹿児島県の調べでは、前のシーズンでは12月末の時点で2.2トンを仕入れていました。しかし今シーズンの数字は衝撃的です。12月末で、わずか15キロだったということです。

1月中旬、ウナギを養殖している鹿屋市の松延一彦さんの養殖場を訪ねました。去年のこの時期には、シラスウナギが10万匹以上泳いでいたという養殖池は、水も張られていない空っぽの状態。ことしはまだ1匹も仕入れができていないのです。次の動画をご覧ください。

相場は金の延べ棒並み?

どうして仕入れできないのか?極度の不漁が、もちろん原因ですが、それ以上に大きいのはシラスウナギの仕入れ価格の高騰です。

シラスウナギは、漁獲量の減少傾向でただでさえ値上がりしていました。この数年は1キロあたり100万円から200万円ほどになっていました。今シーズンは高騰にさらに拍車がかかっているといいます。

松延さんが、シラスウナギを手に入れられないか仲介業者に問い合わせたところ、中国などでとれた稚魚には、1キロ400万円以上の値段が付いているというのです。金の延べ棒1キロの値段は、いまの相場で500万円ほどですから、衝撃の値段です。

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松延一彦さん

シラスウナギ1キロはおよそ5000匹。1キロ400万円とすると、稚魚1匹の値段は800円になります。養殖にはえさ代や水の温度を上げる燃料代がかかります。松延さんは、大人のウナギは1匹1000円ほどで出荷しているそうです。稚魚がこれほど高値だとかなりの値上げをしないかぎりとても採算があわないといいます。

「金(きん)に近い価格で取り引きされていては、とても手が出ません。このままだと大半の業者が養殖から撤退せざるをえないのではないかと思います」と危機感を募らせています。

食卓から姿を消す…?

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土用の丑の日の「うな重」や「うな丼」。値上がりして、ますます食卓から遠のいていってしまうのでしょうか?

齋藤農林水産大臣は、前のシーズンから養殖しているウナギがいるため、ことしの夏に極端なウナギ不足に陥ることはないと話しています。仮に、今シーズンが極度の不漁のままだった場合、影響は、むしろ来年により大きく出てくることになりそうです。水産庁は、海流の関係で、今シーズンはシラスウナギの北上が遅れていて、このあととれ出す可能性もあると話しています。

とはいえ、昔ほど、とれなくなっているのは明白で、背景には海洋環境の変化や乱獲、親ウナギの住みかとなる川の環境の悪化があると考えられています。それだけにウナギを愛する日本が旗振り役になって、保護の取り組みを進めていくことが国際的にも求められると思います。わたしたち消費者には何ができるでしょうか。考えていきたいと思います。

小林雄
鹿児島放送局記者
小林雄
平成16年入局