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乱立するキャッシュレス 変わるか現金文化

NTTドコモが、スマートフォンにQRコードを表示して買い物ができるサービスを始めます。この分野には、LINEや楽天といった有力なIT企業も次々に参入。利用者の獲得競争が激しくなっています。
現金を使わない「キャッシュレス決済」は便利なうえに、店や企業にとっては業務の効率化につながり、深刻な人手不足を緩和する効果も期待されます。
しかし、日本の“現金文化”は根強く、乱立する決済サービスの存在は、かえって普及を阻む壁になっている側面もあるようです。
(経済部記者 野上大輔)

なぜ?根強い現金文化

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日本は、主要国の中でも、支払いに現金を使う割合が特に高い国です。経済産業省のまとめによりますと、電子マネーやクレジットカードなど、キャッシュレスによる決済比率はおよそ20%。すでに50%を超えている中国や韓国の半分以下にとどまります。

要因としては、(1)貨幣が清潔で偽札が少ない(2)治安がよい(3)ATM=現金自動預け払い機が全国で安定的に稼働している、といったことが挙げられます。

こうして理由を並べてみると、よいことばかりに見えますが、人手不足が深刻さを増す日本では、そうも言ってはいられません。政府はキャッシュレス社会を「企業の生産性の向上につながる」と位置づけ、2027年にはキャッシュレス決済の比率を40%程度にまで引き上げる目標を掲げています。

新たな主役? QRコード

国を挙げて普及を目指すキャッシュレス決済。新たな主役として、注目度が高まっているのが「QRコード」です。

NTTドコモは、4月からスマホにQRコードを表示して支払いができるサービスを始めると発表しました。買い物の代金は、あらかじめ登録したクレジットカードで支払うか、毎月の携帯電話料金に合わせて支払うかを選べます。

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NTTドコモは、14年前の平成16年、携帯電話で支払いができる「おサイフケータイ」を始め、その後、後払い型の電子マネー「iD」も手がけています。
今回、新たにサービスを拡大する背景には、QRコードならではの特長があります。まず利用者にとっては、自分が使っているスマホの通信会社や機種に縛られません。さらに店側も、タブレット端末やスマホがあれば、専用の装置を用意する必要がなく、導入の費用を抑えることができるのです。

こうした強みを生かして、NTTドコモは、大手のコンビニやドラッグストアだけでなく、中小の小売店にも導入を呼びかけ、早期に10万店舗にまで拡大する計画です。

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前田義晃執行役員は「ドコモでは、すでに携帯を使った決済サービスに1500万人のユーザーがいて、そのままQRコード決済に移行してもらえると思う。ゼロから利用者を獲得する他社に比べたときの優位性を生かし、成長する市場に乗っていきたい」と話しています。

QR戦国時代

去年1月にQRコード決済を始めたのが、LINE。人気のメッセージアプリを活用したこのサービスの国内登録者は、すでに3000万人を突破。口座からお金をチャージできる金融機関は50を超え、スマホ時代のキャッシュレス決済で一歩先を行く存在です。

さらに早く、おととしからQRコード決済を始めた楽天も、店側にとっての導入コストの低さと、利用者が楽天の会員IDを持っていれば簡単に設定ができることを売りに事業の拡大に力を入れています。

内閣府の調査によると家計消費242兆円に対し、国内のネット通販の流通総額は13.8兆円。主力事業のネット通販だけでなく、決済サービスを通じて消費全体を取り込んでいく構えです。

またもやガラパゴス?

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こうした日本の状況を尻目に、キャッシュレス先進国になりつつある代表格が中国です。その原動力がスマホによるQRコード決済。「ウィーチャットペイ」と「アリペイ」の2大勢力を中心に、利用者が爆発的に増加しています。

一方、国内の状況は複雑です。
「スイカ」や「パスモ」といったICカード乗車券に、「楽天Edy」や「nanaco」「WAON」に代表されるカード型の決済サービス。さまざまなサービスが乱立しています。

日本は、1人当たりのカードの保有枚数(電子マネー、クレジットカードなど)がおよそ8枚と、シンガポールについで2番目に多い特殊な市場で、またもや「ガラパゴス」の様相を呈しています。多様なサービスがしのぎを削る状況は悪いことではないように思いますが、支払い手段が統一されていない状況は利便性の面で課題ともいえます。

現金は進歩の足かせに?

さまざまな決済サービスが提供されながら、普及の歩みが遅い日本。

ITを活用した金融サービスに詳しいマネーフォワード・フィンテック研究所の瀧俊雄所長は「普及の鍵は、数多くある決済サービスを相互に連携させることだ。お金であるなら、引き出しができないといけないし、相互に送金できたり、残高を送り合うことができないと不十分だ。その意味では『インターオペラビリティ』=相互運用性を持たせて異なる電子マネーどうしを行き来できるようにしてはじめて消費者の利便性が高まる」と指摘します。

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さらに瀧所長は、現金決済を続けることは、日本が新たなイノベーションや市場の創出に乗り遅れかねないと危機感を募らせています。

「日本は今の現金決済に満足度が高いが、通信に例えるなら固定電話を使い続けていることに近いかもしれない。ガラケーやスマホが登場し、圧倒的に便利になって、サービスもビジネスも桁違いに拡大した。不便さがないからといって、現金文化が続くと、ビジネス上のメリットを日本だけが得られなくなるかもしれない」と警鐘を鳴らします。

競争と連携と

瀧所長によると、決済端末やサービスの数では、日本は世界トップレベルで、このインフラを上手に活用すれば、一気にキャッシュレス先進国に躍り出る可能性を秘めているということです。

しかし、激しく競争する事業者は、利用者の囲いこみ戦略に余念がありません。日本経済にとって最大の課題ともいえる生産性の向上にもつながるキャッシュレス決済の普及には、事業者間の健全な競争だけでなく、相互の連携による「開かれた決済サービス」を考えていくことが重要になりそうです。

野上大輔
経済部記者
野上大輔
平成22年入局 横浜市出身
金沢局を経て
現在、情報通信業界を担当