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2018経済キーワード(1)

“適温”のうちに屋根なおせ!

2018年が始まりました。日本経済、世界経済はどんな1年になるのでしょうか。日々、最前線で景気動向や国の経済政策の取材を指揮する現場のキャップに、ことしの注目点を聞きました。「適温の持続力」「屋根の修理」「猫の目」がキーワードだといいます。…どういうことでしょう?

キーワード(1) “適温”の持続力は

ーーー最初は、景気の展望です。“適温”とは、ちょうどよい、ということですね?

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安藤隆キャップ(日銀・金融業界担当)

安藤:2017年は、居心地よい“適温経済”だったと表現する人がいます。
トランプ政権の政策運営、北朝鮮情勢と、さまざまな不安要素を抱えながら、先進国も新興国も足並みをそろえて経済成長しました。
ニューヨーク市場ではダウ平均株価が史上最高値を更新し続け、東京市場もおよそ26年ぶりの水準まで株高が進みました。
先進各国では景気が上向いているけれども、物価はあまり上がらず、まさに“適温”だったというわけです。

ーーー適温は、ことしも続く?

専門家の多くは、緩やかな成長で“適温が続く”とみています。2018年の世界経済の成長率は、OECDやIMFの予測で3.7%。去年より0.1ポイントと、わずかながら上ぶれると見込んでいます。

ただ適温に潜むリスクに目配りしたほうがよさそうです。中でも、アメリカは景気の回復局面に入ってすでに9年目。年の後半以降、景気が下降局面に入りかねないとも指摘されています。

実際、去年の秋、アメリカの債券市場で、格付けが低く利回りが高い“ハイリスク・ハイリターン”の債券がのきなみ売られたことがありました。ある市場関係者は「売りが広がった背景がよくわからず、気持ち悪さがある」と話しています。

かつてのリーマンショックは、低所得者向けの住宅ローン「サブプライムローン」を組み込んだ複雑な金融商品が暴落して、危機が世界に広がりました。その後の大規模な金融緩和で、世界的な「金あまり」が続いています。

あふれた資金がひずみを生み出していないか、実体経済を悪化させるきっかけにならないか、警戒が必要です。

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ーーー日本経済は?

日本経済も“適温”の回復が続くという見方が多いです。ただ先進各国とは、はっきりと事情が異なっています。

アメリカやヨーロッパはリーマンショック以降の異例の金融緩和の縮小・利上げに向かっていますが、日銀は大規模な金融緩和を続けています。日本経済の“適温”は、景気回復が5年に及ぶ今なお、金融緩和というエンジンをかつてない規模でふかし続けている事情があるのです。

日銀は、短期金利にマイナス金利を導入し、長期金利は0%程度にすることを誘導目標にしています。2%の物価目標の実現にめどが立っていないため、ことし、日銀が金融政策を正常化する「出口政策」に向かうという見方は限られています。

しかし、長引く緩和で、金融機関の収益が悪化し、副作用も指摘されています。12月の金融政策決定会合では、9人の委員のうち1人が「金利水準の調整の必要性」に言及しました。景気の回復や物価の上昇が見込まれる時には、金利水準の引き上げを検討する必要性が出てくるという意見です。

今後、どこかで引き上げが議論になるとき、日銀は、金融市場と適切にコミュニケーションを取って市場の混乱を避けられるか。“適温経済”の持続力にも影響を与えるだけに、注目しています。

キーワード(2) 屋根の修理は晴れている間に

ーーー次は、国の財政ですが、新年早々、屋根がこわれたんですか?

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大西英嘉キャップ(経済・財政政策担当)

大西:いやいや、そうではありません。キーワードはおいおい説明します。ことしは、いぬ年。軽やかに駆け抜けたいところですが、税や財政については“負担増”という重い課題の議論が避けられない1年になりそうです。将来、社会を支える若い人たちにはとくに注目してほしいと思います。

ーーー財政が借金だらけなのは知っています。

日本の財政は家計にたとえると、給料では生活費が賄えず、毎月、新たな借金をしてやりくりしている状況です。子供たちに膨大な借金をつけ回し、まるで壊れた屋根を放置したような状態です。これ以上はさすがに…ということで、政府は、2020年度までになんとか給料の範囲内でやりくりできるようにする目標を立てていました。

「基礎的財政収支」という財政健全化の指標を、2020年度までに黒字化するという目標です。2019年に10%に引き上げる予定の消費税は、借金減らしにも使うことにしていました。しかし、政府は使いみちを変え、教育の無償化などに充てることにしました。このため目標の達成も断念してしまったんです。

ーーー健全化するつもりはあると思いますか?

ことし6月にも新しい目標を示すとは言っています。ただ、何の努力もなしに目標は実現できません。この先、高齢化が進んで社会保障費は膨らむ一方。支える側の現役世代が減るのも目に見えています。
生活費を削るか(=「歳出を削減する」)、収入を増やすか(=増税)、あるいはその両方を組み合わせるしかありません。

ただ、簡単ではありません。誰かに我慢してもらうか、誰かに余計に負担してもらうか、という議論そのものだからです。

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ーーー政府はどうするつもりでしょう?

例えば、財務省は、75歳以上の高齢者が病院などの窓口で支払う医療費の自己負担を、今の原則1割から2割に引き上げるべきだとしていています。
現役世代の健康保険料や税負担が重くなりすぎないよう、公平性の面からも引き上げが必要だと主張しています。医療・介護のさまざまな見直しが検討されています。

増税も続きます。年末には、年収850万円超のサラリーマンや豊かな高齢者の所得税の増税が決まりました。
ことしの焦点は、予定どおり来年(2019年)10月に消費税率を10%に引き上げるかどうか、です。過去2度にわたって延期していますが、景気の状況などを見て、年内には判断すると思います。

ーーー私たちの負担、どこまで増えるのかと身構えてしまいます。

2025年には団塊の世代がすべて75歳以上になり、医療費や介護費が急増します。年金など社会保障制度は持続できるのか?
この疑問が、若い人たちの将来への不安につながっています。

「太陽が出ている間に屋根は修理しなければならない」
アメリカのケネディ大統領の言葉です。
負担増の話はできればしたくありませんが、どしゃ降りになる前に手をうつ必要があります。景気の回復が続く今でなければ、現実を直視した議論はできないと思います。

キーワード(3) もう“猫の目”とは言わせない

ーーー最後のキーワード。いぬ年に“猫の目”ですか?

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永野博孝キャップ(産業・農業政策担当)

永野:えとではありません。農業の話です。 日本の農政は、いったん決めた政策がころころ変わるため“猫の目農政”とやゆされてきました。その農政が、ことし大転換されるんです。

私たちの主食、コメをめぐって半世紀近く続いた「減反政策」が廃止されます。減反政策は、コメ余りを防ぐために昭和46年に本格導入されました。
正式には「生産調整」と言います。

新米の価格はこのところ3年連続で上昇しています。背景には、減反政策で主食用のコメの生産が抑えられたことがあるんです。特に外食や弁当などの「業務用米」は不足感が強まっていて、この3年間で実に4割も値上がりしています。

ーーー減反政策はなぜ廃止?

減反政策は、コメの値崩れ防止に一定の効果があったとされる反面、生産者の意欲をそぎ、農業の大規模化を妨げているという批判もでていました。
減反の廃止は、日本の農業の体質を強化し、競争力を高める狙いがあります。
コメの輸出も積極的に進めて、農業を成長産業にすることを目指しています。

ーーー減反廃止で気になるコメの価格は?

今の時点ではっきりと見通すのは難しいですが、農家が自由に生産できるようになるわけですから、コメの値下がりにつながる可能性はあります。ただ、農業や流通業の関係者などに取材をしますと、値下がりするとしてもその幅は限られるという見方が多いんです。

ーーーどうして?

農家の間には「減反廃止はコメ価格の下落につながり、いずれ経営が成り立たなくなる」という不安が根強いんです。このため農林水産省は、ことしのコメの需要を予測したうえで、“目安”になる全国の生産量を公表しました。
その量は去年と同じ735万トンに設定され、各地でも、それに沿った“目安”が立てられています。
減反が廃止されたからといってコメの生産量が大幅に増えるとは考えにくく、価格はそう変わらないのではないか、というわけです。

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ーーー去年、牛丼や天丼の値上げが相次ぎました。業務用のお米はどうなる?

高値が続くと見られています。農林水産省が推進しているある政策が影響しています。主食用のコメにかわって家畜のエサになるコメ作りを促す政策です。生産した農家には手厚い補助金が支払われます。この政策は減反が廃止されることしも続けられます。

各地の農家は価格の高い「ブランド米」の生産にも力を入れていますから、業務用米を増産しようという意欲は高まらないのではないかと見ています。

ーーーあまり変化がないなら、数年後、「やっぱり減反政策に戻そうか」となったりして…。

それこそ「猫の目」です。
「農業の競争力強化」を実現するには、一貫した政策が不可欠です。
「もう“猫の目”とは言わせない」というキーワードは、減反廃止にかじを切ったからには、農業が成長産業になるまで貫徹してほしいというエールでもあります。

1月9日には、企業やトレンドについて「2018経済キーワード(2)」をお伝えします。