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“AI弁護士”は何を変える?

AI=人工知能が、ついに弁護士の仕事を代行する時代になりました。企業向けに、契約書類の作成をAIが格安で行うサービスが登場。この事業を立ち上げたのは、第二東京弁護士会に所属する若き弁護士です。

企業の命運をも握る契約書の作成をAIが担えるのか? 弁護士の仕事を奪うことにはならないのか? このサービスを運営するベンチャー企業の経営者で、弁護士でもある笹原健太さん(34)に聞きました。(経済部記者 加藤 誠)

AI弁護士誕生

ホームズとワトソンが活躍するのは、イギリスの作家 コナン・ドイルの推理小説ですが、企業の法務の分野でも、おなじみの名前になっていくかもしれません。

ことし8月、IBMが開発したAI「ワトソン」を活用したITサービス「ホームズ」が日本で始まりました。何万円という手数料を支払って弁護士に依頼していた契約書の作成を月額980円の固定料金で、クラウド上で簡単に作成・管理できるというものです。

このサービスを手がけるのは、弁護士の笹原健太さん。中小企業や個人事業者が正式な契約書を手軽に作れるようになればという思いがきっかけだといいます。

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記者:なぜ、AI弁護士のサービスを始めようと考えたのでしょうか?

笹原:私は弁護士になってから、きちんと契約書があれば、裁判沙汰にならずにすんだ例をたくさん見てきました。人間関係や取引関係は壊れ、なかには、お金が振り込まれず、つぶれそうになっている会社もあります。

多くの中小企業や個人事業主は、ここぞという重要な契約しか弁護士に文書の作成を依頼していません。値段の高さや手間もあり、社長や営業担当者が、なあなあの口約束ですませています。トラブルが起きて弁護士事務所に来る前に、予防的に備えてもらう仕組みを作りたかったのです。

記者:企業は助かりますが、弁護士の仕事が奪われるようにも見えますが?

笹原:弁護士の仕事にとっても、必ずしもマイナスではありません。込み入った条文になれば、どうしても弁護士に頼る部分が出てきます。ホームズの利用によって、中小企業などにも契約書を作る文化が広がれば、弁護士の需要も増えると考えています。

わずか5分 爆発的イノベーション

ホームズで作成できる契約書類は多岐にわたります。不動産の売買や、業務の受発注、従業員の雇用や秘密保持など、内容に応じてWEB上で検索。AIがおよそ300種類の中から最適な「ひな型」を選び出します。

ひな型の空欄に、必要な事柄を入力していくだけで、5分ほどで契約書が作成できる仕組みです。売買したモノに欠陥が見つかった場合、売り主がどこまで責任を負うかという「瑕疵担保責任」のような複雑な条文もワンクリックで、表現を切り替えながら選ぶことができます。

記者:大事な契約書の作成をAIに任せることに不安はないのでしょうか?

笹原:契約書の作成は、顧客から聞き取りを行って、不利益な内容にならないように適切な条文を文書に落とし込むという弁護士のノウハウが必要です。ただ、多くの契約文書は、構造や用語が決まっていて、定型のものは作りやすいのです。

弁護士に頼めば、契約書1通で5万円から10万円の手数料がかかってしまいますが、商取引の基本的な知識があれば、誰でもすぐに作れるんです。その意味で、このサービスは、弁護士業界に対する破壊的イノベーションの可能性を持つと思っています。

利用者は中小企業などを想定していますが、まずは、法務部を抱える大企業を中心に、社内の承認プロセスが効率的になるという触れ込みで導入してもらっています。

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“透明性”向上への期待

AI弁護士のホームズは、その未来に可能性を感じたアメリカのベンチャーキャピタルから投資を受け、来年中のスタートを目指し、新たな機能の開発を進めています。既存の契約書をチェックして、顧客にとって不利益な条項がないかを洗い出すというサービスです。

AIを活用したイノベーションによって、笹原さんは弁護士のサービスや料金の“透明性”が高まるきっかけになればと考えています。

記者:AIによって、弁護士業界をどう変えていきたいと考えていますか?

笹原:例えば、企業買収の事前手続きでは、日常のメールや取引きまでチェックし、暴力団との関係や情報漏洩がないかなど膨大な量を人手で調べます。大手の事務所では、時間当たりの料金=タイムチャージがかかり、弁護士費用が多額に上ります。

しかし、AIを使えば、明らかに正常なものと異常なものは素早くチェックできるので、企業側は、AIが判断できないグレーな部分だけを弁護士に頼むということができます。

インターネットでサービスを比べることが当たり前の時代に、弁護士費用は料金設定がわかりづらく、いずれそっぽを向かれてしまうのではないかという危機感があります。弁護士の中には、なぜその金額なのか根拠を説明できない人もいます。少しでも考え直すきっかけになればと思っています。

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AIは助手 主役は弁護士

弁護士の仕事について、笹原さんは「究極的には依頼者の悩みや不安を解決すること。結果的に契約を結ばない判断もあっていい」と話していました。

顧客と向き合い、寄り添いながら、合理性だけでは割り切れない最適解を見いだすのは、人間である弁護士ならではの仕事だという自負を感じました。その思いは、書類作成サービス ホームズの名前にも込められています。AIであるワトソンは小説同様、あくまで助手。最後に問題を解決するのは弁護士だというわけです。

もっとも、この先、AIがさらに広い分野、難しい案件を扱えるようになることが予想されるだけに、弁護士も意識改革を迫られていると、今回の取材を通じて感じました。

加藤誠
経済部記者
加藤誠
平成21年入局
帯広局を経て経済部
現在は情報通信を担当