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日産検査問題 見えてきた真相

日産自動車の工場で長年行われてきた完成車の検査不正。問題の公表後にも、不正な検査が続けられていたことが発覚し、日産は国内市場向けのすべての車の生産・出荷を停止する事態に追い込まれました。

車の安全性をチェックする工場内の最後の“砦”とも言える「完成検査」の現場で、いったい何が起きていたのか。発覚から1か月がたち、次第にその真相が見えてきました。
(経済部記者 吉武洋輔)

完成検査とは

完成検査は、一般には聞き慣れない言葉ですが、簡単に言うと、工場で完成した車の安全性を最終チェックする作業のことです。

この完成検査の項目は多岐にわたります。▽ヘッドライトがつくか ▽ハンドルが回るか ▽ブレーキの効きに問題がないか ▽オイル漏れはないか ▽配管はしっかり取り付けてあるか、また、計測器を使って排ガスの量や音に問題がないかを調べる検査もあります。

完成検査は、日本では、車が安全に作られているかどうかを監督する国土交通省に代わって、自動車メ-カーが実施する重要な工程となっています。このため、メーカー側は、一定の知識や技能を身につけ、社内で資格を取得した人のみが検査にあたるという規定を設け、国に届け出ていました。

しかし、日産やSUBARUでは、この検査を「資格のない従業員」が行っていたのです。

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ルールを破った現場

日産の工場の現場で何が起きていたのか。不正が見つかった“2つの現場”を見ていくと、その内容がわかってきます。

1つめの現場は、資格がなく、訓練中の「補助検査員」が加わっていた完成検査のラインです。補助検査員は、報道では「無資格者」とも言われています。

どんな人たちかというと、完成検査を行う部署に新たに配属された人や新入社員。また、短期契約の期間従業員もいます。そのほとんどが、「完成検査員」の資格を取る前の研修中の人たちでした。完成検査員の資格は早ければ3か月でとれるということですが、資格を取得する前の段階で、完成検査に従事していたのです。

ここで明らかになったのは、はんこをめぐる問題です。工場には、適正に検査が行われたことを記録するため、検査員がはんこを押す書類があります。日産の完成検査の現場では、実際には資格のない補助検査員も検査に加わっていたにもかかわらず、書類はすべて完成検査員のはんこが押されていました。

補助検査員が完成検査員のはんこを使い回し、適正に検査が行われているように見せかける行為が横行していたのです。これは「ルールに違反していることを知りながらやっていた」という証拠にもなりえる事実です。

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そして、もう1つの不正の現場は「商品性検査」のラインです。商品性検査は、車の外観に傷がないかをチェックするもので、安全性能をチェックする完成検査と比べると、少し簡易なものと言えます。

このため、特別な訓練を受けてない人や資格がない人たちが検査にあたっています。しかし、日産は、この商品性検査のラインに、完成検査の工程の一部を混在させていました。その工程とは、シートベルトに傷がないかや 、ドアがしっかり閉まるかをチェックする検査です。

どうして、レベルの違う2つの検査を混在させていたのでしょうか。社内の調査に対し、現場の従業員は「車の外観をチェックする検査と同じで、目視などでできるため、まとめたほうが早くできる」と話していたということです。

この“早くできる”という理由が、今回の不正の背景にあるようです。自動車メ-カーの工場では、少しでも早く車を組み立て、検査し、出荷することが求められます。作業のムダをなくすため、現場の作業員や監督者たちは1つ1つの作業に何秒かかり、どうすれば1秒でも縮められるか、日夜、改善し続けています。

今回の車の検査でも、作業員の車の乗り降りの回数やラインを止める回数をより少なくするという効率性の追求が「まとめたほうが早くできる」という不正につながったと見られています。

常態化の謎

こうした検査の不正は、社内での調査によって、日産の全国6つの工場すべてで行われていたことや、数十年前から続いていたことがわかってきました。

どうしてこれほど長く不正が続いたのか。なぜ各工場に広がったのか。そして、誰か問題を指摘することはなかったのか。

日産は問題発覚後に原因究明を進めるための調査チームをつくって、従業員に対するヒアリングを行っています。関係者への取材を進めると、「いけないことだとはわかっていたけど、ずっとやってきたことだから問題だと思わなかった」と話す現場の検査員もいることがわかってきました。

法令違反の認識があった人も少なからずいたと見られています。それを問題だと声を上げることが怖かったのか。それとも、問題だと言える職場の雰囲気がなかったのか。

ある関係者は、数十年も問題が発覚しなかったのは、日本独特の会社組織に対する「社員の忠誠心」に起因するのではないかと話していました。特に製造現場では正社員は入社してから定年まで同じ部署で勤め上げる人が多いため、「それはおかしい」と言いにくくなるのではないかというのです。

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問われる経営陣のガバナンス

今回の不正に、経営陣や工場長が本当に関与していないのか。

10月19日に行われた記者会見で、西川社長は不正の原因の1つとして「工場の課長と係長の間のコミュニケーションにギャップがあった」と述べました。あくまで幹部は不正に関与しておらず、現場の意思疎通に問題があったと説明したのです。

この発言は、日産社内で大きな波紋を呼びました。まるで「悪いのは現場だ」と言わんばかりの発言と受け止められたのです。会見の翌日、西川社長は現場で働く従業員に対し、「自分たちにも責任があった」と釈明したそうです。

西川社長にしてみれば、不正は自分たちが指示したわけではないし、自分たちは知らなかったという思いがあるのかもしれません。しかし、会社の中で起きた不正は、会社を率いる社長や経営陣の管理の甘さにも問題があるはずです。

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会社の規模が大きくなれば、社員一人一人が何をしているか、何を思っているかまで把握するのは容易ではないと思います。それでも、経営トップは、会社の業績を伸ばすのと同じように、社員がルールを守って仕事をしているか、社内の隅々まで目を配る責任があるのではないでしょうか。

日産は来週には、原因の調査結果、会社の再発防止策、そして、経営陣や幹部の処分を示す見通しです。信頼回復に向けた会社の姿勢が問われることになります。

不正の原因や背景など、NHKでは、製造業を取り巻く問題の実態を深く理解するため、情報を求めています。情報は「ニュースポスト」まで。取材源を守るため、個人のパソコンや携帯電話でアクセスして下さい。

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吉武洋輔
経済部記者
吉武 洋輔
平成16年入局
名古屋局をへて経済部
エネルギーや金融業界など取材
現在、自動車業界を担当