ニュース画像

ビジネス
特集
ものづくりに潜む “サイレントチェンジ”の脅威

突然、自宅の家電が出火する。そんな危険が今、あなたの身の回りにあるかもしれません。「サイレントチェンジ」という言葉をご存じでしょうか?メーカーが知らない間に、下請け企業などが部品の材料や仕様を変えてしまうことを指します。製品事故の原因として、最近増えていると指摘されています。いったい、誰が何のために変えるのでしょうのか。知られざる「サイレントチェンジ」の実態に迫ります。(経済部記者 峯田知幸/報道局ディレクター 太田哲朗)

サイレントチェンジの実態とは

私たちは、大阪市にあるNITE=製品評価技術基盤機構を訪ねました。ここでは、消費者庁などから依頼を受けて事故を起こした製品を調べています。

この日、調査を行っていたのは、ことし4月、山形県で起きた火災の火元となったコタツでした。使用中にヒーターの部分が落下し、火災となったのですが、その原因は、ヒーターを止めるプラスチック部品にありました。

ニュース画像
ニュース画像

研究員の片岡孝浩さんは「サイレントチェンジによって本来の仕様よりプラスチックの耐熱温度が低くなったため、部品が溶けてヒーターが床に落下した。見た目では全くわからないため、メーカーは仕様どおりのものであると信じてしまっている」と指摘しています。

このコタツは、日本のメーカーが東南アジアの工場に製造を委託したものでした。製造した下請け企業が勝手に部品を変えていたと見られています。

このケースでは、結果的にメーカーが15万台のコタツの回収・返金を余儀なくされることになりました。

ニュース画像

材料は安価なモノに…

下請け企業はなぜ、材料を勝手に変えてしまうのでしょうか。

37万台を無償交換することになった通信機器のプラグのケースを見てみます。この製品は、使っているうちに金属部分がショートし、焼け焦げるトラブルが多発しました。

調べてみると、ショートを防ぐための樹脂に本来とは違う材料が使われていたのです。それが、「赤リン」と呼ばれる材料です。

ニュース画像

民間の検査機関によると、赤リンにはプラスチックなどに添加するとそのものを燃えにくくする性質があります。このため、パソコンのフレームやキーボードなど幅広いモノに使われています。安価なため、コスト的なメリットも大きいと言います。

しかし、プラグなど直接電気に触れる場所では、化学変化が起きて電気を通すようになるため、ショートを起こす危険があります。このため使う場合には、特別な加工が必要で、コストがかかると言うことです。

NITEの片岡さんは「性能よりも値段を最優先に作っているのではないかと思う」と話しています。

ニュース画像

グローバル調達に潜む危険

通信機器のプラグのケースでは、サイレントチェンジを食い止める対策の難しさもわかってきました。実際にプラグやアダプターを製造したのは台湾のメーカーでした。

そこでNITEの片山さんが台湾のメーカーに、なぜ違う材料を使ったのか聞くと、「われわれは何も変えていない。仕様どおりの材料で作っているはずだ」との答えが返ってきたのです。本当にきょとんとしたような顔で、そんなはずはないという話しぶりだったと言います。

実は台湾のメーカーは、金属部品を中国にある別の部品メーカーに委託していました。中国の部品メーカーは、さらに樹脂の加工を別の会社に委託。

NITEでは、材料の変更を行っていたのは、この樹脂メーカーだったと見ています。直接、取り引きしている下請けメーカーのさらに先に、原因があるという難しさ。ものづくりのグローバル化が進む中、サイレントチェンジによる見えない危険が潜んでいるのです。

防止のカギは抑止力

サイレントチェンジを防ぐことはできるのでしょうか。

家具や日用品を販売する大手チェーンの取り組みを見てみます。この会社では、品質管理の担当者が定期的に部品を一つ一つバラバラにして、耐久性や、設計どおりに作られているのか調べる「全バラ検査」を行っています。

ニュース画像

対象は、家電製品や家具、台所用品など多岐にわたります。検査のために、1億円もする検査機器を導入しました。

品質管理の責任者には大手自動車メーカーから技術者を引き抜き、100人のスタッフをそろえています。

海外の下請け企業に対しては、直接、訪問して日本での厳しい検査態勢を伝えているほか、品質保証のマニュアルを公開し、孫請け企業の品質チェックを進めようとしています。

もちろん、100%防ぐことにはならないでしょうが、力を抜けないという一定の抑止力になるということです。

安全確保には一定のコスト

ものづくりのグローバル化が進み、部品の供給網=サプライチェーンは一段と複雑化しています。どこか1つの会社が勝手に材料を変更すると、その影響は計り知れません。

今回の問題は、海外のメーカーに起因すると見られていますが、国内でも製品の品質をめぐる問題が起きています。大手鉄鋼メーカー「神戸製鋼所」が、アルミ製品などで検査データを改ざんした問題も、製品を出荷した自動車メーカーなどが知らなったという点では、サイレントチェンジにつながる部分があります。出荷先は国内外のおよそ500社に拡大し、影響が広がっています。

一方、価格競争の中で、メーカーから下請け企業に相当なコスト削減の圧力がかかっているケースがあることも無視できません。製品安全の責任を負うのはメーカーですが、消費者の私たちも、安全を確保するためには一定のコストがかかるという意識を持って製品を選んでいく必要があると思います。

峯田知幸
経済部記者
峯田知幸
太田哲朗
報道局ディレクター
太田哲朗