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中国で急増する電気自動車の謎

EV=電気自動車への注目がいま急速に高まっています。日産自動車が電気自動車の「リーフ」を7年ぶりにフルモデルチェンジしたほか、ドイツのモーターショーでは各社が競って、最新の電気自動車を展示しました。世界中の自動車メーカーが急速に「EVシフト」を進める背景には、世界最大の自動車市場、中国で起きている市場構造の変化があります。いったい何が起きているのか、取材しました。
(中国総局記者 吉田稔)

年間40万台販売 EV大国・中国

8月下旬、北京市内の自動車ショールーム。週末ということもあって大勢の来店客でにぎわっていました。実はこのショールーム、展示されている車はすべて中国産の電気自動車です。

中国は去年、およそ2800万台の自動車が販売された世界最大の自動車市場です。その規模は2位、アメリカ(1786万台)のおよそ1.5倍。日本(497万台)の5倍以上に達します。中国の自動車工業協会によりますと、このうち電気自動車の販売台数は乗用車と商用車合わせて40万台にのぼります。

このショールームでも、以前は韓国製の車を販売していましたが、高まるEVの人気に押され、去年、電気自動車の専門店にくら替えしました。

EV導入は中国の国策

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どうして中国で電気自動車の販売が急速に伸びているのか。 それは中国政府が、大気汚染の拡大を食い止める、いわば国策としてEV導入を促しているためです。

このため電気自動車に対するさまざまな優遇策が設けられています。代表的なものが、電気自動車を購入した人に政府から支払われる補助金です。日本円にして最大で100万円余りが支給されます。冒頭のショールームで販売されていた新型の電気自動車の価格は、日本円で370万円ほどですが、補助金が支払われるため、購入者の負担は260万円ほどですみます。

走行規制もEVは対象外

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優遇策は補助金だけではありません。
交通渋滞と大気汚染が深刻な北京では、ナンバープレートの下1桁の数で、道路を走れる車と走れない車が決められています。たとえば月曜日の場合、ナンバーが1と6の車、火曜日は2と7の車が主な道路を走ることができないといった感じです。このため所有者は週に1度、車を利用できないことになり、その日は地下鉄やバスで通勤しなければなりません。しかし電気自動車はその規制の対象外。いつでも制限なく道路を走ることができます

さらにガソリン車に比べて電気自動車を購入しやすくする優遇策も設けられています。北京では、自動車を購入する前にナンバープレートを取得する必要があります。交通渋滞を抑制するため、発行できるナンバーの数が決められていて、150倍とも言われる抽選に当選しなければ車を買うことができません。しかし電気自動車はここでも規制の対象外。いつでもナンバープレートの交付を受けられるのです。ショールームでインタビューした人は「3年挑戦しても当選しなかったが、電気自動車にしたら1か月でナンバーを取得できた」とうれしそうに話していました。

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実際、電気自動車が売れているのは、走行や購入に関する規制が厳しい都市部が中心で、中国のEVシフトの背景には、確実に車を購入したいという消費者の思惑が強く働いているようです。

再来年に車の10%がEVに

中国政府は自動車メーカーに対して、電気自動車の生産や販売を拡大するよう促す一方、ガソリン車などへの規制を着実に強化しようとしています。

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まず新たな規制を導入し、国内の自動車メーカーが生産販売する車の一定割合を電気自動車やプラグインハイブリッド車などにすることにしています。この規制は、早ければ来年から導入される見込みで、来年には自動車の8%を、再来年には10%を電気自動車などにすることにしています。

さらに、中国で自動車業界などを所管する工業情報化省の辛国斌次官は、9月9日に天津で開かれた会合で、将来的にはガソリン車やディーゼル車の生産販売を禁止する措置を検討していることを明らかにしました。フランスやイギリスが同様の措置を決めていることを念頭に置いた発言です。これが実現すれば世界最大の自動車市場で、さらに「EVシフト」が進むことになり、メーカーの戦略にも大きな影響を与えるとみられます。

EVメーカーが群雄割拠

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中国の自動車メーカーは、この環境の変化にいち早く対応しようとしています。その代表格は深※センに本拠を置く「BYD」です。

この会社、もとは1995年にパソコンなどに使う電池の生産や開発を行うために発足した「電池メーカー」です。その会社が2003年に自動車事業に参入。「電池メーカー」として培った技術力をいかし、積極的に電気自動車を市場に投入してきました。

現在は乗用車はもちろん、運送用のワゴン車や大型バス、さらに路面清掃車まで多種多様な電気自動車を生産しています。中国ではBYDのような新興企業だけでなく、国有企業も電気自動車の生産に乗り出していて、そのラインアップは日に日に増えています。
※センは「土へんに川」

対応急ぐ世界のメーカー

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世界の自動車メーカーも負けてはならじと、中国市場に電気自動車を投入しようとしています。

その代表格がドイツの大手「フォルクスワーゲン」です。5月に安徽省の自動車メーカーと、電気自動車の開発や生産に特化した合弁会社を設立することで合意しました。「ゴルフ」などの車で知られるフォルクスワーゲンは、中国でトップシェアを誇っています。このためEV戦略でも中国重視の姿勢を鮮明に打ち出した形です。

またアメリカの自動車メーカー「テスラ」も、上海市政府との間で現地工場の建設に向けて協議していることを明らかにしています。

日本メーカーも、ホンダが来年から中国市場に新型の電気自動車を投入するほか、日産自動車も中国の東風自動車と新会社を設立し、再来年から中国で生産に乗り出す計画です。日本国内ではハイブリッド車を中心に展開する日本のメーカーも、電気自動車の需要が拡大する中国市場に向けて対応を余儀なくされています。

人口13億を超える中国の自動車市場は今後もさらに拡大する見通しです。中国市場にキャッチアップできるかどうかが、世界の自動車市場の攻略の鍵を握っているといっても過言ではありません。この流れに乗り遅れることなく、商機をつかむことができるのか、日本のメーカーにはもはや一刻の猶予も許されていないと感じました。

吉田稔
中国総局記者
吉田稔
平成12年入局
経済部で財政や貿易などを取材
現在は中国総局