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仮想通貨で資金調達 ICOの可能性とリスク

“新しい事業を始めたい!”
そんなとき、何をさておき必要なのは、お金です。銀行に借りる? 株式を発行して投資家に買ってもらう? そうした従来の手法と違い、今、注目されているのが「ICO」。何かと話題の「仮想通貨」を使った資金集めです。世界では、ことしだけで1000億円を超える資金が集まったとも言われ、国内でも活用例が出始めています。

「次世代の金融になり得るほどのインパクト」という評価もあれば、「明らかなバブルだ」という指摘も。ICOって、いったい?
(経済部記者 中野陽介)

新しいコイン 売ります

ICO=Initial Coin Offering。株式を市場に上場して資金を集める、IPO=Initial Public Offering(新規株式公開)になぞらえたネーミングです。

「新しいコイン、売ります」とでも意訳できるでしょうか。

例えば、「新しい喫茶店を始めたい」 そんな発想をした企業が必要な資金を集めようと、インターネット上で、コイン(=「トークン」とも呼ばれます)を発行して売り出します。「トークンを持っている人は、いつでもコーヒーを割り引きます!」 そんな売り文句をつけて。

そして、「この喫茶店は人気が出そうだ」 「割り引きを受けられるなら買ってもいいかな…」 そう思った人が、投資をします。

インターネット上の資金調達という点でクラウドファンディングとも似ていますが、ICOでは、トークンを買うときに支払うのは、円やドルなどの現金ではなく、イーサリアムやビットコインといった、仮想通貨です。

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ICOは今、世界的に広がっていて、ことしだけで日本円で1000億円を超える資金が集まったというデータもあります。人気の背景には、お金を集めたい側からすると、銀行からの借り入れや株式の上場などに比べて準備が手軽なこと。そして、ネット上の仮想通貨を使うため、国境を越えて世界中から幅広く資金を募ることができるといったメリットがあるとされます。

仮想通貨人気を追い風に

一方、投資する側が期待するのは「トークン」の値上がりです。 ICOで発行されたトークンは、ネット上の取引所を通じて売買ができるため、先ほどの例で言えば、「喫茶店がはやれば、トークンも値上がりしてもうかるかもしれない」などと、投資家の期待を集めているのです。この点は株式市場の仕組みに似ています。

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ビットコインに代表される仮想通貨は、ことしに入って急激に値を上げてきました。(乱高下を繰り返しつつ、という点に注意が必要ですが)

値上がりした仮想通貨を持っている投資家が、今、有望なICOのトークンを探し回っているとも言えるのです。さまざまなトークンを紹介して1秒単位で、発売日までのカウントダウンを行っている海外のサイトもあり、投資家の意欲をかきたてています。

日本ではICOは始まったばかりですが、「インターネット上に信頼できる記事を載せる日本初のサービス」を始めるとして、9月にICOを実施したベンチャー企業には、わずか1週間で3億円を超える資金が集まりました。また、9月からICOを希望する企業のコンサルティングを始めた会社には、すでに70件もの相談が寄せられたそうです。

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私が話を聞いたのは、家庭教師のサービスをスマホのアプリで行うベンチャー企業の経営者。銀行からの融資や株式の公開など、ほかの手段に比べてICOの手軽さが魅力だとしたうえで、「新しい手法なのでリスクもあるかもしれないが、今後、時代の潮流になっていくかもしれず、乗り遅れたくない」と話していました。

ほかにも、建設や介護など、インターネットとはなじみがなさそうに思える業種からも相談が寄せられているというから驚きです。銀行から融資を受けにくい新興の企業でも、資金調達ができる。ICOに詳しい増島雅和弁護士は「これまで投資対象になりにくかった小さな事業や公益的な事業にもチャンスが広がるので、うまく育てていくべきだ」と話しています。

現状はバブル?ICOのリスク

ただ、投資する側から見た場合、ICOのトークンにはリスクがあります。

株式の場合、株主は会社のオーナー。株主総会で経営にもの申すことができますし、インサイダー取引などの不正で損をしないよう国の機関が監視するなど、株主の権利は手厚く守られています。

一方、ICOのトークンは、価値の明確な裏付けがありません。法的な議決権もないので、どれだけ買い占めても、経営にもの申すことはできません。期待して買ったトークンがタダ同然になる… そうしたリスクもあります。

実際、海外では、ICOで資金を集めた後に企業が消えたとか、いつまでたってもサービスが始まらないといった事例が相次いでいます。

仮想通貨への投資が広がっている中国では、9月4日、「金融詐欺やマルチ商法などの疑いがある」という理由で、ICOが全面的に禁止され、波紋を広げています。

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元日銀のフィンテックセンター長で、京都大学公共政策大学院の岩下直行教授は「海外の事例では実体のない企業も多く、現状の資金の集まり方は明らかにバブルだ。単に規制が少ないからという理由でICOが資金調達に使われることは投資家保護の観点から問題が多く、適切な規制やルールが必要」と話しています。

育成か規制か、分岐点に

にわかに注目を集めるICO。同じような仕組みで個人が資金を集める、「VALU」というサービスも出てきています。

「イノベーションが起きない」「お金が回らない」と言われる日本で、ICOは、アイデアを大きなビジネスに発展させる起爆剤になる可能性を秘めています。

「規制を受けず、経営に口出しもされずに、素早く資金調達ができれば、より自由な発想で革新的なビジネスができるはず」という起業家の思いも、関心の高まりの背景にあるのかもしれません。

一方で、投資家をどこまで保護するのか。国境をまたぐインターネット上の世界で、どこまで国際的に共通のルールが必要なのか。誰もが安心してICOの世界に一歩踏み出すには、まだまだ課題が多いのも確かです。

国や中央銀行といった管理者を持たない仮想通貨。その仮想通貨を土台に生まれてきた新たな仕組みだからこそ、大きな可能性とリスクの双方を抱えているとも言えます。

ICOの負の側面に手当てをしつつ、起業を後押しする新たな金融の仕組みとしてどう育てていくのか。金融とITの融合(フィンテック)が今後ますます進んでいくなか、ICOとは何なのかをよく知り、考えていくことが必要だと思います。

中野洋介
経済部 記者
中野陽介
平成20年入局
金沢局 宮崎局をへて経済部
現在 金融担当