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“下げて勝負” 業界のガリバー YKK

あなたの身の回りのジーンズやブルゾン、バッグのファスナーを見てください。見慣れたアルファベットの3文字「YKK」が、きっとあちこちから見つかるのではないでしょうか。YKKは日本が誇るファスナーの世界トップブランド。それが今、なぜかインドの路地裏に集まり、新たな挑戦を始めているというのです。 (富山放送局 西田剛至記者)

ファスナーのガリバー

87億7000万本。一体何の数字でしょう? そうです。YKKが2016年度に販売したファスナーの数です。YKKは1934年に創業。成長を続け、今、71の国と地域で事業を展開するファスナー業界のガリバーです。

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ジーンズなどの衣類やスポーツ用品、高級ブランドの洋服やバッグ、さらには完全密閉が求められる宇宙服。あらゆる製品にYKKのファスナーは使われています。アルミサッシなど建材メーカーのYKKAPもグループの主要会社として有名です。

ボリュームゾーンを狙う

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ことし6月、富山県黒部市にあるYKKの研究・開発拠点の技術者たち3人が、インドに市場調査に向かいました。手にしていたのは来年4月の販売開始を目指すジーンズ用ファスナーの試作品。技術者たちはインドに到着するや、気温40度前後の猛烈な暑さの中、卸問屋や縫製工場を1軒1軒回り、インドの人たちの反応を確かめていました。

ファスナートップブランドのYKKが今、なぜインドに向かうのでしょう。実はYKKはすでに1995年にインドに進出済み。ただ、展開していたのは「高級ファスナー」の分野のみ。インドのふだん着などに使う価格の安いファスナーはほぼ手つかずの状態でした。
そうこうしているうちに中国やインド国内のファスナーメーカーが力をつけ、存在感を高めてきたのです。インドは人口12億余り、経済成長に伴い中間所得層が急速に増えています。しかも2022年ごろには中国を抜いて人口が世界一になる見通しです。

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インドの価格の安い、いわゆるボリュームゾーンのファスナー市場に打って出なければ、いずれ中国などの海外勢に負けてしまう。その危機感が、会社を突き動かしたと、YKKの大谷裕明社長は明言しています。

「品質がいいから、他社より高くても売れるという、横柄なものの考え方で事業が展開できるようななまやさしい市場ではない」(大谷社長)

価格も品質も下げて勝負

YKKはたびたび技術者を派遣して、インドの現地の営業担当者とともにファスナーの卸問屋など数百社を訪問。徹底した市場調査を行ってきました。そこで目にしたのは、価格は確かに安いけれども、すぐに壊れてしまうファスナーの数々。

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バザールの一角には衣服を修理する露店が並び、ファスナーが壊れた服を持ち込む人の姿があちこちに。露店の店主は「1日に10人から15人がファスナーを直しにやって来る。安物のファスナーは壊れやすいんだ」と話していました。

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この光景を見て、最高品質のファスナーづくりのために技術を磨いてきたYKKはインドの顧客の目線にあわせ、開発方針を転換しました。それが「下げて」勝負という戦略です。価格も下げ、品質もぎりぎり許されるところまで下げ、インドに挑むことにしたのです。

「1万回開け閉めしても壊れないYKKのファスナーは、ボリュームゾーンでは興味をもってもらえない。2000回、3000回でも、数年間、壊れなければ、それでいいというのが顧客の声かもしれない」(大谷社長)

ボリュームゾーンを目指し路地裏へ

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インド市場を見据えて開発した製品の1つがスラックス用のファスナーです。かみ合わせの部分には高級ファスナーと同じ素材を使いますが、強度を高めるための布をなくしてコストを抑えました。

開発担当者に聞いたところ、ファスナーを無理にねじ曲げるようなことをすると、確かに弱いのですが、通常必要な横引き強度というものは十分確保されているということです。こうした製品や試作品をとにかく多くのインド人に見てもらうため、これまでは営業に回らなかった、安いファスナーを扱う路地裏の卸問屋や縫製工場まで訪問するように営業スタイルも変えました。

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卸問屋の人たちからは「壊れたという苦情が出ない」と評価する声や「もう少し開け閉めが滑らかにならないか」、「もっと価格を下げられないか」といった注文など、さまざまな反応が返ってきています。技術者たちはこうした声を1つ1つ受け止めながら、ボリュームゾーンへの定着を目指し、改良を続けています。

YKKは3年後には全世界で今のおよそ1.5倍、129億本のファスナーの販売を目指しています。大谷裕明社長は目標達成に必要なのは「お客さんの要望に継続的に半永久的に応えていくこと。どうやって品質をしっかりと維持しながらコストを下げるかということ。これが永遠の課題です」と話しています。

消費者ニーズ くみ取れるか

多くの日本メーカーが高い品質の製品で世界をリードしたものの、その後、安さを武器に競争力をつけた海外勢に敗れてきました。高品質が強みのYKKがあえて「下げて」勝負する戦略。それが成功するかは、消費者のニーズをどこまでくみ取ることができるのかにかかっているといえそうです。

西田剛至
富山放送局
西田剛至 記者