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コンビニが迎えた“静かな危機”

私たちの生活になくてはならない存在となった「コンビニエンスストア」。あの手この手で消費者の「あったらいいな」というニーズを掘り起こし、成長を続けてきました。全国の店舗数は約5万5000。年間の売上規模は10兆円を超えています。ところが今、コンビニ業界の足元には、売り上げや利益には直接表れない、いわば“静かな危機”が忍び寄っています。この危機を放置したままでは、とても今後の成長はおぼつかないとして各社が対策に乗り出しています。コンビニにいったい何が起きているのか。その現場を取材しました。
(経済部・長野幸代記者 加藤誠記者 野口恭平記者)

深刻な人手不足 「仕事の削減」に本腰

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先月末、東京・港区にあるファミリーマートの店舗。ここへ、本社に設けられて間もない社長直轄の「改革推進室」の社員4人が訪れました。目的は店員が行っている仕事の削減に向けた調査です。

消費者にとってはさまざまなサービスを利用できるコンビニですが、裏返すとその分だけ店員の仕事が多いということになります。レジでの会計はもちろん、商品の発注・陳列、宅配便や公共料金支払いの受け付け、チケットの発券、総菜の調理、店内の清掃など、大きく分けて100を超えていると言います。

その結果、店員の負担が大きくなり、「仕事が大変だ」という印象が定着し、アルバイト先として敬遠されてしまっているのです。ファミリーマートの場合、人手不足だと感じている店舗は全国の8割にも上るということです。こうした深刻な事態に、加盟店を束ねる本社としても手を打たなければ現場が持たないと判断し、初めて「店員の仕事の削減」に乗り出したのです。

積み上がった店舗の業務

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「仕事を減らすには、まず実態の把握から」。店舗を訪れた改革推進室の担当者は、店員が行っている仕事について、どれだけ時間がかかっているか計測しました。

例えば、販売促進の対象となった商品をアピールする「値札」や「ポスター」などを取り付ける作業。ストップウオッチを使って計ってみると、ドリンクの棚1つの列に値札を上から下まで取り付けるのに7分余りかかっていました。

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これだけだと大したことはないようにも思えますが、販売促進のための掲示物は1つの店舗になんと500もあり、週に1度その4分の1を取り替えなければなりません。調査の結果、週に1度の作業にかかる時間は、単純に足し合わせただけでも、平均2時間43分になりました。

こうした作業は通常は未明に行いますが、商品の発注やレジでの接客など、ほかの仕事と同時並行でやらなければならないので実際にはさらに長い時間がかかり、店員にとって大きな負担になっていることが改めてわかりました。

業務量の半減を目指して

ファミリーマートでは、サービスの水準を維持・向上させつつも、店員の仕事の量を全体として現在の半分に減らすことを目標にしています。

すでに見直された業務もあります。宅配便に関するマニュアルの簡略化です。宅配便自体にさまざまなサービスがあり、受付と発送だけで14ものパターンに分かれているため、手順を示したマニュアルが100ページを超え、その厚さが数センチになっていました。

これではマニュアルをめくるだけでひと仕事で、手順の理解にも時間がかかってしまいます。このためイラストを入れるなどしてポイントを示した8枚の紙にまとめ、よりわかりやすくしたマニュアルに作り替えました。

ファミリーマート改革推進室の植野大輔室長は「日々変化するお客様へのニーズに対応しようと努力してきた結果、利便性は向上したが、店の負荷が増えすぎてしまった。人手不足への対応は待ったなしの経営課題だ」と話しています。

ロイヤリティーの引き下げも

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一方、最大手の「セブンーイレブン・ジャパン」は、人手不足によって人件費の上昇に直面する店舗を経営面から支援しようと対策に乗り出しました。各店舗のオーナーから受け取る費用=ロイヤリティーの引き下げです。

ロイヤリティーは、ブランドの使用や経営ノウハウの提供の対価として各店舗のオーナーからコンビニ本社が受け取るもので、セブンーイレブンでは売り上げから商品の原価を差し引いた金額の43%を受け取っています(オーナーが土地や建物を所有する場合)。これを今年9月から当分の間、一律1%引き下げることにしました。

1%とはいえ、金額にすると年間70万円程度となり、アルバイト確保のため時給を引き上げなければならない店舗にとって経営面の助けになることを狙っています。ロイヤリティーの一律引き下げは、セブン-イレブンとしても創業以来初めてだということです。

AI導入で負担軽減

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最新技術の導入で業務の効率化を推し進めようという取り組みも始まっています。業界3位の「ローソン」では商品の発注にAI=人工知能を導入しました。AIが販売実績や天候などから、その先の売れ行きを予測し、タブレット端末で必要な発注数を表示して教えてくれるというシステムです。これにより、店員は販売実績のチェックなどの手間が軽減されます。

さらに、2025年までに「無人レジ」を本格導入することも目指しています。「電子タグ」を商品に取り付け、商品の入ったかごをレジに置くだけで会計から袋詰めまで自動で済ませることができるというものです。ローソン・オープンイノベーションセンターの白石卓也センター長は「店舗運営での効率化に加えて、弁当の製造工場でロボットによる弁当の盛りつけなど革新的な技術を導入し、製造から物流、販売に至るまで全ての面で効率化を進めていきたい」と話しています。

また最新技術の活用では、ファミリーマートも通信アプリ大手の「LINE」が開発を進めているAIを活用した発注システムの導入などを検討すると発表しました。各社とも業務の負担を軽減させた“次世代型の店舗”の開発にも乗り出しています。

コンビニは魅力的な職場になれるか?

コンビニが日本で本格的にオープンして40年余り。コンビニ業界は消費者のニーズを掘り起こし、その変化を捉えることで成長を続けてきました。しかし、成長に歩調をあわせるかのように積み上がってきた仕事の量が限界に達したことが露わになりました。

日本社会全体が人手不足に直面する中、働く場として魅力的でなければ企業としても産業としても成長を持続することはできないはずです。利便性やサービスを向上させながら、コンビニがより多くの人が働きたいと思える職場になることができるのか。それが日本の小売り・サービス産業がさらに成長できるかの1つの試金石になるのかもしれません。

長野幸代
経済部
長野幸代 記者
加藤誠
経済部
加藤誠 記者
野口恭平
経済部
野口恭平 記者