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横浜をスポーツのシリコンバレーに

観客動員数が5年で75%増、売り上げは2倍以上に--。驚異の急成長でビジネスマンの注目を集めているプロ野球・横浜DeNAベイスターズが、ことし、新しいビジネスに乗り出しました。目指すのは、地元ヨコハマを「スポーツのシリコンバレー」に育てること。プロ球団が何をしようとしているのか、その取り組みを取材しました。(ネット報道部・安井誠一記者)

負けても楽しい?

よく晴れた5月の日曜日。横浜スタジアム、通称ハマスタには若者や家族連れなど大勢の人が訪れていました。

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本拠地3連戦の最終日、DeNA対ヤクルトの試合は、4番・筒香を中心とする打線も振るわず、5対12で敗れました。しかし、イニングの間に行われる、子どもやファンを対象にしたさまざまなイベントは大いに盛り上がっていました。球場の外のステージでは音楽のショー、周囲にはB級グルメの屋台がいくつも並び、オフィシャルグッズを売る店は試合後も行列で入場制限されるほどの人気ぶり。野球の公式戦というより、地域のイベント会場のようでした。

ビジネスマンも注目

DeNAベイスターズの観客動員数は、このところ右肩上がりで増えています。IT大手のディー・エヌ・エーが球団を買収したのが2011年。この年の観客動員数は110万2192人、座席の稼働率は50.4%でした。その後、観客数は毎年増加し、昨シーズン2016年の観客動員数は193万9146人で、5年前から75%増えました。稼働率も93.3%と、ほぼ満杯です。球団の公式ファンクラブの会員もこの5年で11倍に増えました。

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球団の売り上げは公表されていませんが、親会社のディー・エヌ・エーが発表した2017年3月期の決算では、ほぼ球団と横浜スタジアムが占める「スポーツ事業」の売り上げが、およそ137億円。5年前の2倍以上に成長しています。2016年にはTOBによる横浜スタジアムの子会社化も実現しました。球団の成長は、前社長の書籍をはじめ、経済雑誌やネット記事でもたびたび紹介され、ビジネス界でも大きな注目を集めています。

支えるのはアクティブサラリーマン?

人気の背景は、昨シーズン、クライマックス・シリーズに進出するなどチームの成績が上向いていることがありますが、2012年から球団の経営戦略を担当している経営・IT戦略部長の木村洋太さんは、市場環境の変化に応じたマーケティングとブランディングが実を結びつつあると話しています。

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かつてはプロ野球のビジネスモデルはテレビの放映権収入を中心にしていて、球団は企業の広告塔という役割だったと思いますが、現在は地上波での全国放送がほとんど期待できません。一方で、プロ野球全体の観客数は伸びてきています。この市場環境の変化に対応して、事業の軸を今の形に移しました。

1つはマーケティングです。データ分析から、ベイスターズを支える層を「アクティブサラリーマン」と定義して、チケットの販売や場内の演出、グッズや飲食などのターゲットを明確にし、強化してきました。アクティブサラリーマンのイメージは、野球自体を楽しみながら、音楽のフェスやアウトドアを楽しむような感覚で、その場の雰囲気やコミュニケーションを楽しむ30代ぐらいの人たち。こういう人たちが中心になって、その波及効果があるのが、ほかの球団と違う強みだと思っています。

もう1つは、地元・横浜市や神奈川県の人たちを意識したコミュニケーションを常に図ろうとしていることです。横浜には横浜を愛している人たちがこれだけいるわけですから、私たちが「横浜っぽく」なって、横浜愛を持っている人たちに振り向いてもらう方向で、チームの色づかいなどブランディングの統一を進めてきました。こうした積み上げが今の状況につながっていると思います。

新しいハマの基地ができた

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DeNAベイスターズが今、目指しているのが、地元横浜での新しい事業の拡大です。ことし3月、ハマスタの目の前のれんが造りの建物にビジネスの拠点が静かにオープンしました。施設の名前は「THE BAYS」(ザ・ベイス)。球団の名前と、基地という意味の英語をかけています。旧関東財務局横浜財務事務所の建物を自治体から借り受け、活用しています。

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4階建ての建物の1階は、球団オリジナルのファッションブランドを販売するショップと、クラフトビールが味わえる飲食店。晴れた日には通り沿いのテラスでビールを楽しめるようになっています。取材に訪れた日はナイトゲームの開催日で、試合前に足を運ぶ女性客の姿が目立ちました。

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そして、この施設で球団が最も力を入れているのが、2階に設けた「シェアオフィス」です。一見、リゾートホテルのロビーのような内装ですが、企業や団体が会員になって、研究開発や市場調査などの拠点として活用することが出来ます。オープンから2か月で、慶応大学大学院でAIやスポーツの研究に携わるチームや、スポーツブランドを手がける企業、それに個人利用など合わせて10組以上が会員になっています。中には、「超人スポーツ協会」という団体も参画しています。この団体は、テクノロジーとスポーツを融合させて、身体能力や才能、経験の差を超えて、あらゆる人が楽しめる新しいスポーツを作り出していこうという活動を進めています。

シェアオフィスには、企業ごとのスペースのほかに、共用で打合せなどができるスペースもあり、経営・IT戦略部長の木村さんは、シェアオフィスで企業や団体が気軽に情報交換をしながらスポーツを軸にした新しい産業を作り出す拠点に育てていきたいと意気込んでいます。

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スポーツは今まで、なかなか大きくは産業化されていない現実があります。そこに新たな技術や、発想や、ものごとの仕組みや、なんらかの方法でビジネス化したいという志を持った人たちが、うまく組み合わさることでスポーツを軸にした新たな事業モデルを生み出していきたい。これを私たちは「新産業創出プラットフォーム」と呼んでいます。

具体的には、例えば超人スポーツ協会と協力して、プロ野球のような「見るスポーツ」ではなく、新しい「するスポーツ」の市場拡大につなげようという動きがあります。今までのスポーツ市場は、観戦や興業が中心を占めてきましたが、今の日本では自分たちが参加する形の消費行動が増えていて、市場拡大のポイントになると思います。われわれが作り出す事業の規模は小さいかもしれませんが、新事業創出の旗振り役になれれば、スポーツ界全体の市場規模拡大につながると思っています。

スポーツのシリコンバレーを目指す

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2020年の東京オリンピックで野球・ソフトボールの会場ともなる横浜スタジアムを中心に、スポーツを中心としたまちづくりを掲げるDeNAベイスターズ。木村さんは、街の将来像を次のように話しています。

抽象的ですが、それはスポーツのシリコンバレーを目指すことだと思っていて、もちろん野球も観戦できるし、スポーツに関連する企業群や消費者が集まってくる新しい空間を作り出したいと思っています。ハマスタのあるエリアに集まってくれば、何かおもしろいことが起きるんじゃないの?という期待感を多くの人がいだくような空間を作って、横浜にスポーツによる新たな活性化の軸を生み出していきたいと思っています。

札幌を拠点にしている日本ハム、仙台が拠点の楽天、福岡が拠点のソフトバンクなど、各球団が地域に根ざして次々と新たなビジネスを打ち出しているプロ野球界。DeNAベイスターズが横浜の新たな基地を舞台に新産業を育てていけるか、今後の行方に注目していきたいと思います。

安井誠一
ネット報道部
安井誠一 記者