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どう考える? 外国人の家事代行

コンビニや居酒屋、介護施設や農家まで、働く外国人を目にすることが増えるようになりました。日本で働く外国人労働者は、去年初めて100万人を超えました。
そしてこの春から、ある分野でも外国人の受け入れが始まりました。家庭での掃除や料理を代行する「家事代行サービス」です。“家事を代わりにしてくれる人”と聞くと“住み込みの家政婦”をイメージするかもしれませんが、それとはちょっと違うんです。
始まったばかりの外国人による家事代行サービス、みなさんはどう考えますか。(経済部 吉武洋輔記者)

特区で解禁 家事代行サービス

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「コンニチワ~!」
3月9日、成田空港にスーツに身を包んだフィリピン人25人が到着しました。覚え立ての日本語で声をそろえて挨拶をしたのは、20代から40代の女性たち。この春から大手人材派遣会社「パソナ」の社員として日本で働き始めます。

女性たちは家事代行業に限定した就労ビザを持っています。国は、地域を限定して規制を緩和する「国家戦略特区」を活用して、外国人による家事代行サービスを解禁。対象は東京都、神奈川県、大阪市の都市部で、6つの事業者が認定を受けました。

これまでも日本人の配偶者がいるフィリピン人女性などが家事代行サービスの分野で働く例はありましたが、今回の解禁で、多くの外国人が働けるようになったのです。

背景に深刻な人手不足

なぜ国はいまこの分野で外国人の受け入れを解禁したのでしょうか。
背景にあるのが人手不足です。東京・中央区に本社がある家事代行会社の「ベアーズ」は、年間の利用件数がこの5年で3倍の30万件まで拡大しました。共働き世帯の増加に伴って、家事の負担を減らしたいという要望が増えているからです。

こうしたサービスは、比較的、所得の高い家庭が使うものというイメージもありましたが、最近は「週に1回3時間」といった短時間で利用する家庭も増えているといいます。

この会社では、掃除だけでなく、買い物や料理、子どもの送り迎えなどのサービスも行っています。料金は、利用頻度や内容によって異なりますが、もっとも人気のある掃除と料理を代行してくれる月2回以上の定期利用コースでは、1日3時間9900円(税抜)からとなっています。

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共働き家庭で、月に2回、お風呂やキッチンなどの掃除を依頼している40代の利用者は「月に2回だけでも気持ち的にとても助かる」と話していて、この家庭が支払う1か月の利用料は2万5000円だということです。

ところが、こうした需要の拡大に対して人材の確保が追いつかず、この会社は去年末から2か月余り、一部のサービスの受付を中止せざるを得なくなりました。高橋ゆき副社長は「日本の人手不足に危機を感じている」と話しています。この会社も外国人の採用を行う見通しです。

日本の家庭再現した研修施設も

来日したフィリピン人女性たちは、まもなく日本の家庭で実際に働き始めますが、言葉や文化も違う日本の家庭で家事代行の仕事に就くことに不安はないのでしょうか。

実は、マニラには家事代行スタッフの養成施設があり、日本の家庭を再現したモデルルームも用意されています。彼女たちは来日の前に3か月間にわたり、日本の洗剤の種類を覚えたり、畳の掃除のしかたを学んだりしました。さらにはウォシュレットで知られる「温水洗浄トイレ」の使い方や掃除のしかたまでみっちりと研修を受けています。

彼女たちは、日本に来てからも、実際に家庭を訪問して研修を続けています。私は今月、「パソナ」が始めた神奈川県内での研修を取材しました。家事代行サービスは、留守中の家庭をスタッフが訪ね、ひとりで仕事をするケースが多いだけに、研修では、家事代行の指導員から細かい掃除のしかたを1つ1つ学んでいました。

来日したフィリピン人女性のひとり、ペセブレ・クリスティーンさん(32)は、コンロの回りをきれいに拭いていましたが、先輩の指導員から「もっと角も拭かなければダメ。ほとんどのお客さんは家に帰ってまず角がきれいになっているかを見ます」と厳しく指導を受けていました。

ペセブレさんはときおりノートにメモをしながら「日本はとても細かいです。日本式のやり方を覚えないといけません」と真剣な表情で話していたのが印象的でした。

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過去の反省に立って

彼女たちが住んでいるのが神奈川県内にあるシェアハウスです。6人1組で暮らしています。今回の制度では国が会社にさまざまな条件を課しています。

住み込みの家事は禁止で会社が別の住宅を用意すること、給与は日本人と同等の水準にすることなどです。

日本での外国人労働者の待遇をめぐっては、これまで違法な低賃金や長時間労働で摘発される事業者もいたことから、国はこの反省を踏まえて厳格なしくみをつくったのです。

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どう向き合う 外国人労働者の受け入れ

今回の制度からは、日本の外国人労働者の受け入れをめぐる大きな課題が見えてきます。それが外国人労働者の滞在期間を一律に限定していることです。今回のフィリピン人女性たちの滞在期間は3年です。3年たつと必ず帰国しなければいけません。

彼女たちが「もっと働きたい」とか「家族を呼び寄せたい」と考えても、それはできないようになっています。フィリピンに6歳の子どもがいるペセブレさんは「3年に限らず日本で長く働きたい」と話しています。

なぜ国は滞在期間を限定しているのでしょうか。
外国人労働者の受け入れに対しては、治安などの面から慎重な意見もあり、国はこうした声に配慮する形で期間を限定しているのです。国は、いわゆる単純労働の分野では外国人労働者は原則定住させないというスタンスです。建設、農業、製造業などですでに欠かせない労働力になっている「技能実習生」も、あくまで本国へ技術を持ち帰ることを目的としていることから、滞在期間は最大で5年に限定しています。

ただ現実には、さまざまな分野で外国人が日本のために仕事をしています。外国人労働者の受け入れのスタンスや仕組みをあいまいにしたままでは、いずれは逆に外国人が日本を選ばなくなるかもしれません。

人手不足を解消する手段は、もちろん外国人を受け入れることだけではありません。しかし、外国人労働者をどれだけ受け入れていくのか。海外から日本に来て働く人の視点に立った制度の在り方をきちんと議論する時期に来ているのではないでしょうか。

吉武洋輔
経済部
吉武洋輔 記者
平成16年入局
名古屋局をへて経済部
エネルギーや金融業界など取材
現在、自動車業界を担当