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新頭取が考える「10年後の銀行」

新年度に入り、新入社員とおぼしきスーツ姿をよく見かけるようになりました。一方、迎える側では経営陣の顔ぶれが変わり、新体制のスタートを切った企業も多くあります。

メガバンクの一角を占める三井住友銀行も、この4月にトップが交代。新しい頭取に高島誠さん(59)が就任しました。異業種を巻き込んで激動する金融の世界。「10年後の銀行」はどんな存在になっているのか。巨大銀行の経営のかじ取りを任された新頭取に疑問をぶつけてみました。
(経済部・市原将樹)

「偏ったキャリア」

広島県出身の高島さんは、昭和57年、当時の住友銀行に入行。学生時代、あえて留年までして法曹界を目指したものの夢かなわず、先輩に勧められるがままに、銀行に入ったといいます。

みずから「キャリアが偏っている」と評するように、35年の銀行員生活のうち、20年以上を国際関係の部門で過ごし、アメリカには通算11年間も駐在しました。企画や営業の出身者がトップに就くことが多い銀行界では、異色の経歴です。

本人も頭取に選ばれるのは想定外だったとのこと。去年12月、当時の國部毅頭取から後継の座を告げられた際は「えっ」とひと言、思わず絶句。冗談かと思って聞き直したといいます。

お金もカードもない社会

金融業界は今、技術革新による急速な変化の波にさらされています。スマートフォンで支払いや送金などができるサービスが次々と生み出され、IT技術を活用した金融サービスを意味する「フィンテック」という言葉も浸透してきました。 では、10年後の金融サービス、そして、銀行はどんな形になっているのか。高島さんが頭に描くのは、現金もカードもない社会です。

「先進国で日本ほどキャッシュ(現金)が使われている国はないが、今後は、仮想通貨のようなものや、カードといったキャッシュを介さないサービスが急速に拡大していくだろう。あるいは、カードさえいらないキャッシュレス、カードレスの世界になる」

世界を見渡せば、カードによる支払いしか受け付けず、現金を拒否する店さえあります。“現金志向”が強い日本にも、10年後には本格的なキャッシュレス社会が到来すると、高島さんは考えています。

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変わる店舗の役割

では、10年後のキャッシュレスの時代、銀行はどのように変わっているのでしょうか。

「業務の在り方が最も変わるのは、おそらく店舗。端的に言うと、お金を取り引きする場としての支店は、急速に減少していると思う。スマホのほうがよっぽど楽で便利だから。支店が残るとしたら、その役割はコンサルテーション(相談)。ローンなどの金融サービスについて相談にのる、対面の場としては支店の存在が続くだろう」

「銀行の支店と言えば、入り口にATM=現金自動預け払い機が並び、その奥に、口座の開設や預金などを受け付ける窓口や相談コーナーがあるのが一般的です。

一方で、一部の銀行では、業務を効率化する必要もあって、来店客を案内するロボットを導入したり、印鑑や紙を使わずに手続きができたりする店舗も出始めています。高島さんも、支店の業務やサービスを大胆に変えていきたいと考えています。

「新しいテクノロジーとビジネスモデルを使って、大幅に業務を変えていきたい。そもそも、キャッシュなんかおろさなくてもよい便利な金融サービスを作っていかないと」

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三井住友銀行の未来型店舗

再編は?戦略は?

技術革新への対応のほかにも、銀行が直面する経営課題は数多くあります。

日銀のマイナス金利政策による超低金利が長期化し、融資で稼ぐことが難しくなっています。そして、国内では人口の減少が進み、顧客の奪い合いは一段と激しくなります。厳しい経営環境が続くことを見据えて、地方銀行では再編の動きが活発化しています。

では、3つのメガバンクを中心とした大手銀行の業界地図は、10年後、どのように変わっていると考えているのでしょうか。

「大手の金融機関の数や構成は、変わっていないのではないか。逆に言えば、大きく再編統合が進んでいくことは、あまりイメージできない。ただ、注力する領域はおそらく変わっているし、変わっていないとまずい」

現状に安住してはいけないと危機感を語る高島さんの目線の先にあるのは、今後も高い経済成長が見込まれるアジア。ライバル銀行の存在も意識しつつ、10年後のイメージを描きます。

「アジアにアクセントを置きながら、グローバルに打ってでたい。10年後には、おそらく『みずほフィナンシャルグループ』よりも、アジアでの事業基盤が大きくなる。アジアに1つ、日本と同じくらいの収益力やフランチャイズを持った拠点を作りたい」

貫けるか挑む姿勢

キャリアの大半を国際部門で過ごし、海外の金融マンと渡り合ってきた高島さん。インタビューを通じて感じたのは、挑戦を重視する考え方です。

「ニューヨークに勤務していた当時、『日本の銀行が出てきたときには、マーケットは終わり』と言われていた。日本の銀行は非常に保守的。『みんながやり始めた、なんかもうかっているみたいだぞ』といって参入しても結果的にいいことはない。ここぞというところで果敢にリスクを取っていくほうが結果はよい」

「自分なりのポジションを作り、自分なりに攻めていける取り引きをやることが重要だ」

頭取としての初仕事となった4月3日の入行式。高島さんは、1300人余りの新入行員を前に「モットーは『進取果敢』。何事もまずは取り組んでみるという姿勢を忘れずに挑戦し続けてほしい」と訴えました。

この訓示は、高島さんがみずからに向けたメッセージでもあると私は受け止めました。頭取という予期せぬポストに身を置いても、海外で身につけた初心を忘れず、攻めの姿勢を貫こうという決意を感じました。

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三井住友銀行では、これまで「三井出身」と「住友出身」が、トップ層のポストを分け合う「たすきがけ」の人事が続いてきたと指摘されています。4月に発足した新体制では、主要ポストが「住友出身」で占められ、行内からは、従来のバランスが崩れたとして、影響を懸念する声も聞かれます。

銀行の内外に課題を抱える中、頭取としてのスタートを切った高島さんが、次の10年に向けてどんな“挑戦”を打ち出していくのか、注目していきたいと思います。

市原将樹
経済部
市原将樹 記者
平成13年入局
札幌局をへて経済部
金融業界を担当