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無表情ロボット 介護に優しい笑顔が

ことし2月。宮城県内の介護施設に新たなロボットが導入されました。名前は「テレノイド」。開発したのはマツコアンドロイドなどの製作で有名な大阪大学の石黒浩教授です。このテレノイド、認知症のお年寄りのコミュニケーション力を引き出す効果が期待されていて、実用化は世界初だということです。いったいどんなロボットなのでしょうか。(仙台放送局 安藤和馬記者)

無表情な人型ロボット

「宮城県に世界初のロボットが来る。認知症の介護現場を変えるかもしれないー」

去年12月、テレノイドを使った研修会が行われるということで、宮城県名取市の特別養護老人ホーム「うらやす」に取材に行きました。そこで初めてテレノイドと対面しました。

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「不気味でちょっと気持ち悪い。でも、どこかかわいい」というのが第一印象でした。認知症にどの程度効果があるのか、最初は半信半疑でした。テレノイドは、人型ロボット「アンドロイド」の1つで、赤ちゃんほどの大きさです。真っ白で顔は無表情。オペレーターが手元のタブレット端末で動きを指示します。例えば、タブレット端末の「ハグ」というボタンを押すと、離れたところにあるテレノイドが、両手をギュッと動かして抱きしめるしぐさをします。オペレーターがマイクを通して話をすると、そのまま子どもの声色になってテレノイドがしゃべります。

お年寄りの表情が明るく

テレノイドと認知症のお年寄りとがふれあうと…。たちまち、お年寄りの表情に変化が現れました。まるで自分の子どもや孫をあやすようにテレノイドを抱きしめて、話しかけるようになったのです。

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認知症の女性のお年寄りは、テレノイドを抱きながら「かわいいね。1人で遊んでいるね」とほほえみながら話しかけていました。また、別の女性のお年寄りは、テレノイドの顔にキスをしていました。さらに、テレノイドが歌をうたうと、お年寄りも一緒に歌い始め、施設の中がにぎやかで暖かい雰囲気に包まれました。

テレノイドは、認知症のお年寄りのコミュニケーション力を引き出す効果があるということです。秘密は、顔です。年齢や性別がわからないよう、あえて無表情に作られています。人間の脳は受け取る情報量が少ないと想像力が豊かに働くと考えられています。このため、テレノイドに身近な人物を重ね合わせ、親しみを持つことができるというのです。

テレノイド販売会社の社員、宮崎詩子さんは「テレノイドを通せば子どもになりきって話をすることができます。今までコミュニケーションがゼロだった人が、笑顔になったり、話し始めたり、歌ってくれたりします。コミュニケーションを0から1に変えることができるロボットです」と話していました。

オペレータの話術も鍵

テレノイドを使いこなすためには、オペレーターの話術も鍵を握ります。子どもになりきって会話することがコツです。

「何色が好き?」とか「何の歌をうたう?」など質問をすることで、認知症のお年寄りから会話を引き出すようにします。また、歌をうたうときには、途中でわざと歌詞を忘れたふりをします。「春が来た、春が来た、どこに来た~」まで歌ったあと、「あれ、続きなんだっけ?」と聞きます。すると、お年寄りも頑張って思い出そうとし、「山に来た…」と自分から歌い始める人もいました。こうした工夫が、お年寄りの積極性をより引き出すことになると感じました。

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施設の職員も操作してみましたが、まだ慣れていなくてぎこちない部分もありました。これから会話の引き出しを増やしていくよう練習しています。そうすることで、職員の介護技術のスキルアップにもつながると期待されています。

テレノイドを使った施設の職員は「ふだんは業務に追われていて、長く接することができません。入所者があのように喜ぶ姿を見るのは初めてだったのでよかったです」と感想を話していました。

佐々木恵子施設長は、「私たちが知らない一面を見せてくれるんじゃないかなという期待はあります。新しい技術を入れることでさらによいものにしていけるのはとても魅力的だと思うし、これからどんなふうになっていくのか楽しみです」と話していました。

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被災地から新たな介護モデルを

テレノイドを開発したのは大阪大学の石黒浩教授です。石黒教授は、自分そっくりのアンドロイドや、マツコアンドロイドなどを作ったこの分野の第一人者です。石黒教授によりますと、デンマークやドイツなど海外では、すでにテレノイドの実証実験を行い、認知症の行動が改善したケースが見られたということです。

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テレノイドの特徴について石黒教授は、「いちばんの特徴は見かけです。私のアンドロイドと比べて性別も年齢もわからないようなニュートラルな見かけをしています。これだと膝の上に抱きながら自分の想像で姿形を思い浮かべながら話をすることができるので、自分の話したい人がすぐ近くに来てくれる、その人と触れ合っているという感覚になります」と話しています。

石黒教授は、高齢化が進む被災地から新たな介護モデルを全国発信することに意義があると考えています。

「宮城県は東日本大震災があったために、高齢化がほかの地域よりも10年早く進みました。高齢化社会の問題に最初に直面するのが宮城県や東北です。そこでロボットを使ってもらえれば、遅れて高齢化するほかの県でも使ってもらえるんじゃないか。復興して元に戻るだけではなく、そこからさらに発展するチャンスだと思います」と話していました。

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今回取材したテレノイドは、介護現場の人手不足を補うものではありません。人間が操作するので、施設にとっては、かえって仕事が増え、手間がかかるロボットとも言えます。1体、約100万円と手軽に買える値段ではありません。しかし、テレノイドを抱いた時のお年寄りはなんともいえない優しい表情をしていました。あの柔らかな笑顔を見ると、これがサービスの質の向上なのかもしれないと思いました。最先端のロボット技術を使った新しい介護のかたちが定着していくのか。そして、東日本大震災の被災地発の介護モデルが全国に広がっていくのか、これからの展開も楽しみになってきました。

安藤和馬
仙台放送局
安藤和馬 記者
山口放送局や政治部などを経て
仙台局で行政を担当