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“出版不況” 子どもが救う?

雑誌や書籍の売り上げの低迷が続く出版業界。最近は、スマートフォンの普及などで、列車の中で文庫本などを読む人の姿も少なくなりました。
厳しい経営環境にある出版各社が注目しているのが、学習漫画などの子ども向けの書籍です。各社が子ども向けの出版物に力を入れる背景を取材しました。
(経済部 長野幸代記者)

読者層が広がる歴史の「学習漫画」

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大学入試センター試験を1か月後に控えた12月14日、“学問の神様”菅原道真公をまつる東京都内の神社の本殿前に小中学生向けの日本史の学習漫画が並べられました。大手出版社「小学館」がこの日から始めた販売キャンペーンの一環で、漫画を使った受験生の合格を祈願しました。

出版社によると、日本史の学習漫画は、大学受験に活用する高校生などが増えていることもあって、売り上げが見込める有望な分野だというのです。私も幼いころに学習漫画を読んだことがありますが、最近は高校生も読んでいると聞いて正直驚きました。

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この出版社の日本史の学習漫画の創刊は35年前の昭和56年で長く小中学生に親しまれてきました。改めて注目を集めるきっかけとなったのは、去年、公開された映画「ビリギャル」でした。学年で最下位の高校生が一念発起して受験勉強を始め、短期間で志望する大学に現役で合格するというストーリーです。この主人公が歴史の勉強に使っていたのが学習漫画でした。映画を見た高校生などが学習漫画を購入するようになったと言います。

実際に大学受験に役に立つのでしょうか?
出版社に聞いたところ、小中学生向けの学習漫画ですが、制作の際に参考にしているのは高校の「日本史B」の教科書で、細部まで読み込んで覚えれば、センター試験にも十分対応できるとしています。

小学館児童学習局の安達健裕編集長は、「歴史が苦手な人でも、漫画だと気軽に基礎知識を学ぶことができるので人気となっている。大学受験の内容にも対応しているので、最近は高校生を中心に読者層が広がっている」と話していました。

有名漫画家を起用した学習漫画も

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ライバルの出版社も動き出しています。
「集英社」はことし10月、日本史の学習漫画を18年ぶりに全面改訂しました。6年後の平成34年度から実施される高校の新たな学習指導要領に合わせることが主な狙いです。全20巻のうち、指導要領の改訂で力を入れることになった近現代史をこれまでの6巻から8巻にして内容を充実させたほか、受験勉強を意識してそれぞれの巻末にキーワードをまとめた用語集も盛り込みました。

さらに、子どもたちに関心を持ってもらおうと表紙も工夫しました。「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦さんや「東京タラレバ娘」の東村アキコさんなど有名漫画家が表紙のイラストを描いています。この学習漫画は、発売前から予約や問い合わせが多く、初版の発行部数はシリーズ全20巻の合計で当初想定の2倍の120万部に増やしました。

書店で学習漫画を購入した人に話を聞いたところ、「子どもに勉強しなさいといっても聞いてくれないが漫画は楽しんで読んでくれるので効果的だと思う」と話していました。

縮小する出版市場 わずかながらも伸びる児童書

高まる学習漫画の人気。それを裏付けるデータもあります。 出版科学研究所のまとめによりますと、国内の出版物の売り上げは平成18年に2兆1500億円余りでしたが、去年はおよそ1兆5200億円。10年間で30%減りました。

一方、学習漫画を含む児童書の売り上げは3年前まで減少傾向にありましたが、平成25年は770億円、平成26年は780億円、平成27年は807億円と少しずつ増えています。

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書店の担当者は「児童書を購入する親は、子どもの勉強のための本であればお金を惜しまない傾向にある。また少子化が進む中、両親や祖父母だけではなく、おじ、おばなどが親戚の子どもにプレゼントするケースもある。右肩下がりの出版市場の中で、子どもの学習につながる商品はこれからも需要が伸びる分野だと思う」と話していました。

絵本も人気

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こうした児童書人気を象徴する絵本があります。 2年前に徳間書店から出版された「MAPS」という絵本。ポーランドの作家が描いたこの本は、世界42か国の地図と、それぞれの国の食べ物や文化、そして産業などをイラストで紹介しています。

注目すべきはその大きさ。A3サイズで重さは1.4キロもあり、価格は3200円(税別)ですが、徐々に売り上げを伸ばし、ことし6月に22万部を突破しました。

この絵本を出版した徳間書店の児童書編集部の小島範子編集長は「当初、こんなに大きな本が売れるだろうかと心配したが、イラストを見ながら世界のことを学ぶことができることや、本のサイズが子どもと親が一緒に見るのに適していたということで人気を集めたのではないか」と話していました。

子どもたちが楽しく学ぶことができる本の需要はまだあることを示している事例だと言えそうです。

戦略に注目

“出版不況”が続いているためか、業界の関係者からは将来を悲観する声をよく聞きます。しかし今回、児童書を取材してみて、需要を掘り起こせる分野は眠っているのではないかと感じました。なによりも児童書が充実すれば、その後、大人になっても活字に親しむ人が増えるのではないかと思います。出版各社が子どもたちにどんな書籍を提供していくのか。引き続き、その戦略に注目していきたいと思います。

長野幸代
経済部
長野幸代 記者