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世界のリーダーが注目
人類250万年の旅

今、世界のリーダーたちがこぞって手に取る本があります。

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マーク・ザッカーバーグ氏(フェイスブック創業者)
「この世の謎を解き明かしてくれる知的冒険の書だ」
ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト創業者)
「人類の未来が気になっているすべての人に薦めたい」

アメリカのオバマ大統領までもがこう述べています。「私たちが驚くべき文明を築くことを可能にした核心が語られている」
その本とは『サピエンス全史』。世界48か国で200万部以上売れているという人類史の本です。人類250万年の歴史を斬新な視点で紐解いて、資本主義の限界論や未来の私たちがどうなるかまでをも提示する壮大なストーリーです。この本がなぜ現代の人々の心に響いているのか。その背景に迫ります。(経済部 木下健記者)

著名人の心に響く一冊

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ことし9月に日本でも発売となった人類史の本「サピエンス全史」。上下巻合わせて500ページを超える分厚い本です。タイトルからすると難しそうな印象を受けますが、なぜか国内外の名だたるリーダーたちから注目を集めています。

日本でもあのホリエモンこと、堀江貴文さんはいつもの口調で「僕が繰り返し言っていること」としながらも高く評価しています。

また、ロボットと人工知能の開発で世界をリードする工学者の山海嘉之さんはこの本を読んで、長い人類の歴史をふまえたうえで未来を考えることの大切さを学んだとしつつ、あることの危険性も指摘しています。

「矛盾」が本を書く動機に

この本の著者、ユヴァル・ノア・ハラリさんは、1976年生まれのイスラエル出身の歴史学者です。イギリスの名門、オックスフォード大学で中世史、軍事史を学び博士号を取得。現在はヘブライ大学で学生に人類学を教えています。

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NHKは、来日したハラリさんにインタビュー取材しました。私も会いましたが、全身が知性の塊のような印象で、質問するといったんかみしめて、静かに、理路整然と力強く、自分の考えを述べる人でした。また、例え話しが上手で、難しいことをみじかな問題にとらえなおさせてくれ、ものごとの本質がどこにあるかを明確に示してくれました。

彼が壮大な人類の歴史に関する本を書いた原点には、生まれ育ったイスラエルという国の事情があります。パレスチナとの間で紛争が絶えないイスラエル。なぜ人類は戦争を繰り返すのか。大きな「矛盾」を感じたハラリさんは、その答えを探ろうと軍事史の研究を続け、過去の歴史を再考したのです。そして、歴史を大学で教えるときにどうすれば学生が興味を持ってくれるか、考えを重ねてまとめあげ、この1冊にたどり着きました。

そして、ハラリさんはインタビューのなかでこの本を書いた目的を次のように話しています。

「ほとんどの国の学校では今でも自国の歴史、自国の文化、自国の宗教を中心に教えています。しかし、21世紀の人類の大きな問題のすべては本質的にグローバルなもの。国単位だけで考え続けたら問題は解決できないでしょう。歴史家としての私の務めは、これらの世界的な問題の答えを出すべく努力することです」

フィクションを信じる力こそ繁栄の源

この本では、農業や格差、宗教から貨幣、資本主義、科学に至るまで幅広いテーマを網羅しています。そのなかで、私が最も印象を受けたのは、「人類が繁栄したカギは、フィクションを信じる力だ」という主張です。

今からおよそ7万年前。当時、より力が強いネアンデルタール人という別の種族もいましたが、生き残ったのは私たちの祖先、ホモ・サピエンスでした。その理由としてハラリさんがあげたのが、実在しないもの=フィクションを多くの仲間が信じる力だというのです。フィクションをみんなで信じることで1人ではできない大きなことを成し遂げることができ、それが地球上の覇者になった源だというわけです。

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ハラリさんはこんな例え話をしています。

「100頭のチンパンジーは協力できても、1000頭のチンパンジーは協力できない。しかし、人間は数百万という大勢とでも柔軟に協力できる。なぜなら人間はフィクションを信じ、皆が同じルールに従うようになるからです。一方、チンパンジーは『バナナをちょうだい。そうしたら死後にチンパンジーの天国に行くことができるよ』と、説得することはできないのです」

フィクションとは、私たちの身近なところで言えば『お金』や『会社』もそうですし、『国家』や『宗教』といったものもそうです。この本ではホモ・サピエンスがこうした能力を身につけたことを「認知革命」と表現しています。

農業は私たちを不幸せにした?

世の中はどんどん便利になっているのに、なんだか心が満たされない。格差や差別がなくならず、人々を不幸にしているのはなぜなんだろう?こんな疑問をふと考えることってありませんか?この本では、その根源をおよそ1万2000年前に見つけています。それは「農業革命」。農業によって食糧が増加し、人々は満ち足りた生活を楽しんだとするのがこれまでの一般的な解釈でした。

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しかし、ハラリさんは「食糧の増加はよりよい食生活やより長い余暇には結びつかなかった。むしろ人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながり、苦労して働いたのに見返りに得られる食べ物は劣っていた」というのです。そして、集団としては発展できたメリットはあるものの、一人一人の労働時間はむしろ長くなり、一握りの権力者以外は不幸になったというのです。

ハラリさんはインタビューで「農業が始まると大規模な王国や帝国ができ、社会的な階層や搾取、差別が見られるようになった」と答えています。格差や差別、多くの人が不幸になるという問題は1万2000年も前に原因をたどることができると驚きの説を主張しているのです。

資本主義の限界

2008年、100年に一度と言われる金融危機、リーマンショックが起きてから、経済がおかしくなっています。いったんは持ち直したかに見える世界経済は力強さを欠き、新興国も先進国も、成長のドライバーを失い、漂流したかに見えます。また、経済指標はそれほど悪くないのに、格差が拡大し、人々の不満は募る一方。イギリスのEU離脱や、アメリカのトランプ新政権の誕生など、予期せぬできごとが次々と起きて「資本主義の限界」もささやかれています。

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ハラリさんは資本主義について、本のなかで「経済成長は永久に続くという資本主義の信念は、この宇宙に関して私たちが持つほぼすべての知識と矛盾する。獲物となるヒツジの供給が無限に増え続けると信じているオオカミの群れがあったとしたら愚かとしか言いようがない。それにもかかわらず、人類の経済は近代を通じて飛躍的な成長を遂げてきた。それはひとえに科学者たちが何年かおきに新たな発見をしたり、斬新な装置を考案したりしてきたおかげだ」と述べています。イノベーションを起こし、新しい需要を創出するしか、資本主義を持続させる方法がないというわけです。

ハラリさんの本を読み、共感する経済人もいます。インターネット証券会社を傘下に置くマネックスグループの会長、松本大さんです。

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松本さんはまず、「経済の拡大に限界が来ているのではなく、資本主義もITもものすごいスピードで加速している。そこで力をつける人と取り残される人がでてきているのに、束ねる概念が弱いのだと思います」と課題を指摘しています。そのうえで、「シェアリングエコノミーのような新しい考えが登場しているのに20世紀型のGDP=国内総生産という統計ではしっかり補足されていない。GDPに代わる新しいフィクション、共同ビジョンを話し始めることが大切だと思います」と話しています。

科学は私たちの未来そのものを変えるのか

SF映画でよく描かれるロボットやコンピューターに支配される未来。最近でも人工知能を使ったロボットが、囲碁の世界トップ棋士を破るニュースなどを見ると、いつかは機械が人間の能力を完全に上回ってしまうのではないかと、ちょっと怖さを覚えることもありますよね。

テクノロジーの進化について、ハラリさんはこんな疑問を投げかけています。「人工知能は私たちが生きている間にほかの何よりも世界を変えうるのです。今日、学校に通っている子どもが40歳、50歳になったときにどんな仕事についているか、誰にもわかりません」。

そして、衝撃的なことを語り出しました。

今後、1,2世紀のうちに人類は姿を消すと思います。それは人間が絶滅するということではなく、バイオテクノロジーや人工知能で人間の体や脳や心の在り方が変わるだろうということです」と語り、科学があまりに進歩することで人間そのものの在り方が、過去7万年のものとは根底から違うものになってしまうのではないかと警鐘を鳴らしているのです。

ハラリさんは、未来を切り開くカギは、私たち人間が「欲望をコントロールできるかどうか」だとしています。目の前にある最先端の科学技術に飛びついてそれをただ進化させるのではなく、未来にどういうことをやりたいのか、計画をたてて開発をしていくべきだというのです。そのためにもハラリさんは私たちとのインタビューの最後で、政治の果たす役割が大きいと述べています。

「重要なのは政治が科学と技術の進歩について、もっと認識することです。私たちはもはや、この政治と科学をわけて考えることはできません。21世紀にどんな未来を過ごしたいのか、しっかりとビジョンを持ち、幸せな道に進む賢い選択をするには、政治と科学がもっと近づいて協力しあわなければならないと思います」

視野を広く持とう

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混迷を深める現代。世界各地で相次ぐ凄惨(せいさん)なテロ事件や格差の拡大。資本主義の行き詰まりが指摘されるかと思いきや、保護主義を掲げるアメリカ大統領の登場。私たちの暮らしがこの先どうなるのか、なかなか見通せない状況です。

日々の仕事や勉強に追われ、ついつい私たちは自分たちの回りのことしか目に入らなくなり、あせったり、くよくよ悩んだり、怒ったりしがちです。ハラリさんは、本のなかで「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を広げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ」と述べています。歴史を見つめ直し、視野を広げることで、全く新しい考え方にたどり着くことができるのではないか。この本を読んでそんなことを強く感じました。


NHKでは、この人類史の本を通じてみる「未来を生き抜くヒント」について、1月4日放送予定の「クローズアップ現代+」で、詳しくお伝えします。

木下健
経済部
木下健 記者
平成20年入局 さいたま局、
山口局岩国報道室などを経て
現在、情報通信業界を担当