ミャンマー・抵抗勢力 訪日代表団が語ったこととは
ミャンマーでの軍事クーデタから3年。いま、事態は新たな局面に突入しています。
平和的なデモを武力で弾圧された民主派勢力は武装闘争を宣言し、地方の山岳地帯で軍事訓練をうけて、力をつけてきました。さらに少数民族の武装勢力とも連携し、クーデターを起こしたミャンマー軍を脅かすようになっています。
これに対しミャンマー軍は空爆を激化させて対抗。クーデター後の犠牲者は5000人を超え、国内避難民もクーデター以降250万人を超えるなど、人道危機も深刻化しています。
こうしたなか今月、抵抗勢力の代表団が緊急来日。緊急の支援を求めました。
(「クローズアップ現代」取材班)
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今回、インタビューに答えてくれたのが、民主派勢力・国民統一政府(=National
Unity Government 以下 NUG)の幹部、ゾー・ウェー・ソーさんと、少数民族組織のカ
レン民族同盟(=Karen National Union 以下 KNU)議長のパドー・ソー・クウェ・トゥー・ウィンさんです。今回、あえて2人でインタビューに答えたいといいます。
私たちは、初めて対面してから間もないですが、ミャンマーの現状と変化、そして発展のためにはとても役立つことです。(少数民族の)彼らは、私たちよりも政治に詳しく、そのようなリーダーたちと共に行動することは、NUGとしても学ぶことがたくさんあります。
今回、一緒に来たのは、少数民族グループとNUGが互いに協力しあっていることを皆さんに示す象徴的な訪問にしたいのです。
多民族国家のミャンマー。国民の7割を占めるビルマ民族が国の中央部に住んでいます。
少数民族は国境地帯の7つの州に主に多く住んでいて、民族をさらに細かく分けると、その数は130以上にのぼるとも言われます。
1948年にイギリスから独立して以来、少数民族の一部は独自の武装組織を持ち、軍事政権と長らく対立してきました。
中でも、最も長く自治を求めて活動していたのが、ミャンマー南東部の少数民族同盟、KNUです。2015年に軍との停戦に合意をしましたが、2021年のクーデターでもはや無効になったと宣言しています。
日本を訪れた理由
Q. 今回初めて抵抗勢力として代表団を引き連れたということですが、
なぜ日本を選んだのでしょうか?
日本は、ミャンマーの問題から距離を置くべきではないと考えています。独立前から、日本はミャンマーの問題に関与してきた歴史があるからです。残念ながら、外国を訪問するとき、いつも私たちの国がどのような状況にあるのか十分に理解されていないと感じています。国際社会は、軍を中心に据え、軍との関係を結ぶことで解決を図るべきだと考えているようですが、実際のところ、この問題を引き起こしているのは他でもない軍ですから、軍を相手に交渉するよりも、私たち少数民族勢力や全土の抵抗勢力と(対話して)達成を望む政治目標や政治的な方法による解決策を知っていただき、理解していただきたいと思っているのです。日本は東アジアの中でも大国で、先進国ですから、日本の関与は非常に重要だと考えています。
クーデターから3年。ミャンマーはいま、大きな転換点を迎えているといいます。
クーデター前は、全土のほとんどの地域が時の政権の支配下に置かれていました。しかし、クーデター後は、既存の少数民族武装組織のみならず、国民全体が軍に対し武装して抵抗するという状況に至りました。そのため、ほとんどの地域が少数民族の武装組織や、民主派勢力でつくる国民防衛軍のもとに入るようになったのです。その結果、6割程度の行政区域を支配下に置くことができました。
70年の歴史がある軍と闘うということは、世界の人たちも少数民族の人たちも思っていなかったことです。しかし、この革命に参加している若者たちの精神力で、今は軍を倒せる状況になり、成功への道が近づいてきたと思っています。
ミャンマー軍との戦闘で大きな転換点となったのが、“1027作戦”です。
1027作戦は、ミャンマー東部シャン州で、3つの少数民族の武装勢力がミャンマー軍に対して一斉攻撃を開始した作戦の名前です。
10月27日に攻撃を始めたことから、こう呼ばれるようになりました。
戦闘は当初、東部シャン州の中国との国境周辺が中心で、少数民族側は中国との交易拠点の町や、軍の施設などを次々と支配下におさめていきました。その後、戦闘は西部のラカイン州にも広がり、国の東西から軍への圧力を強めていきました。
こうした動きに民主派勢力も呼応して攻勢を強め、同時多発的な動きに対応が難しくなった軍は各地で拠点を奪われ、投降や脱走する兵士が増えていきました。
ミャンマー軍の兵力は40万あるといわれていましたが、4月末現在、13万にまで減少したとみられています。
軍は2月、徴兵制を実施すると発表しました。
このことについて、抵抗勢力側はどう受け止めているのでしょうか。
(徴兵制は)軍の先を読めていない判断です。我が国が、これから先いちばん困難になる決断だと私は言いたいです。そのため、若者たちは国内にとどまることが出来ず、海外に逃亡しました。このような状況になったのは国の損失であり、損失が続かないように私たちは出来るだけ守ろうとしています。まず、国際社会には、若者が困難な状況にならないように、見守ってほしいと、この場をお借りしてお願いしたいと思っています。さらに今の少数民族のリーダーたちとミャンマーの新しい憲法について話し合い、将来的に、海外に生活拠点を持った若者の力を借りられるようにしたいと思っています。
ミャンマー軍とどう向き合う?
Q. 今後、ミャンマー軍の弱体化が見込まれますが、どのような態度で臨みますか。
私たちを含む全ての少数民族組織とNUGには、共通した立場があります。1番目は、軍は政治に関与してはならないというものです。軍は、国民によって選ばれた政府の統制下になければなりません。2番目は、将来的にこの国を連邦制民主国家へと移行させることです。3番目は、体制の移行期における公平性確保です。将来的に、武装組織を国の防衛のためにどのように統合させるのかという話し合いです。
私たちカレン民族同盟は、政治的な問題、すなわち権利の平等や人権や自治権が少数民族に与えられなかったので、これらを繰り返し要求してきました。これらは軍事的に解決されるべきものではなく、政治的に解決されなければならないと繰り返し訴えてきました。過去の政権では、停戦合意を結んでから開発に着手するというやり方だったので、政治的解決を受け入れていませんでした。例えば、2011年のテイン・セイン政権の時も、われわれKNUを含む少数民族武装組織に対し、停戦合意に応じるよう呼びかけがありましたが、その中に政治的対話というのはいっさい含まれていませんでした。私たちは政治的対話を望んでいたので、政治的な解決策を求めるという合意案を要求し、向こうはこれを飲みました。停戦合意に署名したのは、政治的な合意を実現するためなのです。そこから3年かけ、2015年に停戦合意の署名に至りました。ところが、障害になったのが軍でした。軍からの合意が取り付けられず、まったく先に進まなくなってしまったのです。軍は、不安に駆られてクーデターを起こしたのです。政治問題を新たな政治体制で解決するという理念は消え、停戦合意は終わりを迎えました。再び武装闘争路線に引き戻されたのです。いまや全土が戦闘地域となり、ビルマ族が大多数をしめるミャンマー中央部でも国民が戦闘に参加するようになりました。本来これは解決策ではないのです。
軍の支配が続き政治を掌握している限り、我が国に平和は訪れない。少数民族の苦しみが続き、国民は貧困から抜け出せない。今は誰もがそのことに気づき、全国民が参加するようになりました。我々が最終目標に到達する日がぐっと近づいたと感じています。これはカレン族だけではなく、全ての民族に共通の意識だ。国民全体が、軍の支配が続く限り、政治を牛耳っている限り、民主主義はもたらされず、連邦制民主主義は実現できないため、平和はもたらされないと考えています。今回は規模が大きいため、必ずや成功すると確信しています。
ミャンマー 今の課題は
Q. 内戦が続くなか、いま最も課題となっているのは何でしょうか。
私たちの地域では、クーデター前から政府のような形で統治を行って来ました。国民による行政統治です。役所機関もあり、17郡に、中央レベル、県レベルと言ったように、各レベルに行政機能を持たせて統治を行って来ました。役所機関も政府のそれと全く同じような形で設置し、保健・救済局、教育・文化局、交通局、農業局、林業局が設置されています。治安問題についても、内務・宗教局というのがあり、国民も頼りにしてくれています。しかし、クーデターを起こした軍が、行政制度、教育制度、保健医療制度を崩壊させるような行動があります。武力衝突が起きている時に、国民生活の利益となる病院や学校が軍による空爆を受け、かなりの程度が破壊された。教育や保健医療にダメージがありました。これについては海外からの支援を受け、なんとか国民のニーズに応えてきました。ただ、被害の程度は甚大です。武装衝突が拡大するにつれ、軍も軍事的手段により市民を無差別に攻撃するようになり、インフラが著しく破壊されているのです。
教育に関しては、我が国の教育はかなり改革しなければならない状況です。一番は、世界中でかなりレベルが下がっているのを、かなり上げないといけない状況です。もう一つは、我が国は135の民族がいる多様性のある国ですから、各州の民族地域の母国語の教育を受けることをしないといけません。自分の母親の言葉である母国語と、文化を発展させないといけません。発展させてこなかったため、少数民族の文化は劣化しています。それを取り戻すため、私は活動を始めました。同時に、ボトムアップのアプローチと各地域の教育を向上させるために改革をしていかなければなりません。私たちが歩みたいのは、連邦制民主主義国家です。連邦政府の原理や民主主義の原理の教育を受けることができれば、お互いに理解し合い、他の国とも調和した生活ができる若者を育てる国になるのです。そのため連邦教育政策を掲げて、少数民族全員とボトムアップを作っていく決意です。
日本に期待することは
Q. 内戦が続くなか、海外からどのような支援を期待していますか。
ニーズが大きすぎて、自力では解決できません。NUGの教育・保健省や社会救済省と調整のもと、解決策を模索しているところです。支援を必要としているところは、国境地域やその他の地域であり、海外からの支援が十分に得られている状況にはない。軍が支援の障壁となっている。特に300万人いる国内避難民については、ASEANの組織が支援を行なっていますが、これは政府つまり軍が窓口となっているため、本当に必要としている真に困難な状況にある避難民になかなか行き届きません。少数民族武装組織や少数民族社会奉仕団体等、国境地域一帯で組織された組織は、長年にわたる経験から、海外からの支援として国境を超えてのクロスボーダーの必要性を訴えているのですが、今のところ、大規模な支援は海外から得られていない状況です。日本政府にも、この状況をご考慮いただき、本当に支援を必要としている国民に直接届くよう、可能な方法でクロスボーダー支援を行っていただけるようお願いしたいです。
ミャンマーとしては、現状は変わってきている。去年、おととしとは同じ状況ではない。変化を理解し、政治変化をうまく利用し、経済制裁することや軍、独裁者に対していま空爆をしている軍用機の燃料をカットすること、軍が武器を購入するための外貨をカットするほか、国際組織と手を組んで、近隣国と手を組んで、そういう政治変化をサポートできると思います。しかしそれ以上に課題に重要と考えているのが、教育と保健分野の支援です。いずれもクーデター後、壊滅的被害を受け、緊急支援が必要です。民主派が支配した地域には教育と保健分野に関してはNUGがサービスできるように、少数民族と手を組んで頑張っているので、国際社会に対して、支援を求めているところです。軍は自分の利権だけを見てクーデターを起こした、みんなを困難な状況にしました。その結果、若者の未来が失われているわけです。 このような国の将来のため、若者のため、私たちは今の時期、すべてを捨てて闘っているわけです。日本としても、教育分野への支援実績があります。ぜひ支援をお願いしたいと思います。
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