川崎 学校プールの水出しっぱなし 教員の損害賠償どこまで?

ことし5月、川崎市の小学校で教諭が操作を誤り、プールの水を出しっぱなしにした問題で、市が小学校の教諭と校長に弁償を求めていた、損害額の半額にあたるおよそ95万円が15日に納入されました。

川崎市教育委員会によりますと、ことし5月、川崎市多摩区にある稲田小学校で、プール開きに向けて水をためる際に教諭が操作を誤ったため、水道水が出しっぱなしになりました。
6日間にわたって注水が続いてプールおよそ6杯分の水が流出した結果、190万円余りの損害が生じたということで、市は先月、半額に当たるおよそ95万円を弁償するよう、教諭と校長に求めていました。
教育委員会によりますと15日、全額が市に納入されたということです。
稲田小学校の川村雅昭校長は「けじめをつけるものとしてお支払いしました。今後は、深く反省しながら子どもたちが不安なく安心して学校生活を送れる環境をつくっていくために誠心誠意努力してまいります」とコメントしています。
教育委員会には弁償を求めたことを巡って、「プールの管理は教員の仕事なのか」「教諭が可哀想だ」などと、批判的な意見が多く寄せられたということです。
川崎市教育委員会は「個人の賠償責任について慎重に判断した結果であり、批判は受け止めるが、適正な判断だと考えている。同様の事故が起きないよう再発防止に向けた検討を進めたい」としています。

川崎市や教育委員会には21日までに635件の意見が電話やメールなどで寄せられました。
多くは賠償請求に対する批判で、「教員がかわいそう」とか、「プールの管理は教員の仕事なのか」といった内容だったということです。
また、インターネット上でも多くの批判が投稿され、SNSのXでは、「個人が払わなければいけないの?」「川崎市の教員にだけは絶対ならない」といった書き込みが見られました。

教職員らでつくる川崎市教職員連絡会は、教員と校長への賠償請求の取り下げを求めてインターネットで集めたおよそ1万7千筆の署名を、市と教育委員会に提出しました。
連絡会の大前博事務局次長は「教員ではなく、マニュアルがないなど、市のプールについてのずさんなリスク管理に原因があるのではないか。今回の決定を検証してもらわないと、全国の教員に与える影響も大きい」と話しています。

教職員共済生活協同組合=教職員共済では、教職員の業務中のミスなどで、損害賠償が必要になった場合に備える保険を、2011年から取り扱っています。
プールの水を出しっぱなしにしてしまったというケースのほか、卒業アルバムの校正ミスで刷り直しが必要になったり、運動会が延期になった際に給食を止め忘れたり、敷地の草刈り中に石が飛んで、車を傷つけてしまったりと、さまざまな事案があるということです。
保険金の支払額は増加傾向が続き、2013年にはあわせて880万円ほどだったのが、昨年度は倍の1890万円ほどに増えたということです。
教職員共済の代表理事で元教員の伊藤功さんは「学校の先生はいろいろなことをしています。どれも学校運営上の仕事だと受け止めているので、うまくいかなかった場合は責任を感じます。保険を使って賠償できる方が、安心して仕事ができるのではないかと思っています」と話しています。

学校についての法律に詳しい東京学芸大学の佐々木幸寿教授は損害賠償の水準は時代によって変わってきているとしたうえで、教員が担うべき業務について、議論が必要だと指摘しています。
国家賠償法では公務員が職務を行う際に他人に損害を与えたときは、国や自治体などが賠償責任を負うと定めています。
公務員に故意や重大な過失があった場合は、国や自治体などは公務員に賠償を請求できるとしています。
佐々木教授は「公務員は国家賠償法に守られていて、かつては重過失に至らない限り、賠償請求を受けなかった。教員の仕事が多岐にわたり、ひとつひとつのミスで賠償請求していると、萎縮してしまうという配慮もあった」と指摘しました。
一方、平成20年代からは住民からの批判が高まり、監査請求や訴訟が起こされるようになったことから、行政が民法を適用して損害賠償を行うようになったということで、これまでの事例や判例を見ると、損害額のおおむね半額を請求することが一定の相場となっているとしています。
佐々木教授は「損害賠償の水準はある程度時代的な背景のなかで決まっていく部分もある。教員の業務が加重だという声もあるなかで、プールの管理を教員が担わなければならないのかという議論も当然ある。どこまでが業務で、どこまで責任を負わなければいけないのか。いろんな声が起きてくるとは望ましいことだと思う」と話しています。