川崎市 ぜんそく患者への独自医療費助成 廃止案を議会に提出

川崎市は、市内全域のぜんそく患者を対象に独自に行ってきた医療費の助成を来年3月末で廃止する案を市議会に提出しました。

川崎市は、国の公害認定の新規受付が終了した昭和63年以降も、国の公害認定の指定地域だった川崎市の川崎区や幸区を含めた市内全域のぜんそく患者に対し、年齢に応じて医療費の一部か全額を助成する独自の支援を続けてきました。
支援の対象者は、ことし3月現在、子どもを含めて1万2000人あまりで支援に必要な金額は令和5年度の予算額で3億6800万円あまりとなっています。
去年、アレルギー疾患に対する国の指針が改正されたことを受けて、市でも対応を検討した結果、ぜんそくを含めたアレルギーの発症と重症化の予防に向けた知識の啓発や、医療体制の整備などに力を入れていくことが決まりました。
その上で、ほかのアレルギー疾患患者との公平性を担保するため、ぜんそく患者に特化した市の助成は来年3月末で廃止する方針できょう開かれた市議会に助成に関係する条例の廃止案を提案しました。
助成の廃止をめぐっては、ことし2月から3月にかけて募ったパブリックコメントで、700通を超える市民からの反対意見が市に寄せられているということです。
川崎市は、「公平性を欠くという市民からの声もあり、法律や指針に照らしても特定の疾患への助成を続けることは困難だ」などとしています。

川崎市のぜんそく患者らでつくる「川崎公害病患者と家族の会」の大場泉太郎事務局長は「助成制度がなくなれば患者が病院を受診する回数が減るおそれがある。患者の中には通院のために生活費を削らなくてはならないという声もあり、不安が強くなっている。多くの市民が廃止に反対の意思を示しているのに、なぜ強行するのか」と話しています。

【ぜんそく患者への助成の歴史】
川崎市では昭和30年代から40年代にかけて、高度経済成長期に工場からの煙や自動車からの排気ガスなどによる大気汚染など公害が深刻な問題になりました。
こうした中、成人のぜんそく患者への助成は、昭和49年に、川崎市の川崎区と幸区の住民を対象に国の公害健康被害への補償として始まりました。
昭和63年には、新規認定の受付が国で停止されましたが、川崎市では平成3年以降も、公害補償の補完事業として川崎区と幸区の住民を対象に助成が続けられてきました。
平成19年には、ぜんそくは全市に広がっているとして「公害への補償」ではなく、「アレルギー疾患への対策」として市内全域を対象とした新たな医療費助成制度へと変わり現在まで続いています。
また子どものぜんそく患者については、昭和47年から現在まで、小児ぜんそく対策として助成が続けられています。

【助成廃止 パブリックコメントで懸念の声多数】
国のアレルギー対策指針が改訂されたことを受けて川崎市はアレルギーの発症の予防に向けた知識の啓発や、診療所や病院など、医療機関が連携してさまざまなアレルギー症状に対応できる医療体制の整備などを盛り込んだアレルギー疾患対策案を今月新たに作成しています。
市では、この新たなアレルギー疾患対策案や市がぜんそく患者への助成を廃止する方針について、ことし2月から3月にかけてパブリックコメントを募集しました。
その結果、市民から723通の意見が寄せられ、このうち717通は廃止に反対するもので、助成の対象が1万3千人と増加傾向にある中、患者の声を聴かずに一方的に制度を廃止しないでほしいとか、制度の廃止により受診機会が奪われるなど、懸念の声が多く寄せられたということです。
川崎市は、「大変重く受け止めているが、公平性を欠くという市民からの声もあり、法律や指針に照らしても特定の疾患への助成を続けることは困難だ。今後、吸入ステロイド薬を核とした標準治療の普及や、発症や重症化予防のための相談、医療提供体制の整備、人材育成などを進めていく」としています。