特集★元エリート会社員の島生活

人口減少が進む中、山口県をはじめ全国の自治体がこぞって呼びかけているのが移住です。
しかし、ネックになるのが人間関係や仕事の不安ではないでしょうか。
5年前、都会から周防大島町に移住した男性は、ユニークな働き方で人生を満喫しています。
男性の生活に密着しました。


《ひじき漁師は元エリート金融マン》。
“瀬戸内のハワイ”と呼ばれる山口県周防大島町。
5年前、妻と移住した榮大吾さん。
出身は神奈川県横須賀市です。

「妻の実家が広島県だったんで広島から1時間半圏内ぐらいでちょっと田舎暮らしがしたい.僕が魚釣りが好きだったり海が好きだったんでどうせだったら島行きたいね」。

慶応大学を卒業し、日本政策投資銀行に就職した榮さん。
日本経済を動かす仕事にだいご味も感じていましたが、「自分以外でも替えがきくのでは」と感じ7年目に脱サラしました。

いまは特産の「沖家室ひじき」の生産に取り組んでいます。扱うのは選りすぐりの新芽だけ。鉄分は一般的なスーパーのひじきの5倍にもなるとされ、天日干しから袋詰め、情報発信まで、全ての工程を手作業でこなし、オンラインで全国に販売しています。

島に来るまで漁の経験が全くなかった榮さん。
右も左もわからない不安の中、汗をかく榮さんの姿を見て目をかけてくれたのが、漁師の大久保重範さんでした。
「最初はどの程度やるのかさ、半信半疑だから.俺が知ってることは全部教えてやるよって。道具は全部お前にやるよって」。
(榮さん)
「要領悪いもんですから『そうじゃない!』って叱られたりしながらですけど、粘り強くやってたらちゃんと教えてもらえるのでそこがいま楽しくなってきていま頑張れてますね」。

何もかも初めてで戸惑う榮さんを助けてくれたのも地域の長老たちでした。よそから来た榮さんが畑を使えるよう、地権者にかけあってくれました。
「こういうのでやったら硬い土でも掘りやすいよと教えてもらったりして」。
縁もゆかりもない自分に手を差し伸べてくれた島の人たちのおかげで、地域に溶け込むことができたといいます。
「もちろん厳しいことも言ってもらうこともあるんですけど山のこと海のことなんてもともと何にも知らなかったんで、そういうのを教えて下さる、働き方の師匠でもあり、生き方の師匠みたいな人が結構たくさん周りにいらっしゃるので、そこがやっぱり本当に来てよかったなと」。

榮さんは、複数の仕事をこなす“合わせ技”で生計を立てています。ひじき漁をメインに、畑で育てた野菜の定期販売。町の集落支援員や移住に関連した講演、金融機関の経験を生かしてコンサル業務も。収入の柱を1つに絞らず、複数立てることで、リスク分散を図っています。

《移住には家族の理解も》。
妻の美咲さん。はじめは不安もあったものの、夫の希望を尊重したと言います。今では生活費が安く、自然に囲まれ、時間に追われない暮らしに幸せを感じています。
「ぜいたくという考え方が多分人それぞれ違うと思うんですけど、私はこの生活が一番ぜいたくな生活だなと思ってますね」。

《島のために恩返しも》

移住して5年。榮さんが最近力を入れて取り組んでいることがあります。荒れた農地を再生する大切さを知ってもらおうと、県内外から人を集めて一緒に草刈りなどを体験するイベントを開きました。道路を挟んでかつて一面のミカン畑だったというこの一帯。町では高齢化などに伴い、3分の2が荒廃農地となっています。
この道路は大雨の際に水を逃がす水路の役割も兼ねていますが、荒れ地となって役割を果たせず土砂災害の危険性が高まっています。道路を整備し、この一帯を再び畑としてよみがえらせることが今の目標です。
地域の人から受けた恩を若い自分が継いでいく。
それが将来の島の発展につながっていくと信じています。
「生涯働いて細く長く豊かに生きていきたい。周りにこういうジイさんになってたいなっていう人たちがすごいたくさんいるんで、その点は本当にいいですね。生き方のお手本が周りにいるってこんなに希望が持てることなんだ。80代でも元気に動き回っていたりするんで。そういうジイさんになりたいですね」。