“真の昆虫の王者”は? カブトムシ対スズメバチ

クヌギ林などで夏の夜間や早朝によく見られるカブトムシの姿。
夜行性と思われてきたカブトムシですが、実は、ある天敵の存在によって、夜行性を強いられている可能性があることが山口大学の研究者によって示されました。

カブトムシの生態に詳しい山口大学理学部の小島渉講師は、ことし8月の朝5時ごろ、山口市内のクヌギ林で、樹液に集まるカブトムシと、そこに飛んできたオオスズメバチが餌場争いを繰り広げる様子の撮影に成功しました。
映像では、オオスズメバチがカブトムシの脚に繰り返しかみついて、次々と投げ落とし、わずか数分で餌場を乗っ取ってしまう様子が収められています。
この様子は、3日間、朝5時ごろにいずれの日も確認されたということです。
そこで、オオスズメバチがいない場合、カブトムシの活動時間帯がどう変化するのか調べるため、ハチよけのスプレーでスズメバチを樹液に近づけないようにしたところ、カブトムシの半数以上は、少なくとも正午まで樹液に集まったままだったということです。
カブトムシは、これまで夜行性だと考えられてきましたが、今回の調査から、カブトムシの夜行性はオオスズメバチによって強いられている可能性があると分析しています。
小島さんは、「意外な結果で、もともと夜行性だと思われていた動物が、実は何かの要因で夜行性になってしまうという新たな視点を得ることができたのではないか」と話しています。

【カブトムシと天敵の闘いが動画に】
山口大学理学部の小島渉講師が、ことし8月の早朝に、山口市の郊外で撮影したおよそ5分間にわたる動画には、クヌギの木の樹液場をめぐるカブトムシとオオスズメバチの攻防の様子が収められています。
午前5時ごろ、オス・メス、合わせて10匹余りのカブトムシが木にしっかりとしがみつき、樹液を吸っていました。
そこに、数匹のオオスズメバチが飛んできます。
そして、オオスズメバチは、樹液を吸い続けるカブトムシの横や背後から近づき、脚を狙います。
そして、何度も脚にかみつき、次々とカブトムシを木から落としていきました。
なかには、樹液を吸うのをやめて、正面からオオスズメバチと対じするカブトムシもいますが、今度は、複数のハチに同時に横や後ろから脚をかまれ、あっけなく下に落ちていきました。
樹液場からカブトムシの姿が無くなったのは、わずか3分後。
その後は、スズメバチが樹液場を占領していました。
撮影した小島講師は、「力の強いカブトムシだが、脚にかみつかれると、しがみつく力がそぎ落とされ抵抗できなくなるようだ。オオスズメバチはそれを熟知しているようで、執ように脚を攻撃していた。餌場を取り合った場合、硬い体を持ちスズメバチよりも体重が重いカブトムシの方が有利かと思っていたが、ここまで簡単にスズメバチに投げ落とされてしまう光景には衝撃を受けた」と話しています。

【昆虫の専門家 “非常におもしろい”】
今回の研究について、昆虫を中心とした生物の多様性について詳しい九州大学大学院の荒谷邦雄教授は、「カブトムシは、まさに昆虫界の王者と考えられてきていて、天敵はカブトムシよりも体の大きな鳥や人間をはじめとした哺乳類だとされてきたが、実はオオスズメバチの方が強いのではないかという今回の結果は非常におもしろい。戦い方も、ハチの針がカブトムシの硬い体には刺さらないということは考えられてきたが、脚をかむという弱点を知っていて、それで投げ落とすという観察もハチの賢さを示すようでとても興味深い」と話しています。
一方で、オオスズメバチによりカブトムシが夜行性を強いられているという可能性については、「オオスズメバチがいない地域でカブトムシの行動時間帯がどう変わっているのか、鳥などのほかの天敵の影響がどの程度あるのかなども含めて、進化の過程をより詳しく検証する必要がある」と話しています。