能登半島地震で津波警報 沿岸部で冬の避難に課題 明らかに

能登半島地震で津波警報が出た山形県沿岸部では、厳しい寒さなどで高台の避難場所に逃げた人たちが警報の発表中に相次いで帰宅するなど、冬の避難が課題となっています。
こうした中、山形県鶴岡市では、屋内の避難所に移ろうとしても、津波で浸水するおそれがあるエリアを通らないとたどりつけない避難場所が全体の半数に上ることが市への取材で分かりました。

ことし1月1日の能登半島地震では、山形県沿岸部に津波警報が出されている中、厳しい寒さなどで広場などの高台にある避難場所に逃げた人たちが相次いで帰宅するなど、冬の避難が課題となっています。

NHKが山形県沿岸部の3つの自治体を取材したところ、鶴岡市では、屋内の避難所に移ろうとしても、津波で浸水するおそれがあるエリアを通らないとたどりつけない避難場所が65か所と、全体の52%に上ることが分かりました。

市によりますと、沿岸部の集落は海岸沿いから山までの距離が近いため、安全に避難できるルートが限られているということです。

【高台に避難した人は】
能登半島地震で山形県沿岸部に発表された津波警報を受けて高台の避難場所に逃げたものの、1時間ほどしかとどまれなかったという75歳の女性は「寒さで耐えられなかった」と当時を振り返りました。

鶴岡市の釜谷坂地区に住む本間昭子さん(75)は、ことし1月1日の能登半島地震で津波警報が発表されたことを受けて、小中学生の孫娘2人を含む家族6人で自宅から100メートルほど離れた高台の避難場所に逃げました。

避難場所は高台にある畑で、当時、雪は降っていなかったものの雨や風を防ぐものはないところでした。

本間さんは1時間ほどとどまっていましたが、厳しい寒さから自宅に戻ることを決め、その後、車で屋内の施設に避難したということです。

本間さんは「幼い子どももいて寒さに耐えられず、ずっと避難場所にとどまることは考えられなかった。津波で浸水するおそれがある自宅に戻るタイミングも難しかった」と当時を振り返りました。

そのうえで、「将来の災害に備えて高台に小屋でもあればといいと思うがなかなか実現しない。防寒具やテントを用意するなど各自でできることをしたい」と話していました。

【「避難場所」と「避難所」】
市町村が指定する住民の避難先には、▽災害が差し迫っているときに命を守るため緊急的に避難する「避難場所」と、▽当面の避難生活を送るための「避難所」があります。

地震や津波、洪水など、災害の種類ごとにそれぞれ設定されていて、津波の「避難場所」は高台に設定されますが、公共施設がないことから屋外に設定されるケースが多くあります。

一方、「避難所」は住宅に被害を受けた人などが当面の避難生活を送る施設ですが、高台に限らず津波で浸水するおそれがあるエリアにあることもあります。

このため、災害が差し迫っているときに「避難所」に向かうとかえって危険な場合もあります。

【専門家は】
地域防災に詳しい跡見学園女子大学の鍵屋一教授は「津波が到達しないことを最優先に設定されている高台の避難場所では冬は非常に寒く、長時間とどまるのは難しい」と指摘しました。

そのうえで、「日本海側の津波は到達が非常に早いのが特徴で、地震が発生してから防寒対策をしていては津波の被害を受けるリスクがある。各自でカイロや毛布が入った非常用の持ち出し袋を用意するほか、避難場所の防寒対策を進めることが重要だ。避難所にたどりつけない場合も想定して、地域住民の間で話し合い、高台の民家を避難先にするなど避難のあり方を見直していくべきだ」と話していました。