山大卒業の医師代表のNPO ガザ地区への医薬品支援が延期に

パレスチナのガザ地区でイスラエル軍による激しい攻撃が続く中、山形大学を卒業した医師が代表を務めるNPOが、多くの避難者が逃れている南部ラファにある公立病院に医薬品などの支援を決めましたが、戦闘や空爆の激化で延期を余儀なくされています。

神奈川県に拠点を置くNPO「地球のステージ」は山形大学を卒業した医師などが27年前に立ち上げ、ガザ地区や南スーダンなど過酷な環境で暮らす子どもたちの心のケアや国内での講演活動を行っています。

NPOの桑山紀彦代表は、20年ほど続けているガザ地区の支援で知り合った医師が院長を務める、南部ラファにあるナジャール病院に、けが人の手術などに使う鎮痛剤や抗生物質といった6種類の医薬品と食料品を支援することを決めました。

しかし、戦闘や空爆の激化で多くの避難者が逃れているラファでは、物価がふだんの10倍以上に高騰し、医薬品や食料品の確保が難航していることから、当初、今月10日に始める予定だった医薬品などの病院への搬入を今月下旬に延期せざるをえなくなったということです。

支援は、NPOへの寄付金などを活用するということです。

桑山紀彦代表は「病院は最後のとりでだ。医薬品や食料品が枯渇し、大勢の人が亡くなっている。検問所からガザ地区に入るわずかな物資をしっかり確保して病院を支援したい」と話していました。

【NPO「地球のステージ」】

ガザ地区への支援を続ける神奈川県海老名市のNPO「地球のステージ」は山形大学を卒業した心療内科が専門の医師、桑山紀彦さんが代表を務めています。

桑山さんが1996年に山形市で立ち上げ、ガザ地区や南スーダンなど過酷な環境で暮らす子どもたちの心のケアなどを行っていてミャンマーや東ティモール、ウクライナでも活動しています。

「心のケア」は、桑山さんの「人間の活動のすべては心が元気であることが前提で、その根本を支えたい」という思いから始まり、現地の子どもたちが集まって経験や思いを語り合ったり、絵を描くなどしてトラウマに向き合ったりする取り組みです。

また、国内では、現地の状況などを伝える講演会を1996年に山形市で初開催したのを皮切りにこれまでに全国各地で4000回以上開いてきました。

桑山さんは「『戦争』といっても自分ごととして捉える人は日本では少ない。講演という形で現地で起きていることを日本の人に伝え、停戦に向けた動きを少しでも後押しできるように民間の立場で活動を続けたい」と話していました。

【パレスチナ人のモハマッド・マンスールさん】

NPO「地球のステージ」の代表で医師の桑山さんがガザ地区の子どもたちの心のケアを20年前から続ける中で、14年前に出会ったパレスチナ人のモハマッド・マンスールさん(27)は、いま、NPOの現地スタッフとして働いています。

モハマッドさんは13歳のころNPOの心のケアを受け、自分が住む街の様子を絵に描いたときに色を塗らなかったことから、桑山さんが理由を尋ねたところ「空爆を受けた自分たちの街に色はない」と伝えたといいます。

桑山さんは、子どもながら自分の考えをはっきりと示したモハマッドさんの姿勢に驚き、それ以降、家族ぐるみでのつきあいを10年余り続けてきました。

この中で、モハマッドさんは「何よりも怖いことは飢えや乾きではなく、世界から忘れ去られることだ」と訴えたといいます。

桑山さんはこのことばを胸に、ガザ地区などの状況を伝える国内での講演活動にさらに力を入れるようになったということです。

モハマッドさんは、大学を卒業後、NPOの現地スタッフとして働いていて、ラファの学校での子どもたちの心のケアを担当し、支援物資の手配や写真と映像の撮影も行っています。

桑山さんは「モハマッドはわが子のような存在で、心のケアを受けたからこそ、人の心の痛みがわかる人だ。厳しい状況の中でも、ベストを尽くしてくれる」と話していました。

【モハマッドさんの訴え】

モハマッドさんは、イスラエル軍による地上侵攻が始まってから、毎日メッセージアプリを使って、桑山さんに写真や映像を送って現地の状況を伝えています。

モハマッドさんが現地時間の今月13日に桑山さんに送ったメッセージでは「今の状況はこれまでの戦争とは違い、水や食料など、生きるために必要なものが全くない。南部ハンユニス方面からの避難者がラファに逃れてきていて、小麦粉を2週間ほど探しているがほとんどなく、在庫を見つけても価格が12倍になっている。これほど悲惨な日々は想像もしていなかった」と伝えています。

また、現地時間の今月15日のテレビ電話では「状況は極めて悲惨で、ラファなどはことばでは言い表せないほど激しい空爆にさらされている。ナジャール病院の状況は極めて悪く、食料品と医薬品の援助を待ち望んでいる。ガザ地区の人たちを救うための支援物資は数日のうちに運び込まれるだろう。ラファ検問所に加えて、別の検問所からも入れられるようになる」などと病院への早急な支援が求められていると訴えていました。

【マルワン院長のビデオメッセージ】

子どもたちの心のケアや医療支援などの活動で、ガザ地区をこれまでに40回余り訪れてきた桑山さんは、先月12日、14年の親交がある、南部ラファの公立病院、ナジャール病院のマルワン院長から、ビデオメッセージを受け取りました。

この中で、マルワン院長は「ラファの街と病院の状況は壊滅的で生活必需品は何もない。病院で使う物資の量も増え、医薬品や医療機器の必要性が高まっている。日本の人たちは常に私たちを支援してくれたし医療であれ、救援であれ、皆さんからの援助を心から望んでいる」などと訴えています。

マルワン院長は、鎮痛剤「トラマドール」や消毒液「ベタジン」、抗炎症薬「ケトロラク」など、戦闘や空爆でけがをした人の治療に使うための6種類の医薬品のほか、入院している人たちの食料品の支援を求めていました。

桑山さんは「最後のとりでである病院に医療品が行きわたり、消毒液や麻酔薬を含む鎮痛剤を使って手術ができるような環境づくりに励みたい」と話していました。

【延期の経緯】

桑山さんが代表を務めるNPOでは、南部ラファの公立病院、ナジャール病院のマルワン院長からのビデオメッセージを受け取ったあと、先月中旬から医薬品と食料品の支援に向けた準備を急ピッチで進めてきました。

医薬品や食料品はガザ地区への物資の搬入が限られる中、現地調達するほかなく、NPOの現地スタッフのモハマッドさんが手配を続けています。

NPOによりますと、当初、今月10日に支援物資をナジャール病院に搬入する予定だったものの、ラファの物価がふだんの10倍以上に高騰し、医薬品や食料品の確保が難航していることから、搬入の時期をいったん見送りました。

このあと、現地時間の15日、改めて物資を搬入しようとしたものの、現地は激しい戦闘や空爆でけがをした人や避難してきた人などで混乱していたことなどから、ふたたび、延期を余儀なくされました。

NPOは、今月下旬に医薬品や食料品を搬入したいとしています。

医薬品や食料品は、国内からの寄付金や、日本のNPOやNGOの活動を支援している「ジャパン・プラットフォーム」からの資金あわせて700万ほどを使って購入するということです。