“紀州のドン・ファン” 遺産13億円 遺言書は有効の判決

“紀州のドン・ファン”とも呼ばれた田辺市の会社社長が、生前に書いたとされる全財産を田辺市に寄付するという内容の遺言書をめぐり、親族が遺言書の無効を求めた裁判で、和歌山地方裁判所は、「遺言書に記載された文字の筆跡は本人の筆跡であるとみて相違ない」などとして、親族の訴えを退け、遺言書を有効とする判決を言い渡しました。

6年前、田辺市の会社社長、野崎幸助さん(当時77)が自宅で急性覚醒剤中毒で死亡した事件では、元妻の須藤早貴被告(28)が、殺人などの罪で逮捕・起訴されています。
野崎さんの死後、全財産を田辺市に寄付するなどと書かれた遺言書が見つかり、市が13億円余りにのぼる遺産を受け取るための手続きを進めていますが、野崎さんの親族は、遺言書は、本人以外が作成した可能性が高いと主張し、遺言書の無効を求める訴えを起こしていました。
21日、和歌山地方裁判所で行われた判決で、高橋綾子裁判長は、コピー用紙1枚に赤色のサインペンで手書きされた遺言書の体裁について、「本人固有の筆跡あるいは癖が認められることから、遺言書に記載された文字の筆跡は本人の筆跡であるとみて相違ない」と指摘しました。
そのうえで、「長年にわたって田辺市に1000万円を超える寄付を行い、寄付を継続する意向を示すなど、その一連の言動は、市に遺贈するという内容と矛盾しない」として、遺言書を有効とし、親族の訴えを退ける判決を言い渡しました。

【田辺市“主張認められた”】
判決のあと、田辺市は会見を開き、「市の主張が認められた」などとする、真砂充敏 市長のコメントを発表しました。
会見では、はじめに、田辺市契約課の宮野恭輔 管財係企画員が、「ほっとしているというのが率直な感想だ。遺言書は有効であると信じて事務を進めてきた」と述べました。
そのうえで、市の歳入となる遺産について、田辺市の西貴弘 総務部長は、「具体的な活用方法はまだ決まっていないが、市民全体へ還元できるような行政活動に活用していきたい」と述べました。
また、真砂市長のコメントを発表し、「遺言書が有効であるという市の主張が認められた。引き続き適正な対応に努めたい」としています。

【原告代理人弁護士“残念な結果”】
判決を受けて、原告の代理人弁護士を務める渥美陽子 弁護士は、オンラインで取材に応じ、「遺言書が有効だとする判決の内容は、非常に粗雑で筆跡が本人のものだという理由づけも不合理だ。原告にとって残念な結果で控訴に値する案件だと感じた」と話しました。
今後、控訴するかどうかについては、親族と相談して判断したいとしています。

【遺産はどうなる】
相続について定められている民法では、遺産が自治体に寄付される場合でも、妻や子どもなどには最低限相続できる遺留分を規定しています。
今回のケースで、判決が確定した場合は、田辺市がおよそ13億2000万円の遺産を受け取ることになっても、妻だった須藤早貴被告は、そのうちの半分のおよそ6億6000万円を相続することができます。
ただ、民法では、相続を受ける人が相続される人を故意に死亡させたとして有罪が確定すると、その相続人は遺産を受け取る資格を失うとされています。
遺産相続に詳しい大阪弁護士会の山田和哉弁護士は、「殺人の罪で実刑判決が出た場合、須藤被告は相続の資格を失い、田辺市がすべての遺産を受け取ることになる」と話しています。

【殺人事件は今】
6年前(2018年)、和歌山県田辺市で会社社長の、野崎幸助さん(当時77)が自宅で急性覚醒剤中毒で死亡しました。
野崎さんを殺害したなどとして、3年前(2021年)、元妻の須藤早貴被告が殺人と覚醒剤取締法違反の罪で起訴されています。
これまでの捜査では、スマートフォンの解析などで事件前に覚醒剤の密売人と接触していたとみられることなどがわかっています。
検察は状況証拠を積み重ねることで、有罪の立証は可能と判断したとみられます。
野崎さんの不審死に須藤被告が関与したのかどうか、今後、裁判員裁判で審理される見込みですが、裁判を前に証拠や争点などを絞り込む「公判前整理手続き」は、おととし(2022年)8月までに6回にわたって行われました。
この事件の裁判の日程は決まっていないということです。