スペースワン 目指すのは「宇宙宅配便」

スペースワンは、世界的に市場の拡大が見込まれている小型衛星の打ち上げビジネスへの参入を目指し、人工衛星の開発に関わるキヤノン電子と、ロケットの開発に関わるIHIエアロスペース、それにゼネコンや金融機関のあわせて4社が出資して、6年前(2018年)の7月に設立されました。
スペースワンには、これまでJAXAや民間企業でロケットや人工衛星の開発に関わってきたエンジニアなどが集まり、独自の発射場の整備や専用のロケットの開発を進めてきました。
そのロケットで目指すのが「宇宙宅配便」というサービスです。
「カイロス」と名付けられたロケットは、固体燃料式で全長およそ18メートル。
人工衛星を低コストで、高い頻度で打ち上げ、まさに「宅配便」のような輸送サービスを提供することを想定しています。
スペースワンは、2030年代のはじめには、年間30機を打ち上げたいとしています。
商業衛星の打ち上げの需要はいま、世界的に高まっています。
なかでも、複数の人工衛星を同じ軌道に打ち上げて一体で機能させる「コンステレーション」と呼ばれるシステムに注目が集まっていて、次々に小型の衛星が打ち上げられています。
例えば、アメリカのイーロン・マスク氏の宇宙開発企業「スペースX」は、衛星通信サービスのための衛星をおととし(令和4年)だけで1632機も打ち上げています。
これは、おととし打ち上げられたすべての人工衛星のおよそ7割にあたります。
こうしたなか、スペースワンは、「小型衛星」に的を絞った輸送サービスを提供し、国内外で新たな需要の開拓を進めようとしています。
そのためにも、人工衛星を確実に打ち上げてきたという実績が重要で、すでに受注している3つの人工衛星の打ち上げにまずは成功し、実績を重ねることが求められています。

【宇宙政策の専門家 “宇宙産業の競争力向上へ”】
現在、国内で人工衛星を打ち上げることができるのは国の主力ロケットの発射場である鹿児島県の「種子島宇宙センター」と、「内之浦宇宙空間観測所」の2か所だけです。
目標としている年間の打ち上げの回数はそれぞれ種子島で6回、内之浦で2回と限られているうえ、「H3」や「イプシロン」などの国の主力ロケットは失敗すると原因究明や対策に時間がかかるため、科学探査などが年単位で遅れる事態も起きています。
串本町の「スペースポート紀伊」では、2030年代に年間30回の打ち上げを目指すとしていて、今回の打ち上げが成功すれば国の主力ロケットを補完する形で日本の宇宙開発がより安定して進められるようになると期待されています。
宇宙政策に詳しい笹川平和財団の角南篤 理事長は「場所や天候の条件、それに搭載できる衛星の種類などが違う発射場が増えれば打ち上げの回数を確保でき、日本の宇宙産業の競争力を高めることにつながる。地域の発展という意味でも、成功すれば優秀な人材や物流の拠点が和歌山に集まり、宇宙産業の集積につながっていく可能性がある」と指摘していました。