那須烏山市の那珂川で治水対策の「霞堤」の建設始まる

栃木県那須烏山市を流れる那珂川で、堤防の一部をあえて開けて水をあふれさせることで下流の大規模な氾濫を防ごうとする「霞堤」の建設工事が、今月から始まっています。

「霞堤」は、川の上流で堤防の一部をあえて開けておき、大雨のときに増水した水をあふれさせることで下流の水位を下げて、氾濫を防ごうとする対策です。
令和元年10月の台風19号では那珂川が増水して下流の茨城県で堤防の決壊が相次ぎ、水戸市などで大規模な浸水被害が出たことを受け、国が進める緊急治水対策の一環として、上流の那須烏山市に建設されることになりました。
「霞堤」の工事は、今月から市内の下境地区で始まり、川沿いの現場では大型の建設機械を使って、堤防用の土を盛るための掘削作業などが行われています。
工事を担当する常陸河川国道事務所によりますと、那須烏山市の「霞堤」は全長1.8キロにわたり、数年後の完成が見込まれているということです。
常陸河川国道事務所の伊藤克雄副所長は、「霞堤の建設によって、那珂川流域で洪水のリスクを軽減することにつながるので、地元の住民には、その目的や効果を粘り強く説明していきたい」と話していました。

栃木県と茨城県を流れる那珂川では、令和元年10月の台風19号で堤防の決壊や氾濫が相次ぎ、下流の水戸市などで大きな被害が出たことから、緊急の「治水対策プロジェクト」が進められています。
このプロジェクトは、流域に堤防などの施設を建設する「ハード対策」と、住民の迅速な避難などを進める「ソフト対策」の両方からなり、今の計画では、令和8年度までの8年間に810億円あまりの事業費をかけて、国と2つの県、それに流域の自治体が取り組むことになっています。
この中には、増水した川の水をあえてあふれさせることで大規模な氾濫を防ぐため、上流に「霞堤」や遊水池を整備することや、浸水が想定される地域で、土地の利用を制限することなどが盛り込まれています。
那須烏山市では、このプロジェクトの一環として、「霞堤」の建設のほか、下境地区を含む2つの地区で、あわせて108世帯の住民に、まとまって安全な場所に移り住んでもらう「防災集団移転」の計画が進められています。

「霞堤」の建設が進められている那須烏山市の下境地区では、4年前の台風19号で、那珂川の水があふれて、住宅およそ70棟が水につかる被害が出ました。
この地区では、過去にもたびたび同じような水害が起きてきたことから、住民は、国などにより強固な堤防を建設してもらえるように要望してきたということです。
しかし、地元に建設されるのは住民が要望した堤防ではなく、下流を守るための「霞堤」となり、この地区では、住民にまとまって別の場所に移り住んでもらう「防災集団移転」の計画が進められることになりました。
このため、地区の住民は複雑な思いを抱いているということで、「下境地区」の自治会長の両方恒雄さんは、「霞堤を作っても、地域は守られないという思いがあるし、なぜ下流のために犠牲にならないといけないのかと考えている人もいる」と話していました。