住民参加の防災訓練 県内自治体の約9割3年間中止や規模縮小

地震や大雨などの災害に備えて、自治体が地域の住民とともに行う防災訓練について、栃木県内の25の市と町のうち、およそ9割が、新型コロナの影響によって、この3年間、1回も実施できていなかったり、規模を縮小していたりしていたことがわかりました。
専門家は「全国的な問題で、自治体の防災力低下につながるおそれがある」と指摘しています。

自然災害に備えて、自治体が地域の住民とともに行う防災訓練の実施状況について、NHKは栃木県内の25の市と町に取材しました。
それによりますと、新型コロナの影響を受けたこの3年間で、全体の3割以上にあたる8つの自治体が1回も実施できなかったと答え、6割にあたる15の自治体は、参加する住民の人数を大きく減らすなど、規模を縮小して実施したと答えました。
また、感染症法上の位置づけが5類に移行したことしに入っても、従来の規模で訓練を行ったか、これから行う予定だと答えた自治体は、全体の半分以下の9つにとどまっていました。
このうち、今月10日に突風が発生し、住宅などおよそ90棟の建物に被害が出た野木町も、この3年間で実施した訓練は、規模を縮小して行った去年の1回のみでした。
突風の当日は住民からの通報に追われ、県をはじめとする関係機関との情報伝達などに、課題を残したということです。
地域防災に詳しい京都大学防災研究所の牧紀男教授は「新型コロナで訓練ができていないのは全国的な問題と言える。特に職員の数が限られている小規模の自治体は、コロナの対応に手をとられていて、自治体の防災力低下につながるおそれがある」と話しています。

野木町は、この3年間で住民が参加する防災訓練を去年の1回しか行えず、参加人数も当初の想定の3500人から、400人ほどに限定していたと答えました。
従来は大雨や地震などを想定して住民の避難訓練を実施していたほか、役場内でも担当の職員が、被害の連絡を受けて、県などの関係機関に情報を伝達するなどの訓練を行っていたということです。
町内では今月10日に突風が発生し、およそ90の建物で、住宅の屋根が飛ばされたり、倉庫が壊れたりする被害が相次ぎました。
このとき、町には住民からの被害の通報が次々と寄せられたことで職員が対応に追われ、被害の全体状況の把握が遅れたほか、災害時にすみやかに求められている県への報告も遅れ、発生から3時間近くが経過したあとになったということです。
野木町の真瀬宏子町長は、「初動で町の対応に欠落した部分があった。新型コロナの影響で、災害時に町民が命を落とすことにつながってはならないので、しっかり反省して学んでいく機会にしたい」と話していました。

人口1万4000人あまりの那珂川町は、この3年間で1回も、町が主催する防災訓練を実施できていなかったと答えました。
町はその理由として、新型コロナの影響だけでなく、ここ数年で職員全体の負担が急増していることをあげています。
町によりますと、新型コロナワクチンの手配や、マイナンバーカードの受け付けなどに人手を取られ、ことしは防災担当の職員を、これまでの4人から3人に減らさざるを得なかったということです。
さらに防災担当の職員も、日ごろは道路ミラーの設置など、交通安全や防犯活動の業務に追われて、訓練の準備をする余裕を持てていないということです。
こうしたこともあり、先月、町に土砂災害警戒情報が発表されて、土砂崩れなどが相次いだときも、被害の全体状況を把握するのに時間がかかり、課題を残したということです。
那珂川町総務課消防防災係の水井巧主事は、「業務量が増える中、さまざまな業務を掛け持ちして防災を担当している。今の職員の数ですべての業務を行うには限界がある」と話していました。